第312話 PK戦 その8
「お前相手に手加減なんかすれば俺も死ぬかもしれねぇ。それにそろそろ時間だぜ、ゼロ。俺が死のうと後続の連中にお前は殺される。だが! 他の奴らにお前を殺らせたりはしねぇさ!!」
そう言うと男は様子見だと言わんばかりに魔剣を一閃した。風を纏う魔剣は空を切り、魔術を生み出す。風が鳴り、何かが飛来する。魔力視の強度を上げることでどうにか朧げに輪郭を窺うことが出来るそれは鎌鼬だ。
捌き切れないと瞬時に判断し、リフレクトを盾にする。鎌鼬がぶつかるたびに盾は削れ、四度目の攻撃を受けた時に砕けた。それでも鎌鼬の攻撃は続く、しかし、その数は残り2つ。導魔を振れば鎌鼬は消滅した。だが、手に伝わる衝撃は今までの比ではない。迎撃をミスればダメージを負いかねない程だ。
「まだまだ行くぞ!」
背後に気配が生じると同時に男が吠え、魔剣を突き出してきた。その攻撃を前転することで躱すが危機感知が警鐘を鳴らし続けている。僅かに目をやれば空気の塊がこちらに向かって来ていた。
今の体勢では相殺させることは出来ないと判断し、避けるために男を中心に円を描くように走る。幸い追撃効果は無かったようで風の球は地面を抉るだけに止まった。
全く面倒なオリジナルスキルだ。男が続けざまに剣を振るうと今度は剣と槍が6本ずつ生み出された。計12の武器を模った風は一斉に射出され私に向かって来る。
私は一度息を吐くと腰から硬魔を抜き取り、自ら魔術の群に突っ込んだ。
このまま攻撃を避け続けることは勿論可能だ。さらに言えば相手のMPを尽きるのを待てば確実に勝つことが出来る。しかし、それはあの男も分かっているはずだ。だとすれば追い詰めると不利になるのは私の可能性がある。
魔剣エレメントがどのようなオリジナルスキルかは詳細が分からない。だが、剣に纏わせた属性の魔術を使用できるのは判明している。そして一度に6つの攻撃が発動するのも分かった。
迫る風の1本目の剣を導魔で弾き、返す刀で2本目を砕く。重心が前に移るのを感じながら魔術を選択し、反動を利用して拘束割をしながら硬魔を振るう。
硬魔とぶつかった槍は折れて霧散するがたった1本破壊した程度では意味が無い。
剣が2本、槍が3本同時に迫る。これは迎撃することは出来ない。しかし、それぞれが僅かに着弾速度が異なるため半身をズラして避ける。槍が真横を通り抜け、剣が首を切り裂くギリギリを通過する。
余裕があれば取り回しが容易な硬魔で防ぎ、剣と槍のそれぞれが2本になった時、魔剣使いの男が追撃の一撃、いや、六撃を放った。
轟々と渦を巻くそれは竜巻だ。それが6つ並んで侵攻してくる。巻き込まれたら一溜まりなく、周囲の土や石、枝を吸い込み肥大化した竜巻は近くにいるだけでダメージを及ぼすだろう。
そして私の後方に風の防壁を展開したところ見てもこの攻撃で確実に仕留めると言う意思が見える。さらにサークル系の魔術を使用しており、正しく用意周到と言える。
だが、その程度では私には勝てない。ヤツのオリジナルスキルの強みは一つの動作で無数の魔術を生みさせることだ。そのことを考慮すれば今の範囲攻撃による包囲攻撃も相当優秀だ。しかし、ことこの戦闘に限っては事情が異なる。
確かに範囲攻撃は万象夢幻の制約を誘発させるのに適した攻撃方法であるがヤツはそのことを知らないので意味は無く、魔剣エレメントに炎を纏わせ、待機時間無しで魔術を発動させることができると分かってからは範囲攻撃を特に警戒していた。
そのためサークル系の対策としてシールドを足下に展開し、移動用にリフレクトを準備している。
6つの竜巻が迫る中、リフレクトを行使して盾を呼び出す。ついでに残りの剣と槍はリフレクト間に噛ませて全て防いだ。MPを多めに込めたため今回は破壊されることなく防ぐことに成功している。
視界を埋め尽くす程の竜巻の行進だが私から男の姿は見えない。それはヤツにとっても同じことで竜巻は周囲の樹から葉や枝などを吸い込むため向かいを見通すことが難しくなっている。
それでも周囲の樹よりも大きい竜巻に呑まれればそれで勝負はつくのだから男の攻撃は末恐ろしい代物だ。
しかし、視界不良はPVPにおいて致命的な隙となり得る。何故なら魔物との戦闘のように戦闘が終わればアナウンスが流れると言う訳ではないからだ。つまり、本当に倒したのか分からない。
1つ懸念することがあるとすれば私が空中戦が出来ることを知られていることなのだが幸いにも男はそのことについて考慮していなかったようだ。一度使った時も樹の幹を利用するような低空戦だったのがフェイクになっていたのかもしれない。
と言う訳でリフレクトとシールドを巧みに使い上空に退避する。眼下では6つの嵐が森を蹂躙していった。あの場に止まっていれば確実に死に戻りをしていた。さらに嵐を突き破り男に近づいたところで今も注意深く待ち受けている男から魔術の飽和攻撃を喰らっていただろう。
「ク、ククク。アハハハ!! やったぞ! ゼロを倒してやったぞ!!」
「油断はいけんな」
「な!? 嘘...だ......ろ」
男が戦いの余韻に浸り、勝利の慟哭上げている最中、空中から降下して肩から腹にかけて斜めに切り裂く。上半身と下半身が分かれていくのを男は確認して驚きに声を上げる。しかし、その時には既に手遅れでありーー
「これで悪魔との契約もパーかよ。クソが」
そんな言葉と共に男は光となって消えていった。
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