第311話 PK戦 その7

 単体魔術は対処できないこともない。飛来する炎の剣と槍は魔力を纏わせた樹王で斬ることで相殺させる。


 縮地で男との距離を即座に詰める。一刀の下に断ち切ろうとして樹王を横に構えれば男は剣先を上に上げた。すると眼前に炎が立ち昇る。それはダンジョン攻略でもよく見たウォール系のアーツだ。アドオンによる変化はなさそうだが少しでも触れれば万象夢幻が発動してしまう。


 壁にぶつかるより前に重心を右に寄せて右前方へと抜ける。しかし、そこで待ち受けていたのは魔戦士の男だ。男は私が炎の壁を突破せずに横から出るのを想定していたのだろう。いや、よく見れば私が壁に突っ込んでも、左に抜けても魔術が待ち受けていた。故に私とヤツが剣を交えたのは偶然と言える。


 樹王と真っ赤に燃える剣がぶつかる。燃え盛る炎は魔術的な存在であるらしく、樹王を包み込むように炎を揺らす。しかし、樹王も魔力に対し親和性を持っているからか私が込めた魔力が炎とぶつかり合う。

 だが、それも一瞬。例え魔剣を生み出すオリジナルスキルを使おうとも白黒により強化を施した私とではパラメータの差がものを言う。


 男が地面と平行に飛んで行く。同時に私も縮地で距離を詰め、上段から樹王を振り下ろした。しかし、男は上段からの攻撃を受けるギリギリで剣を振るう。

 ぶつかる剣と木刀は金属の如き音を立て、またもや男が弾かれたように飛んで行く。さらに追撃を仕掛けようと足に力を込めると......男が消えた。


 ここに来てオリジナルスキルによる移転だ。

 気配の出現場所は背後。即座に振り返り、牽制にと樹王を振るう。手応えはない。見れば男は大きく後退をしていた。さらに男を見れば手に持っていた燃える剣を地面に突き刺している。


 本能が警鐘を鳴らす。スキルに反応はないが今は直感に従うべきだと判断し、宙へ跳ぶ。空中にてシールド足場にすることで立ち上がり、眼下を眺める。そこは灼熱の大地と化していた。サークル系のアーツだ。


「空中戦も可能ってか! ふざけやがって」


 地面に刺した剣を抜き、男は横凪に大きく剣を振るった。

 剣が地面から抜かれた直後、灼熱の大地は今までの姿を取り戻す。だが今度は森を焼き尽くす火災旋風が生じた。


「待機時間無しか。それに魔術陣もない」


 迫る炎の竜巻を見据え、居合の構えを取る。するとメタモルフォーゼの効果によって腰に導魔と硬魔が差さった状態で出現する。


 男が使ったオリジナルスキル、魔剣エレメントは魔術を待機時間、魔術陣の構築無しで行使できる効果であると考えられる。そして制約の一つは自身が保有している属性魔術のみを付与できると言ったものだろう。加えて魔術を発動するには特定のモーションが必要だ。


 迫る火災旋風を前に一時思考を止め、精神を研ぎ澄ませる。


 攻之術理 閃撃


 帯刀ベルトの輪を鞘に見立て、導魔を加速させる。鞘から導魔が刀身を全て出した段階で魔力を纏わし、魔刃を形成させる。瞬く間に刀身が3メートルほどまで伸び、重さを感じさせない軽やかな動きで斜めに切り上げる様に導魔を放った。


 魔力とは万能である。そう自身を騙す。

 師匠、ユーリウスさん、ジェシカさん、彼ら彼女らの戦いを間近で見ても魔力は戦いにおける重要なファクターとなっていた。魔力による圧倒的な身体強化、魔術ではない魔力を飛ばす技。これらは全て想像の産物である。魔力は意志に宿るとはデヴィッドさんの言葉だ。


 私の間合いを侵した竜巻は今も進行を進める。火の粉が舞い、周囲の温度を上げる。


 望みに応えるように魔力の刃は迫りくる炎の竜巻を切り裂いた。


 炎はまるで幻であるかのように空気に溶けていく。今までの熱さも、明るさも、全てが消えた。


 目の前に移るのは魔戦士の男。剣を振るったままの恰好で驚愕を顔に張り付けている。何故、この程度で驚いているのか。良く分からないが今が好機であるのには変わりない。

 男との距離を詰めるように走る。私が向かって来るのを見て男も次の動作に移った。両手で剣を持ち、胸の辺りで剣を掲げる。何かアーツを発動させるのだろう。そう思っていたが予想は裏切られた。


「雷よ」


 男がそう口にすると炎を纏っていた魔剣エレメントから炎が消え去り、雷を纏い始めた。

 バチバチと音を鳴らす魔剣を携え、男は剣を振り下ろす。虚空を斬った一撃は、しかし雷の刃を生み出し、私に向かって飛ばされる。それが都度二回。

 サンダーカッターに似た魔術を相殺し、間合いに入った男を両断するために導魔を振るえば男はその場から消える。またもや移転を使ったのだろう。気配が生まれた背後を振り返れば男は魔剣を掲げていた。


「土よ、水よ、風よ」


 男がエレメント、つまり五行をモチーフにしたのであろうオリジナルスキルを次々と発動させていく。


 雷が消え、魔剣の周りに礫が生まれ、礫が消えれば水が渦巻き、最後に水が消えて風を纏った。

 同時に五属性を纏うことは出来ないことに安堵し、何故一々属性を変えたのか疑問を持つ。だがその答えは直ぐに判明することになった。

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