第327話 ラトリム村防衛戦 その5
数百メートル先では激戦が繰り広げられていた。常人では考えられないような身体能力を有する者同士の戦いは余波だけでも周囲に影響を与える。
サイクロプスが棍棒を振り下ろし、ジェシカさんが防げば衝撃波が空を駆け抜ける。それは容易に大地を捲り、近くの魔物を巻き込んで殺す。
逆にジェシカさんが攻勢に出れば振り下ろされた大剣はサイクロプスの腕に防がれる。しかし剣から放たれる飛ぶ斬撃は地面に一筋の傷を付けながら直線状の魔物を真二つにする。
サイクロプスとの戦闘は10分が経過し、いよいよ終盤に差し掛かっている。
「剛破斬! 全く硬いねぇ」
再度、ジェシカさんの攻撃が放たれる。迫る大剣を腕で防いだサイクロプスは笑みを見せてから片手で棍棒を振るう。その攻撃を引き戻した大剣で弾いてからまたもジェシカさんが攻撃を加える。
この攻防の繰り返しが今まで続いてきた。だが常人離れした体力、身体能力すらも持つジェシカさんをしてもスタミナ切れが近づいている。攻撃のキレが悪くなっているのがその証拠だ。
スイッチしたいところだが私も私で魔物の処理に翻弄されていて動くことが出来ないでいる。状況はひっ迫する一方で終わりの兆しが見えない。せめてもう少し人数がいれば、そう思わずにはいられない。
ユーリウスさんがいればサイクロプスにも勝てるだろうし、彼のオリジナルスキルがあれば大量にいる魔物の足止めすら可能なはずだ。
「クソ、流石に間に合わないか!」
導魔で足を切り落とし、硬魔で脳髄を砕きながら次々に魔物を行動不能に陥らせているがそれでも足りない。
縮地を使って瞬く間に距離を移動し、近場の魔物を斬りつける。強化された身体能力を以ってすれば攻撃を貰うことは無いがそれでも全てを守るには足りない。
「グぁああ!」
悲鳴がした。それはジェシカさんのものだ。少し目を離した隙にサイクロプスの攻撃を受けてしまったらしい。どうにか受け身をして追撃を受けずに済んだようだがあの体では数分と持たずに殺られてしまう。
支援は届かない、勿論デバフの類もそうだ。私が向かおうにもこの数の魔物を放置して向かうことは村の壊滅を促すだけの行為に他ならない。
どうするべきか思考を潜らせているとジェシカさんが両手で剣を構えた。
「ここで負けてらんないよ」
今まで以上の魔力が立ち昇って行くのが見える。ユラリユラリと陽炎のように揺れる魔力は次第にジェシカさんの下に戻って行き、大剣と身体に絡みつく。ユーリウスさんが見せた魔力による身体強化だ。
確かに強力な一手かもしれない。ただし、ユーリウスさんが使った身体強化と同じなら魔力切れまでがタイムリミットになる。それが過ぎれば今までのようには戦えない。
「行くよ!」
ジェシカさんが剣をサイクロプスに向ける。サイクロプスも今からの攻防が激戦になることを本能で察したのだろう。棍棒を地面に叩きつけると咆哮をした。大地が揺れ、大気が震えるような咆哮は開戦の合図となった。
ジェシカさんが飛び出す。たったそれだけの動作で地面が爆ぜる。地面を踏み込む度に罅が入り、サイクロプスとの距離を詰めてから大剣を振った。応戦するようにサイクロプスも棍棒で迎撃をする。
大剣と棍棒がぶつかり衝撃波が地を駆ける。その余波は私の下まで届き、それでも止まらず村の防壁を微かに揺らした。
「今がチャンスか」
ジェシカさんたちの戦いは魔物たちの目を引いている。そのため一時的とは言え魔物の行進が止まった。
縮地で距離を詰め導魔で斬る。オリジナルスキルのおかげで強化中の攻撃は容易に足を斬り飛ばした。首を狙わないのは魔刃を使っていても体格差から攻撃が難しいためだ。それに行動さえできなくしてしまえば後はデヴィッドさんが矢や魔術で止めを刺してくれる。
次の魔物に目標を移し、メタモルフォーゼを発動。瞬く間に武器が送還され、右手に槍が出現する。それを投擲し動き始めたオークの一体の腹を穿つ。
ヤツの体積に比べ槍で攻撃できる箇所などたかが知れているのでダメージは少ないが槍は貫通し後続の魔物にもダメージを与えている。一度しか使えない手札だが牽制には役立つだろう。
魔物共が本格的に動き出す前に最低限数を減らしておこう。またもメタモルフォーゼで樹王と導魔を呼び出し、魔刃で刀身を伸ばして攻勢に出る。8体ほど攻撃をした辺りでやつらが行進を再開した。
「クソ、思ったよりやれなかった」
魔物が動き出したのを見て悪態を吐いてしまう。いかんな。多少はやれたがまたも後方から魔物が来ている。スキルを使ってもハッキリと見ることは出来ないがオーガかハイオーガだろう。一体いつになったら終わるのか。
「これで終わりだよ! 四連地破斬!!」
どうやら向こうも決着が着いたようだ。隙を見てジェシカさんがいる方を見れば三枚おろしならぬ五枚おろしにされたサイクロプスが光となって消えていった。
ジェシカさんは剣を地面に刺して肩で息をしており、疲労困憊であることが一目瞭然だ。だがまだまだ敵は多い。
「敵の増援だ!! サイクロプスもいるぞ!!」
挟撃を提案しようとして口を開くと私より先にデヴィッドさんが地平線の先を指してそう言った。
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