第323話 ラトリム村防衛戦 その1

 辺りを緊張感が包む。


「ゼロさんは悪魔を知っているのかい?」

「悪魔がどういうのか知りませんが魔の森にいたPK、訪問者なのですがそいつらがスタンピードに悪魔が関与していると言っていたもので」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。それってさっき別れた後の話だよね」

「そうですが...」

「それは......ヤバいかもしれない。直ぐにギルドに連絡した方が良い」


 そう言うが早いかユーリウスさんは魔道具を起動した。悪魔はそれだけ危険な存在なのだろうか。


『こちら冒険者ギルド。どのような用件でしょうか?』

「銀翼のユーリウスだ。至急ギルド長に変わってくれ」

『ギルド長ですか? 申し訳ありませんが用件が分からない事には。ギルド長も忙しい身なので』

「銀翼に誓って」

「...了解しました。ギルド長に代わります。少々お待ちください」


 何かの合言葉だったのだろう。数分としないうちにウォルターさんが出て来た。


『どうしたユーリウス、火急の用件のようだが?』

「先ほどゼロさんと合流してのですがそこで悪魔に関する情報を得たようです」

『なんだと!? 悪魔? そこにゼロがいるのか? 代わってくれ』


 ウォルターさんも悪魔と聞いて気配が変わる。魔道具越しながらその様子が分かった。


「代わりました、ゼロです」

『まずはご苦労。早速で悪いが依頼の報告をしてくれ』


 急かすようにウォルターさんが話を求めてくる。私はなるべく詳細に魔の森での出来事を語った。


『......なるほどな。その話が本当なら今回のスタンピードの異常さに納得がいく。悪魔が出るとは思わんかったが...しかし、タイミングが悪い』

「タイミングですか?」

『いや、それはこっちの話だ。ところでゼロは王都に戻って来ていないのだな?』

「ええ、それが手違いでラトリム村で復活することになってしまいまして。しばらくはこの村で防衛を行ってから王都に戻る予定です」

『そうか、分かった。王都は今のところ無事だから他の村々に注意を払ってくれ。俺は今から王城に行く。もし用事があるならアークのヤツに伝言をしておいてくれ。それと悪魔の話は他言無用で頼むぞ』

「あ...。すみません、ウォルターさん、悪魔の情報、訪問者の情報屋に伝えてしまいました」

『おいおい......マジかよ。あれか教授殿のところか?』

「ええ、そうです」

『分かった。何とかならないか職員を派遣するがもう遅いかもな。民間人に不安を抱かせるのを防ぎたかったが仕方がねぇ。そんじゃ、お前たちの無事を祈る』


 そう言うと魔道具での通信が切れた。教授に情報を売ったのはまずかったか。とりあえず、教授に事情を伝えておくとして今のところ王都は無事なようなのでこの村の防衛に専念しよう。


 それにしても悪魔について詳しい情報を得ることは出来なかった。ユーリウスさんに情報を聞こうにも稀に出現する強大な存在と言うことしか分からないと言われた。


 悪魔と言えばワールドアナウンスにも出ていた七大罪が関与していそうだがもしかしたらそいつがスタンピードの首謀者なのだろうか。それに久遠が持っていた赫刀、あれも悪魔が関与している可能性がある。あれだけ強力な武器だ。可能性としては十二分にあるだろう。


「ゼロさん、行こうか。相手はオーガとかの亜人系だと思うけど数が想像以上に多い可能性があるからね。僕たちがいても負傷者が出ずに完勝ってのは難しいよ。早めに戦場を知っておいた方がいい」

「そうですね。私もペナルティーを受けていますし、オリジナルスキルも私以外は効力がなさそうですから確認は早い方が良いですね。ところで魔物はもう来ているんですか?」

「ゴブリンとかの浅い場所に出るやつだったら来てるね。でもそれくらいだったら村の自衛団で対処できるから問題はこの後だね。中層以降の魔物が出るようなら僕たちの出番だよ」


 話を聞く限り今はまだ激戦と言う訳ではないようだ。しかし、βも含めて防衛戦に参加するのは初めての試みだが無事に乗り切れるだろうか。たまたま遭遇したがイベントとしては難易度が高いのではないだろうか。

 助っ人として銀翼のメンバーがいたとしてもこの人数、ユーリウスさんの言う通り完勝はまず難しいと見て間違いない。幾らかの住民は王都に避難したと言ってもここにはまだ100人ほどの村人が残っているのだから。


「リリーカースさん、この方がゼロさんです。僕と同じAランク冒険者で魔の森深部にも潜れる凄腕ですよ」

「おお、そりゃ助かる。俺はリリーカース、この村で自衛団長を務めているもんだ。今回の防衛戦では責任者も務めているから何かあれば俺に言ってくれ」

「これはご丁寧にどうも。私はゼロと申します。紹介にあった通りAランク冒険者で教会所属の訪問者です」

「教会のもんか。すまんが俺たちが怪我を負ったら任してもいいか?」

「ええ、勿論です。それにこう見えても戦闘は得意ですから前線に送ってもらっても大丈夫です」

「はは、そいつは頼もしい。もしもの時は頼りにさせてもらうぜ」


 この戦いでやることは多いだろうが王都で防衛線を行う前に予行練習といこうではないか。

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