第313話 PK再び
「悪魔だと? それより今は......流石にこの状況では絶望的か」
周囲を見渡すが辺りは嵐の影響で壊滅的な被害を受けており、最初に腕だけを切り落とした弓使いを探すのは困難になってしまっている。もしかすると魔剣使いの攻撃を受けて死んでいるのかもしれない。
折角の情報源だったのだがいなくなってしまったものは仕方がない。あの男の話によれば近いうちにPKの援軍が来るそうなのでそいつらに聞けば良いだろう。いや、それは無理があるか。
今回も楽に勝てる勝負だと高を括っていたがことはそう上手く進まなかったのでこれ以上の数で攻められれば負けが濃厚だ。
この先にあるだろうPKの拠点までは隠密行動で移動しよう。奴らの中には探索系のオリジナルスキル持ちがいる可能性が高いので何処まで隠れて進めるか分からないがこのまま王都に戻るにしては得られた情報が少なすぎる。
得られた情報は死んでも消えるわけではないので死ぬ寸前まで情報を集めることは今後のスタンピードで役に立つはずだ。
「とりあえず今は探索を進めるか」
武器を仕舞い、気配を絶って森の中を進み始める。魔剣使いの男が言った通り直ぐに援軍が来るのだとすれば探索など大して進まないだろうがもし見つからずに奴らの拠点に辿り着ければ儲けものだ。
暫く進むと森が大分騒がしくなってきた。と言うのも魔剣使いが行使した嵐の規模は大きく、音が森中に響いていたからだ。それにより魔物たちが先の戦場に集まりだしてしまっている。
それらの魔物は殆どがオーガやその上位種であるため滅多に群れで行動しておらず戦闘になることは無かったのは幸いだ。だが、私に戦闘が無かっただけで他の者たちは違ったようだ。
耳を澄ませば遠くで戦闘音が響いている。確かに魔物たちが集まれば困るのは私だけでなくPKたちも含まれる。特にソロで動いている私と違い奴らは集団で襲いに来ているのでオーガに見つかりやすいのだろう。
これは漁夫の利を狙うチャンスなので拠点の調査は一旦中止して戦場に近づく。魔物たちが勝つならスルーで良いがPKたちが勝つようなら生き残りの人数によっては奇襲を仕掛けて直接拠点の情報を聞いた方が良い。まあ、それも状況によって取る手段は変わるだろう。
「右の守りを固めろ!」
「魔術の準備が整った。5秒後に打ち出すから逃げろよ」
「タンクはハイオーガの足止めだけを考えておけ」
PKたちとオーガが戦っている戦場に近づくと戦場特有の熱気があった。樹々が邪魔をするせいで距離を詰めなければ様子を確認できないが奴らの声を聴く限り実力的には五分五分のようだ。
しばしの思考の末、戦闘が見える範囲まで近づくことにする。バレる確率は格段に高くなるが声だけではPKが何人いるのか判断できないからだ。
ただ、もう少し時間を置いてから行くとしよう。オーガの集団を押し付けられたら堪ったものでは無いからな。
「硬すぎるぞ! 増援はまだか!!」
「もう少しで来る。それまで耐えろ!!」
「遠距離組は気を引き付けるだけでいい。絶対にヘイトを買いすぎるなよ」
「回復を飛ばせ。前線の維持は絶対に崩すなよ!!」
時間にして10分ほど経った時、戦況が動いた。
この10分間は奴らに近づかずに声だけから情報収集を行っていたがどうやらPKたちが戦っているのはただのオーガではなくオーガ・ホプリゾーンだったようだ。つまり強化種であり、通常種とは比較にならない程の強さを持つ変異種の1体だ。
そのため20人を超える集団でありながら苦戦しており、聞いていた限りでは既に5人が死に戻っている。しかし、遂にPKたちに援軍がやって来た。私からすれば3軍目となる集団だがPKたちの信頼は厚いようでリーダー的存在であるのだろう。確かにそれは私の知るPKだった。
「援軍が来たぞ!」
「よし! これで勝てる!!」
「遠距離部隊は俺がヤツを怯ませたら集中砲火を叩き込め」
「了解です、久遠さん」
「私もいる。ヒーラーは負傷者の回復、バッファー、デバッファーは支援」
「闇子さんも来てくれたんですか!」
「勝てるぞ!! お前ら気を張れや!!」
久遠。ヤツとはβテストの大会で何度か当たったことがある。上位プレイヤーしか狙わず辻斬りの異名を持ち、さらに私が知る限りではPKの中でもトップの実力を持っている。ついでに闇子は赤の雨と呼ばれるPKクランの幹部だ。
だがどうしたものか。このまま戦闘が進めば問題なくオーガ・ホプリゾーンは倒されてしまう。そうすれば20を超えるPKが私を探すわけで......逆にこれはチャンスか?
久遠や闇子がこの場に来ているのなら拠点の防衛戦力は低下しているはずだ。その隙に拠点を攻めれば......しかし、拠点の場所が定かでない状態で下手に動けば挟み撃ちされ、結局なにも出来ずに死に戻りする可能性も考えられる。
ならば奇襲を仕掛けるしかない。久しぶりに久遠と戦うのも面白そうだからな。それにあいつは案外口が軽いためPKの内情をポロリと話してくれるかもしれない。
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