第314話 制約

 PKたちが光となって消えていく。オーガの変異種も同様だ。


「久しぶりだな、ゼロ」

「確かにあの大会ぶりか」

「お前がここに来た理由はなんとなく想像がつく。だが、まずは楽しもう!!」


 久遠が刀を構えると駆けだす。私は居合の構えを取ることで反撃の姿勢を見せるがヤツは止まる気配を見せずに近づいて来る。


 久遠の刀と樹王がぶつかった。腕に荷重が加わり僅かに私が押される。


 このままでは危ういかと思い魔術陣を構築しながら後方に退避する。構築された魔術陣は黒。すなわち闇属性魔術だ。 


 僅かな待機時間を経て魔術が発動した。私が知る中では最速の待機時間を誇るポイズンだったが久遠は軽々と刀を振るって霧散させてしまった。

 まあ、これも想定内。次にポイズンに紛れさせて置いたライトを発動させる。ライトもポイズンと同等の待機時間を誇るので瞬く間に発動される。


 久遠はライトによる目くらましからの追撃を警戒してか後退した。ついでに白黒の条件が満たされ白の十字架が召喚される。ちなみに先のPK戦で成長した白黒は既に解除されている。システム的にはPKとの戦いと久遠との戦いは別だと判断したのだろう。


「お前らしい戦術だな」

「誉め言葉として受け取ろう。ところでお前たちはここで何をしている?」

「なんとなく分かっているんだろ? スタンピードを引き起こしてんだよ」

「勝手に喋らないで」

「別に良いだろうが。どうせ作戦は失敗してんだ」

「失敗だと? どういうことだ?」

「話はここまでだ。準備も出来ただろ? 続きをしようぜ」


 バレていたか。それにしても作戦が失敗とはどういうことだ? 詳しく聞く必要があるな。そのためにもこの勝負負けるわけにはいかない。


 待機時間が終了した魔術を発動させながら自ら久遠との距離を詰める。拘束割をしないで準備をしたため手数は非常に少ないが最善手だろう。


 STRを減少させるデバフが飛び久遠に絡みつく。そしてそのまま判定は成功し、デバフが入った。ついでに黒の十字架も召喚された。これで多少は押されることもなくなったと思いたい。


 先ほどの攻防で私が押されたことから分かる通り久遠のステータス傾向は完全に戦士よりだ。つまり物理攻撃力が高く、魔術攻撃力・防御力は低い。βの時も物理一途だったので魔術を警戒するなら闇子だけとなる。


 それにあの刀、おそらくオリジナルスキルだ。未だ刀を売っている所を見たことは無く、プレイヤーで作製出来た者もいない。ダンジョンアイテムなら可能性はあるだろうが魔の森に籠っているような久遠ならまずないと言える。


 攻之術理 死突


 樹王が久遠の喉を穿つように進む中、ヤツは余裕の表情で弾き返した。STR低下バフを掛けてもまだ足りないか。私が無駄な思考を挟んでいると久遠が鋭い追撃を行って来た。刀に依らない体術によるものだ。


 だがそんな攻撃、当たる訳がない。いや、当たったら白黒が解除されるのだから当たる訳にはいかない。


 タイミングを見計らって一歩だけ後退する。体術とはリーチが短い欠点を抱えている。そのためこれだけでも案外簡単に対処できてしまうのだ。


 腹目掛けて突き出された拳を回避し、反撃の手段を考える。が、それは無駄となった。


 避けられると思った攻撃がどういう訳か当たったからだ。いや、正確には違う。ステータス画面を覗いてもHPの減少が見られないのだから本来なら無視できる範囲のものだった。だが黒の十字架が消失したことで意識が持って行かれたのだ。


 その隙を久遠が見逃すわけがない。さらに一歩踏み出すと掌底を放った。


 思考を奪われ、避ける術を失った私にその攻撃を躱すことは出来ない。しまった! そんな感情が渦巻く中、何故かスローモーションのように迫りくるヤツの拳を見ることしかできなかった。


「っグ!!」


 痛みはないが反射的に声が漏れた。しかし今の一撃はかなり効いた。見れば私のHPは4割ほど削れている。


「なるほどな」


 中段で刀を構えた久遠が呟いた。ヤツが追撃を仕掛けて来なかったのは最初の掌底で私の動きが止まったことを警戒してだろう。私としては非常に運が良かったことだが次は無い。何せ今の攻防で私のオリジナルスキルの弱点を知られてしまったのだから。


「流石と言っておこう」


 死角から迫って来ていた紫電を斬り払いながら久遠に言葉を掛ける。


「バカか。自爆しただけだろ。それより腕落ちたんじゃねぇか?」

「むしろこっちに来て上がったと思っていたがお前に言われるんだったらそうかもしれないな」

「はぁ、お前が此処に来たって聞いて期待してたんだが目論見はハズレかねぇ」

「今がチャンス。話してないで止めを刺して」

「無茶言うなよ、闇子。幾ら俺でも瞬殺出来る程ゼロは弱くねぇ。それがオリジナルスキルの制約中のあいつでもな」


 まあ、バレているのは想定内だ。むしろ私にペナルティーが掛かっていることを知りながら攻めてこない久遠に感謝だ。


 さて、どうしたものか。不意を突かれ万象夢幻の白護と黒失が両方発動してしまい暫くはアーツが全て使えなくなってしまった。下手をしなくても勝機は薄いが...もう少し情報を得られるまでは死に切れんな。

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