第322話 誤算
何故ここに? そんな疑問が生じるがそれを口に出すより早く、合点がいった。周囲を見渡せばここがラトリム村だったからだ。
「ゼロさんがどうしてここに? 魔の森に残ったのではないのですか?」
「簡単に言うと死んだからですね。私たち訪問者は死ぬと教会で復活するので」
「あ......そうだったんですね。ごめんなさい」
「いえ、気にしてませんから。ところで少し騒がしいようですが」
耳を澄ませば村の外から怒号が聞こえてくる。それに近くを見ても村人がいない。
「それが魔物がこの町に向かって来てるんです」
「スタンピードですか?」
「多分そうです。私ではあれなので今ユーリウスさん呼んできますね。ちょっと待っててください」
そう言うとモニカさんは門付近に走って行った。
しかし王都で復活する予定がまさかラトリム村で復活になるとは。昨日ここの教会に寄ったことでリスポーン地点が変更されたのだろう。想定外の事態だ。それに今から魔物が攻めてくると言うなら私一人で王都に向かうのも止めておいた方が良さそうだ。
どうやらユーリウスさんたちはいるようなので彼らと協力してスタンピードを収めてから王都に向かうのが良いな。
モニカさんを待っているとフレンドから連絡が来た。送り主は教授だ。内容は今からでも会いましょうと言うものだ。ラトリム村に死に戻ったことで教授に会えるかアポを求めたことを忘れていた。
返信はどうしたものかと悩んだが手違いで王都に戻れない事とPK、スタンピード、そして首謀者である悪魔についての情報を送ることにした。本当だったら直接会って商談といきたいが今はそれが出来ない状態なので清く諦める。
情報は鮮度が大事だ。今から王都に戻るまで秘蔵していたら価値が下がってしまう。
「やあ、ゼロさん。モニカから話は聞いているよ。とりあえず村長宅で話をしようか」
教授からの返答が来るよりも先にユーリウスさんが来た。魔の森の時と同じ完全武装なので既に戦闘は始まっているのかもしれない。私は頷いてから彼の後を追うことにした。
暫くして村長の家に辿り着く。中に入ると村長のジーテスさん、神父のクメロさんがいた。私とユーリウスさんは村長に座るように言われ、彼らの前に座る。
先ほどまでこの三人で話していたのだろう。私に配られたコップからは湯気が出ているのに彼らの物からはそれが見られない。
「ゼロさんが来たことだし、今まで僕たちが話してたことを簡潔に言うとだね、この村にスタンピードが起こりその対処を頼めないかってことさ」
「つまり沈静化の手伝いと言うことですね?」
「そう言うこと。僕たち銀翼は村の防衛に参加するつもりだよ。ゼロさんはどうする?」
「私も参加しましょう。ですがギルドからの帰還命令はいいんですか?」
「ギルドも承諾済みさ。銀翼には移動手段が馬車しかないからね。帰ろうにも難しいんだ。それに民間人を守るのも僕たちの仕事だよ。まあ、モニカがいるからって理由もあるんだけどね」
ユーリウスさんの言う通りモニカさんがメンバーにいるからと言う理由もあるだろうが銀翼をもってしても王都への帰還は難しいのか。単騎で王都に向かうならいざ知れず馬車となると守りに割く手間もあるから仕方ないのかもしれない。
「んん、と言うことはゼロ殿はこの村の防衛に参加してくれると思って大丈夫かの?」
「微力ながら参加させてもらいます」
「本当に良いのか? ギルドを通した依頼じゃないのだぞ? こう言っては何だが防衛の適正料金を払うことはこの村には難しいのだ。勿論出来る限りの報酬は払う」
「ああ、そう言うことですか。報酬金の方は気にしないでください。もしジーテスさんが気にすると言うならこの防衛が終わったら私の勇姿でも広めてください」
「勇姿? そんなことでいいのだったら」
話は終わったとばかりにユーリウスさんが立ち上がる。それに続き私も立つ。ペナルティーを受けていて全力は出せないが白黒があるのでそこいらの魔物相手でも後れは取らない。
「この恩は決して忘れない。是非この村のために力を貸してくれ」
「私からもお願いします。戦いでは役に立てませんが回復なら任せてください。神官としての役目を果たします」
「任せてください。損害無しにとは行きませんけど勝利は約束します」
「ええ、最前線は訪問者である私に任せてください」
これ以上の言葉はいらないだろう。私はユーリウスさんの後を追って村長宅を出た。するとユーリウスさんが歩きながら質問を投げかけた。
「魔の森にはゼロさんでも敵わないやつがいたのかい?」
「まったく手も足も出ないことは無いですがヤツと戦うなら万全な状況でないと確実に殺られます。ただそいつが来るとしても王都でしょう」
「それを聞くと王都に戻るのを躊躇っちゃうけどね」
あはは、とユーリウスさんが笑う。
「そうだ。ユーリウスさんは悪魔について何か知っていますか?」
「悪魔だって? 何故それを今?」
一瞬にして目つきが真剣になる。そして身に纏う空気も先鋭化された。
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