第317話 闇子のオリジナルスキル

 槍に完全移行した私は穂先を久遠の足元に向けながら受けの構えを取る。万象夢幻の制約が発動した時は死に戻りを確信したがどういう訳かまだ生き延びることに成功しているのだから防御に徹し、制約が解除されるのを待つのが無難だろう。


 久遠も刀を構えながら様子を窺っている。私から攻撃を仕掛けることはしないので暫し硬直状態が続く。それを破ったのは闇子だ。先ほどから魔術を展開しているのは分かっていたが動けば久遠に隙を突かれるため見す見す見逃すしかなかったわけで、そのおかげと言うべきか随分とまぁ殺る気が高いことに軽く10を超える魔術陣が展開されている。


 闇子がアーツ名の宣言を開始する。唯一の救いは同時発動では無かったことだ。それでもこの数のデバフを捌きながら久遠に隙を見せないと言うのは正直私では不可能なのでパラメータ減少系のデバフに関しては許容することにする。


 突如私の足元に肩幅程の魔術陣が出現した。色は黒。闇子の仕業と見ていいだろう。そしてこの大きさからしてヘルオーラではない。他に該当するアーツと言えばバルネラブルだ。

 バルネラブルは半設置型のデバフだが術者の力量によっては移動しても追尾してくることがある。多分神官の二次職、それも闇属性魔術に特化した邪神官である闇子ならば勿論その程度のことは容易くやってのけるはずだ。


 侮っているつもりは無かったがここまで腕が立つやつだとは思わなかった。敵ながら天晴れだと褒めるべきだろうか。それほどまでにバルネラブルの発動タイミングとその前に発動されたデバフのタイミングがマッチしている。


 残された時間が少ない中最善手を模索する。バルネラブルを許容すればデバフ群の中でも拘束系のモノは対処できる。

 逆にバルネラブルを発動させないように立ち回るとその他のデバフを身に受けることになる。それが招く結果の内、最悪のパターンはやはりパラライズやスタンを受けることだろう。ならばやることは一つしかない。


 黒茨の槍に魔力を込めて茨を生み出す。拘束するためではなくリーチを広げるために使うのは初めての試みだが魔力で構成されている茨なら同じく魔力で構築されている魔術にも太刀打ちできるだろうと考えてのことだ。

 込められる限界までMPを込めたおかげか持ち手が長い鞭のように変形してしまったがこれはこれで迎撃にはもってこいの形態ではないだろうか。


 槍を振るう。それに追随して茨が旗のように靡き、向かって来るデバフにぶつかって行く。しかし、茨を長くしたせいか耐久力が非常に低くなってしまったようでデバフを1つ相殺するごとに1本また1本と茨も消失していく。

 出現した茨は8つであり、それらは全てデバフを相殺しながら消滅した。残るデバフは4つだ。その中にスタンがあるのだから私の運の悪さは折り紙付きだな。


 まだスタンが残っているようならバルネラブルの対処などしている暇は無い。茨の召喚にはリキャストタイムがあるようでMPを込めても茨が出てこない。それならばと槍に魔力を纏わせる。

 横目で久遠を見ればヤツも動き出していた。タイミングから言って闇子のデバフが全て私に届いてから接敵するはずだ。


 まずは槍を横に振るいスタンを消失させる。続いて槍をかち上げ、突き、もう一度突きを放ちその他のデバフも対処した。数十と来れば厳しいが4つ程度なら何ていうことは無い。


 一息つきたくなるが横から鋭い攻撃が飛んできたので屈むことで回避し、反撃に久遠の足元目掛けて槍を突き出す。だが片足を下げることで回避される。続く攻撃として穂先を切り上げるが柄部分を横から刀で打たれ、軌道がズラされてしまう。


 流石は純戦士。STR値が相当高い。それに私のSTRが下がっているのも影響しているのか。どちらにせよ力負けをしている私では踏ん張ることなど出来ず、黒茨の槍が横に弾かれる。

 だがヤツは些か力を込めすぎたようだ。左足を軸に弾かれた力を回転エネルギーに変える。相手から攻撃されても自身の攻撃に繋げてしまえば常に攻勢に出られると言うものだ。


 攻之術理 廻一閃


 槍を右回転しながら振り払う。タイミング的にもこの攻撃で久遠には一度距離を取ってもらいたいところだが...私の思惑通り強く地面を蹴ることで久遠が後退した。今の攻撃を防いだとしても押し勝てないと悟ったのだろう。


 既に闇子が準備したバルネラブルは発動している。

 久遠がちょっかいを掛けて来なければギリギリ発動阻止できたかもしれないがこればかりは仕方がない。レジストに成功するにせよ、失敗するにせよ最悪の場合でも状態異常への耐性が下がるだけなので攻撃を続けるべきだ。瞬時にそう判断を下し、縮地を使おうと右足に力を込め、終にデバフの判定が終わった。


 結果はレジスト失敗。


 眼前に生じていた半透明の双角錐が粉々に砕け散る。これで余計にパラライズなどの拘束系デバフは受けられなくなったな、そう思いながら最初の一歩を踏み出そうとしてーー


 同時に闇子が笑う。


「雨垂れ石をも穿つ、私のオリジナルスキル。5つのデバフを掛けると発動する。効果はデバフの上昇」


 踏み出そうとして、僅かに身体が弛緩する。それは縮地において最もあってはならないこと。


 完全に初動が狂ったせいで踏み込みに失敗し、私は身体を宙に差し出した。

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