第320話 勝機
先の攻撃について思考を巡らす。万象夢幻の黒失が発動したのだから物理攻撃ではない。そして当たり前ではあるがステータスを見てもHPは減っていない。しかし、思い返せば久遠と戦闘を開始して直ぐに黒失が発動した時もHPは減っていなかった。あの時は黒の十字架が10個召喚されていなかったのにだ。
それに左腕を落とした攻撃もそうだ。今のと同じ追撃だった。
やはりこれが久遠のオリジナルスキルなのだろう。だとすれば刀はどうなのかと思い直すが刀を召喚するだけなら可能で他の特殊効果を発動させるには制約を満たせていない可能性がある。
何はともあれ今の攻撃がオリジナルスキルである可能性が高い以上余計な攻撃は禁物だ。だが同じくオリジナルスキルである可能性が高いからこそ攻撃の手を止める訳にもいかない。
結果、私が取った行動は攻めの一手だ。
剣術、体術それらを以って久遠に挑む。その動作1つ1つの合間に魔術を挟み、白黒を成長させていく。
この戦闘が始まってから見えない攻撃は都度3回発動している。これは逆に3回しか発動していないとも取れるのではないだろうか。今が戦闘からどれほど経過しているかは不明だ。それでも最低10分は経っているのは確定なのだからあの見えない攻撃にも時間的な制約が組み込まれていると見て良さそうだ。もしこれらが全てブラフだったら...それは考えないようにしよう。
攻撃を避けてお返しに一閃、さらに返す刀で一閃。それでも久遠には大した効力を発揮していない。これでも白の十字架は残り数個で上限まで増えるのだが...。
久遠が刀を振る。真一文字を描く軌道は屈むことで対処できる。だが足を止めることは出来ない。何故なら一拍と置かずに久遠の攻撃が来るからだ。真一文字からの繋げは単純に袈裟斬り。しかし、赫刀は刀身が長いため後方に退避するのではなく、左に向かって大きく跳んで回避する。
そこに闇子の支援が飛んで来る。やはり注意を払うべきは拘束系のデバフだけだ。なのでパラメータ減少系のデバフは躊躇せずに受けていく。それでも避けられるものや相殺できるものは確実に対処するのを忘れない。
闇子がオリジナルスキルを使った後もデバフが入ると私に掛かっている全デバフの効果が上昇しているのでわざわざ受けてやる必要はないからだ。ただ白黒が優秀過ぎるのか白の十字架数個でパラメータ減少のデバフ効果は打ち消せている。
電撃が迫る。それを樹王で対処すれば後隙を久遠が詰めてくる。
上段からの攻撃。しかし、魔力を纏わせた樹王で往なす。パラメータが上昇したおかげか樹王の硬化能力も強化されているようだ。そのおかげで打ち合えないまでも往なすだけなら破壊されずに済んでいる。
歩之術理 縮地
強く地面を蹴る。それだけで超強化された肉体は神速の域に辿り着く。
攻之術理 震撃
久遠に接近し、掌底を放つ。ヤツは左腕を眼前に構えて防御の姿勢を見せるが震撃の前ではノーダメージでやり過ごすことは出来ない。ヤツに私の掌が触れてから遅れて衝撃が解放される。
「ッチ! 硬いか」
手応えからして減らせたHPは1割もいっていないだろう。即座に出せる術で最も威力を重視したのだがこれでは埒が明かない。久遠を殺る前に私が力尽きそうだ。
「ブラックアウト」
術理での追撃は仕掛けず、魔術を発動させる。黒が目の前を飲み込む。これだけ近距離で発動すればまず回避は出来ない。殴り神官の強みはこれに尽きるな。だからと言って今は気を緩めてはいけない。
ゴォウ、そんな音を鳴らしながら赫刀が振られる。私の攻撃では大してHPを削れないのにヤツの攻撃は私を瞬殺できるのだから不条理を感じずにはいられない。まあ、今の私のHPで言えば闇子にポイズンを掛けられても死ぬ程度には低いので関係ないのだが。
それはそうと迫りくる刃に樹王を添えて往なす。簡単な話だ。刀は横からの攻撃に弱い。それでも真下から強撃しないのには理由がある。それは力の押し合いでは私が負ける可能性が高いからだ。逆に大太刀は繊細な力の制御を苦手とし弱い力でも軌道を逸らすことが出来る。
赫刀が右に逸れ、地面を切り裂く。やはりか。ヤツの得物が変わったのはある意味幸運だ。刀は扱えても刀身が180近くある大太刀は扱ったことが無かったか。
この機を逃すわけにはいけない。
「エンチャント・レッドアップ」
ダメ押しに光魔術を発動させる。赤いオーラが私を包み込み、白の十字架が出現する。これで白の十字架は20個上限まで召喚されたことになる。
狙うは久遠の首。幾らヤツのパラメータが上がっていたとしても私の全力なら通るだろう。やりきれなければ手痛い仕返しを喰らうことになるがそれでもこのチャンスを逃すのは愚行だ。
位置合わせに半歩だけ踏み込む。樹王は最上段で構える。視界の右端で久遠の腕が動いたのが見えた。今なら回避が間に合う。だが、それでは次にいつチャンスが来ると言うのだ。
攻之術理 降龍
魔力の軌跡を残しながら樹王が降ろされた。全てを斬り捨てる意思を以って放った一撃は、しかし久遠には当たらない。引き戻された赫刀で防がれてしまったからだ。さらに赫刀は樹王を斬り捨てるだけでは止まらなかった。
吸い込まれるように私の首に引き付けられ...直撃。万象夢幻の白護が発動。白の十字架が10個消失するのと同時に白黒によるバフの補正値が半減する。
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