第318話 赫刀

「チェストッ!!」


 踏み込みと同時に声を上げて久遠が近づいてくるのが分かった。しかし、地に足を着けていないのだから防御することはおろか、避けることも出来ない。


 間に合えと心の中で叫ぶ。周囲がスローモーションに置き換わる。ゆったりと時間が流れる中、私と久遠の距離が縮まり続ける。


 ヤツの間合いに入る。まだ私の体躯は地に届かない。


 一閃。


 銀光が煌めき、光子が散る。


 ......正に間一髪。僅かに遅ければ私の左腕は確実に持って行かれていた。いや、その時は腕ではなく首だったかもしれない。


 攻撃による負傷によって血のように光子が私の腕から漏れる。幸いか、出血などのスリップダメージは入っていないが今の攻撃だけでも1割と少し程HPが削られてしまった。


「惜しいな。殺りそこなったぞ?」


 感覚がなくなった左腕をだらりと垂らしながら久遠に言う。すると久遠は残念そうな、それでいて嬉しそうな音色で応えた。


「ああ、残念だ。今ので腕一本じゃ闇子にどやされちまう」

「腕だッ!?」


 『腕だと?』そう続けようとして驚愕から声を失った。久遠は何もしていないはずだ。勿論闇子も手を出してこなかった。それなのに...光の奔流が左腕から生じる。


 そして、ドサリ、そんな効果音を奏でて私の左腕は地面に転がった。


「な、ん...だと?」

「言っただろ? オリジナルスキルだよ。俺のレベルは80だぜ?」

「お喋りはいい。ヘルオーラ」


 全ての行動を差し置いて闇子のアーツ宣言が為される。久遠の攻撃に集中しすぎて魔力視を解除していたのが仇となった。再度魔力視の強度を上げると地面から黒色の魔術陣が滲み出てきた。これは魔術陣隠蔽のスキルの可能性が高いな。


 放さず手に持っていた黒茨の槍に魔力を纏わせ、展開された魔術陣の内魔力が集まりだしている箇所を貫く。すると魔術陣は砕け、ヘルオーラは展開する前に消失した。


 多くの疑問が生じるが今は隙を見せる訳にはいかないと判断して槍を闇子に投擲、そのまま居合の構えで導魔を呼び出すと久遠目掛けて振り抜く。


「良いぞ! 後少しだ! もっとやろう!!」


 導魔の攻撃を刀で防ぐとやはり嬉しそうに久遠が吠える。


 導魔が久遠に押され、弾かれる。しかし、攻撃の手は緩むことはない。上段からの振り下ろしに繋げ、弾かれては突きに移行、アーツによるカウンターを喰らっても導魔を捨て硬魔に持ち換えることで対処する。


 左腕を失った分をカバーするように威力ではなく、手数を生かすように立ち回る。これが出来るのもメタモルフォーゼのおかげだが十数合と交えるうちに遂に万象夢幻の制約が解除された。


 一歩距離を詰めると同時にアーツを選択。息をするように拘束割をしながら攻撃を続ける。ここに来て闇子の援護も激しさを増し始めた。私が魔術を使えるようになったことでこれ以上時間を与えてはまずいと判断したからだろう。


 だが、避け、突き、往なし、斬りつける。この一つの動作全てが白黒を成長させることに繋がる。


「ホーリープリズン...ヘルオーラ」


 早口でアーツ宣言を行いながら久遠を追い詰める。極力効果が発動すると直接害になるアーツを使うことで反撃の機会を与えないように動く。


 光の柱が立ち昇り、久遠を牢に閉じ込めようとする。しかし、魔術陣が既に出現していることで展開する位置がバレており、避けられてしまう。そこに追撃を仕掛けるように久遠の後方に展開されていた魔術陣から瘴気が溢れ、大地を侵す。それでも全方位を警戒していた久遠に避けられる。


 そう、それでいい。白黒を成長させる時間を与えてくれる行動は儲けものだ。


 追撃を与えてくる攻撃がオリジナルスキルだと考えるとこのまま戦っていても次に攻撃を受ければ死に戻りは免れない。どうにか私のHPは全損せずに保っているがそれでも残り1割を切った。腕を落とされたのに思っていたよりダメージが小さかったのが幸いしている。


 硬魔と久遠の刀が鬩ぎ合い、白黒による強化を行っていても僅かに押し負ける。その隙を突かれ久遠が回転蹴りを放つ。咄嗟の判断で硬魔を間に挟むことでダメージ自体は無効化で来たが衝撃までは往なせなかったため後方に吹き飛ばされる。


「感謝する。これで俺はさらに強くなれる」


 即座に体勢を直し、追撃を捌こうと得物を構えるが久遠が攻撃を仕掛けることは無かった。何をと思えば、その場から動かずに今まで使っていた刀を地面に突き刺した。それは僅かな時間を置いてまるで幻であったかのように消える。


「■■■■■■が言った通りだ。 あ? そう言うことか、まぁいい。ゼロ、俺はお前に負けてからより研鑽を積んできた。だが、この戦いはどうだ? 闇子の手があっても勝てていない」


 久遠が目の前の空気を掴む動作をする。


 ソレは今まで見て来たどの武器の中でも一番禍々しく、荒々しく、そして美しかった。空間と言う鞘から出されたその刀は黒色の柄に朱色の刀身を持ち、刃渡り180はあろう。


 所謂大太刀に分類されるソレを久遠はゆるりと横に薙ぐ。それだけ周囲の樹々は両断された。一切の抵抗を見せず切れていく様はそれが当たり前であるかのように錯覚させた。闇子を見れば彼女も驚きに目を見張っている。


「闇子」

「何?」

「オリジナルスキルの契約でもより上位者の契約なら無効化できるようだぞ」

「どういうこと?」

「お前たちとの契約は破棄されたと言うことだ」

「それじゃあ...作戦はどうするの?」

「これ以上は俺が知った事ではない。だが、時が来ればゼロは俺が殺る」


 そう言うと久遠は赫刀を構える。


「全部お前のおかげだぜ。■■■■■■もお前に興味があるみたいだ」

「何と言っているのか分からんな」

「気にすんな。それより、コイツの試し斬りをさせてくれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る