第321話 逃れられない死
赫刀が樹王を斬り飛ばし、私の首を刎ねようとした。しかし、万象夢幻の白護によって全エネルギーを奪われ、停止する。
久遠の表情には納得の色が見えた。既に万象夢幻の制約と効果を把握したのだろう。夏のイベントが始まる前に手の内が割れたのは痛手だが今なら続く一撃が来ようとも防げる。
樹王に魔力を込める。多くのアーツを使い、私のMP残量は底を突き始めている。闇属性魔術のアブソープやエンチャント・マナスティールを使ってちょくちょくMP回復はしているがそれでもMP回復ポーションの回復量に比べれば微々たるものだ。
樹王の刀身が元の姿を取り戻していく。樹王・再誕、正しくその名に相応しい再生能力は数秒と掛からずに刀身を蘇らせ、過剰の魔力によってさらに硬化する。
今の位置からは久遠の首は狙えない。刀を振るった影響で左腕が私の前に来ているからだ。ならばその腕を落としてやろう。オリジナルスキルであろう刀を戻したことからも分かる通り、ヤツは赫刀を片手で扱うことが出来ない。それもあの長さ、それに比例しているだろう重さを鑑みれば納得だ。
攻之術理 昇龍
樹王の切先を天に向け、全力を以って切り上げる。たったそれだけの動作に全神経を集中させるのだから威力は相当なものになる。後隙など考えない肉を切らせて骨を断つを体現した術理だ。
魔力の発光は軌跡を描く。天に昇る龍が如く。
樹王が久遠の左腕に食い込み、半ばで止まる。全身全霊の攻撃を以ってしてもまだ足りないのか!
「おらぁあぁぁ!!」
最後のMPを振り絞る。ステータス画面のMP欄が一瞬にして0になった。それと同時に樹王が薄暗い紫色に煌めく。エンチャント・カースも相まって久遠が持つ赫刀よりも禍々しくなったがそのおかげかより一層とヤツの腕に食い込んでいく。そしてーー
「ッガァァァ!!!」
久遠の左腕が飛ぶ。絶叫は木霊して森中を駆け巡る。
攻之術理 死突
追撃のチャンスを見す見す逃したりはしない。右足を一歩下げ、重心を後ろに移してから霞の構えを取り、放つ。先の攻撃が効いたのか赫刀が消え、無手の状態に陥った久遠は防ぐことが出来ず突きによる攻撃を喰らう。
「楽しかったぜ。続きは後日やろう!」
手ごたえは無かった。腕を落とされる前から逃げる気だったのだろう。樹王が久遠を突くより速く横に回避すると落とされた左腕を拾って間合いの外に退避した。そしてこちらのことを一瞥もせずに森の中へと消えていく。
「......」
こうなることはなんとなく分かっていた。私は樹王を腰に収めると闇子に視線を向ける。
「だから久遠を誘うのは反対だった」
「死ぬ前にスタンピードの情報を吐く気はあるか?」
「ない。あなたも苦しめばいい」
散々な言われようだがこれ以上スタンピードの情報を集めるのはやめにしよう。赤の雨幹部であるこいつが口を割る訳がないし、何より久遠との戦闘で殆どMPを使いきってしまった。それにまた数で攻められたら質問をしている暇もないだろうからな。
「...そうか。では、な」
黒茨の槍を拾い、無抵抗に立っている闇子の心臓を突き刺す。最後まで何かあるかもしれないと内心構えていたが何事もなくあっさりと槍は闇子を貫いた。
「ッぐぅ。これでお相子」
槍に突かれながら闇子が言った。やはり、まだ何か残っていたか!
デスペナを与えようと攻撃したが裏をかかれた。これだからオリジナルスキルは面倒臭い。一々全ての可能性を考慮しなければいけないのだから。
闇子の背後が黒に染まる。そこから現れたのは8本の呪布。その全てにびっしりと呪詛が描かれており、見るだけでも呪われそうだ。
「次は負けない」
その言葉を最後に闇子は光の粒子となって消えていく。だが闇子が死に戻っても8本の呪布は消えていない。
私が生きて帰るにはこれをどうにかしないといけないのか、そう思ったのも束の間、一切認識できない速度で呪布は私に絡みついた。逃げ出そうとしても抵抗など出来ない。呪布は私を拘束すると徐々に黒の穴に戻って行こうとする。
どうにか剥がそうとするがまるで私の身体に同化しているかのように剥がすことは出来ず、終には身体の一部が闇に呑まれ始めた。
痛みなどは一切感じないがこれに呑まれたら最後、死は確定だろう。まったく、とんだオリジナルスキルを隠し持っていたものだ。それでも必ず誰かを道連れにするのは赤の雨らしいと言えばらしいのだが。
そんなことを考えながらも徐々に視界は黒に染まっていき、呪布は私を闇に引きずり込んだ。
身体に感覚が戻ったことを自覚して目を開く。すると私は長椅子に凭れかかっていた。
「ステータスオープン。...デスペナか」
先ほどの闇に呑まれる現象は夢ではなかったようだ。ステータスを見ればしっかりと3時間のペナルティーが入っている。
ステータス画面を閉じると私は立ち上がった。デスペナは痛いが王都なら3時間程度直ぐに過ぎるだろう。戦闘が起こったとしても私以外に大勢のプレイヤーがいるわけなので攻防が激化するまでは情報収集が主な仕事になる。
そうと決まれば教授に魔の森での話をするべくアポを取っておこう。
「あれ、ゼロさん?」
「モニカさん?」
フレンドメールを飛ばしながら扉に手を掛け、開くと目の前にはモニカさんがいた。
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