第212話 売却と依頼 その1
「待たせたわね。買取は個室で行うわ。ゼロもその方が良いでしょ?」
「そうですね。数が数だけに個室の方が目立たなくて助かります」
51階層の攻略が終わったので街に戻ったのだがその後すぐにミサキさんから『今なら問題ないから生産職ギルドに寄ってくれ』と連絡が来たのでギルドに向かい、さっき程ミサキさんと合流した。話を聞けば今この街に来ているのはミサキさん、リアさん、ゴルジアナさん、ドガンさん、アル、そしてゾルの6人だけのようだ。他のメンバーも順次来るようだが日程が合わなかったという理由でこの6人が先行してこの街に来たとのこと。
理由はどうあれ早く来てくれる分には問題はないので私がとやかく言うことはないがミサキさんはバラバラに行動すると馬車代が安くならないと嘆いていた。はした金程度気にすることはないくらいには生産職としてで稼いでいるだろうに大手生産職のクランマスターともなると1バースたりとも無駄にすることはしないのか。もはや守銭奴と言われても仕方がないほどに金にがめつい気もするがそれ故に生産職もトップに立てるのだろう。
「さあ、中に入って頂戴。他のメンツが待っているわ」
ミサキさんに誘われるがままに工房の中に入っていけばそこにはいつものメンバーが各自作業をしながら待っていた。
「あら、ゼロちゃんじゃない。待っていたわよ」
ゴルジアナさんの強烈な挨拶を初めに次々と挨拶を交わし早速本題へと入る。残念ながらドガンさんに売るようなアイテムは手に入っていないので他のメンバーとの交渉だ。
「まずはゾルからだな。とりあえず私が所持しているアイテムの一覧を出すのからその中から必要なアイテムを言ってくれ」
「了解だ。......ふむ、この尋常じゃないアイテムの数については触れないでおくがそうだな全種類買い取らせてもらう。おい、ミサキ、私の持ち金では足りなさそうなのでクラン倉から金を貸して欲しい」
「それは良いけど、あなたの所持金でも足りないの?」
「足りんな。前にアイテムの購入で使い果たしたというのもあるがゼロが持ってきたものは全て上等級だ。錬金の素材だけでも100万バース以上は掛かるぞ」
どうやらゾルが買取る錬金術の素材になるアイテムは最低でも合計100万バースになるようだ。一日でこれだけ稼げれば普通のプレイヤーなら両手を上げて喜ぶのかもしれないが転移石を大量に買おうと画策している私としてはまだ足りないところだ。
「なるほどね。私にもアイテムを見せてもらえるかしら?」
ミサキさんは少しの考えの果てに何かを思いついたようだ。その後、私が展開しているディスプレイを覗きまた思考の海に沈んでいく。こうなったらミサキさんの中で最善の結果が出るまでは話しかけても無駄なのでその間に彼らと情報交換をしていく。
「ドロップアイテムだが今日の夜には今ほどではないにしろ多少は溜まると思うのだが買取可能か?」
「それは分からんな。ミサキのヤツが何やら考えがあるようだからそれによるんじゃないか?」
買取についてはミサキさん待ちか。それなら今、口にすることではないか。この間に他の事を済ませてしまおう。
「アル、前にも言っていたがこいつの修繕を頼む」
「あ、導魔ね。うわ~、ほとんど耐久値がないじゃん。これを完全に治すには少し時間が掛かるけど大丈夫?」
「明日の朝には修繕が完了していれば問題はない。いけるか?」
私の問いにアルはもちろんと答えて早速とばかりに導魔の耐久値を回復させるために作業に戻っていった。これなら明日の朝には導魔を受け取ることができそうだ。ただ、明日の朝にダンジョンから戻ってきているかが不明と言うのが難点だな。それと今思えば導魔の等級は上等級で防具の方は一般級なので防具も新調しても良い頃合いだ。ちょうどダンジョンで手に入ったアイテムは全て上等級なので後でミサキさんに依頼をしておこう。防具の素材はシルクパイダーの素材でいいとして装備の上昇値をINT以外で検討するのがいいかもしれない。
今のところバフの計算式に防具の上昇値が含まれていないからINTを上げることで魔術の威力を上げるよりも直でAGIやSTRを上昇させた方が賢いだろうからな。ついでにアクセサリーの方も新調してしまいたい。そっちの話はゴルジアナさんが担当なので前の依頼も合わせて今聞いておくか。
「ゴルジアナさん。前に頼んでいたアクセサリーはどうなりましたか?」
「ミスリルアクセサリーの事よね? 申し訳ないけどまだ完成していないわ。元の素材が希少級だけに下手に手を出すと等級が下がっちゃうのよ。だから、もう少し待って貰えるかしら?」
やはり素材の等級が問題になるか。ゴルジアナさんも二次職のプレイヤーだから希少級であるミスリルを通常通り加工できるはずだが加工できるのと完成品の等級を希少級に保つのはレベルを上げないと解決できない問題と言うことだな。ゴルジアナさんも自分の作品に妥協などするはずもないし、私も明日からは殆ど後衛職として動くことになるからゴルジアナさんの準備が万全な時に作成してもらえれば良いか。
「それでしたら。先にこのアイテムで一つアクセサリーを作ってもらえませんか?」
「あら? これはアーマーボアのレア枠ね? それに上等級のアイテムなのね。これだったら問題なく作成に取り掛かれるわ。何か要望はあるかしら?」
「いつも通りMP消費の緩和をメインに特殊効果の付与をお願いします」
「そうね。私もそれが良いと思うわ。このアイテムはミスリルと同じで魔力との親和性も良さそうだからどちらにせよ魔力関係の効果になると思うのよ。でも、大きさが大きさだからミスリルのアクセサリーと比べて効果は落ちそうだけども大丈夫かしら?」
話し合った結果、ミスリルのアクセサリーは後回しにしてアーマーボアのドロップアイテムである魔縮片を使ったアクセサリーを作ってもらうことにした。それとお値段の方は8万バース程だった。私が渡したアイテム以外にも材料が必要になるのでその代金も含まれているが本当だったら十数万バース以上取られてもおかしくはない依頼だ。あんな見た目だがゴルジアナさんは生産職のトッププレイヤーに入る実力者だからな。
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