第209話 VS リアクティブスネーク その4

 目を閉じて風景と言う名の情報を遮断する。今はただ、ヤツの噛みつきを待つのみだ。無駄なことはせずに気配察知、危機感知などのスキルの強度を上げて5分とこの場所を殆ど動かずにヤツが攻撃してくる瞬間を待っているのだが残念ながらその兆しは見えていない。

 その代わりに鱗という名の爆弾をただひたすらに射出するばかりだがそれを流々を使い片手を添えることで軌道をずらし私に直撃しないようにしていく。そして、ヤツの攻撃が終わって硬直がはいればMPポーションを服用しMPを回復させる。


 時には闇魔術や光魔術も行使するがそれは一切の効果を見せていない。光魔術は私に掛けたバフを更新するだけのものと成り果て、闇魔術は未だヤツにデバフを掛けられていないことからその存在価値を地に堕としている。

 焦ってはいけないと頭では理解しているが本能が速く動けと囁いてくる。この場において不利なのは私である。如何にヤツを確実に倒せる攻撃手段を保持していようがその手段が反撃すなわちカウンターでは有利とは言い難い。


 ヤツの攻撃はまだか。導魔を握る拳をさらに強く締め付ける。やはり噛みつき攻撃をさせるには何かトリガーが必要だったのか。ジリジリと焦燥感に煽られて私の心臓の鼓動が乱れ始めたのを感じ取る。その時だった。気配察知のスキルが反応したのは。鱗を飛ばす攻撃に集中するために目を閉じていたことが仇となりヤツの攻撃への対処が遅れる。


 だが、ここで焦ってはならない。自制心を高め、スキルにより脳内に直接与えられる情報から攻撃への対処法を模索する。ヤツの攻撃は尻尾の薙ぎ払いによる鱗飛ばし......に見せた本命は尻尾による薙ぎ払いだった。横に跳んで対処するのは余りにも無謀。確実に攻撃を喰らわずに避けるには空中に向かって跳ぶのが最善手だ。


 しかし、ここでふと本能が警告を告げる。これは罠であると。


 罠ならどのような罠か。フェイントにフェイントを重ねた攻撃だとして次はどのような攻撃が来る? 迫りくるリアクティブスネークの尻尾が残り5メートルを切った辺りでカチリと欠けていたピースがハマる。上空への退避。それにより生じる空中での滞空時間を利用した攻撃。数十分間ヤツと戦い続けまだ3回しか体験していない噛みつき攻撃発生の条件をヤツ自ら達成させようとしている。


 ならばこのチャンスを逃すわけにはいかない。この読みが外れている可能性はある。だが、今までの戦闘経験を含め私の本能が間違いないと訴えかけている。迫りくる壁とも呼べるリアクティブスネークの尻尾。それが衝突するギリギリで私は垂直に跳び上がる。縮地を応用した上空へ向けての踏み込みは〈白黒〉により強化された肉体を以ってその身を上空へと打ち上げる。


 空へと昇りやがて重力に引かれるように落下していく状態でヤツに目を向ける。すると、ヤツは自身の身体を蛇行するように曲げながら飛びつく姿勢に移ろうとしていた。内心ほくそ笑みそうになるのをこらえその瞬間を待つ。このままいけば数秒後にはヤツに呑まれることは間違いないだろう。その瞬間に備え私も意識を集中させていく。導魔に添えた右手は未だ離しておらず万全の状態を維持している。


 落下する身体も身体制御により常に重心を中央に移動させる。落下しながらも居合の構えは維持し続けたことでヤツには私が手を添えている導魔が良く見えていないことだろう。ヤツに知能があれば違和感を感じることができたのだろうがそれは叶わなかったようだ。今まさにその身の筋肉をバネのように収縮させ......解き放つ。瞬間的な加速度を得たリアクティブスネークは一瞬にして私の眼前に迫ろうとする。


 このままいけばヤツの腹の中に一直線だ。ゲームの仕様的に腹の中に入ってしまえば即死判定かもしれないのでまず呑まれると言う選択肢は存在しないが何かと位置が悪い。本来ならば噛みついてきたところを避け、腹から一刀両断が好ましいのだがこの状態からではヤツの腹に潜り込むことはできない。


 まあ、そのことは事前に把握していた。だから、私は他の手段に移る。膝を曲げ、体を屈める。そのまま重心を腹より少し上の胸あたりに動かせば自然と私の頭は下を向く。右足にはシールドを、左足は魔力を纏わせリフレクトを展開させる。この間わずかコンマ数秒。瞬きをするよりも速く態勢を整えれば今更私の罠にかかったことに気が付いたリアクティブスネークが進路を変更しようとするがヤツは既にその身を地面から離しているためそれは叶わなかった。


 ヤツと私の距離もいよいよ目と鼻の先程の距離になれば全力で縮地を使いシールドとリフレクトを蹴ってヤツの口目掛け飛び出す。その衝撃は大したMPが込められていなかったシールドとリフレクトでは耐えることもできず跳びだすと同時に粉砕するほどだった。


 攻之術理 虚刀・横断


 シールドを蹴る際に僅かに右の脚力だけ行為に強くしたため私の軌道は左にズレ、ヤツの噛みつきを紙一重で躱す。瞳に覚悟の色を宿し私に噛みつこうとしたリアクティブスネーク。対して極限の戦闘に戦意が滾る私の瞳が交差する。私の身体はヤツの胴体と水平になり、態勢が上手くとれない空中でそのまま腰を捻りながら虚刀により剣先を延長させ大太刀を模した導魔を横に振るう。


 横一文字に放たれた導魔はリアクティブスネークの腹の鱗に触れ一切の抵抗を許さぬまま肉を断ち、骨を断ち、そして最後に背の鱗を切り裂き、ヤツの頭と胴体をそれぞれ分裂させた。

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