第59話 イーコスウルフ戦 その2

 グガァァァァァァア!!


 イーコスウルフが吠える。

 今までの比ではないその咆哮は傍にいた一刀と不知火を吹き飛ばす。そして、私の周囲に漂っていた十字架が全て砂塵となり消えていく。


「っ!? 白黒が解除された。気をつけろ!!」


 不知火がヘイトアップを打ち直ぐにイーコスウルフのヘイトを取る。しかし、イーコスウルフの一撃は重くHPの2割が吹き飛んだ。

 白黒が切れたのも痛いがそれ以上に今のヤツは相当強化されている。早くバフ、デバフを使わなければ。


「一気に行くぜ、獣化!!」


 オリジナルスキルを使ったレオがイーコスウルフに攻撃を仕掛ける。

 獣化の効果も相まってギリギリではあるが攻撃を捌き着実にダメージを与える。


「イーコスウルフの後方からかなりの数のファングウルフが近づいてるよ!! この数はやばいね。ダブルショット......ダブルショット」

「ここにきて相手方もラストスパートをかけてきましたな。勝利は目前ですぞ! ファイヤーバレット」


 ここでファングウルフが邪魔をしてくるか。

 こちらがヘイトの分散をされると困る。レオの獣化の制限時間内にイーコスウルフを倒せなければ相当きつい戦いになることは確定だ。


「どうやらこのファングウルフは後衛を狙ってるみたいだ。クイックスライド......ダブルスラッシュ。少しは考える脳があるじゃないか」

「しまった!? すまん。ゼロ。ファングウルフに抜かれた。そっちに向かうぞ!!」

「気にするな。こっちで対処する。それとお前たちもファングウルフの処理は最低限でいい。イーコスウルフへの攻撃に集中してくれ」


 後衛が狙われるならちょうどいい。私がファングウルフを引き付けている間にあいつらにはボスを攻撃してもらおう。

 ぱっと見ただけでも数十体はファングウルフがこちらに抜けている。私の近くには聖もいるがどうやら先ほどからバフやデバフを掛けている私にその多くが向かってきているようだ。 


 守之術理 舞風


 最初に走り抜けてきたファングウルフの攻撃を右足を起点にして、避ける。

 そして、さらに飛び掛かってきたファングウルフを左足を起点に避ける。

 次に飛び掛かってくるファングウルフも、その次に飛び掛かってくるファングウルフをも全て避ける。

 まるで風に舞っているかのように動き全ての攻撃を躱していく。


「お前たちは直進しかできないのか? 魔物とは言え所詮は獣か」


 動物型の魔物に共通することとして直進での移動は早いが急には横に移動できないと言う欠点がある。

 ただ突撃してくる相手など避けるのは容易。だが、その分知恵は回るようだ。今度は私を包囲するように囲み、攻撃を仕掛けてきた。

 確かに包囲されれば広範囲に渡り回避をする舞風では対処が難しいだろう。だが、双心流の技は多様だ。


 守之術理 流水


 回避できる場所がないなら攻撃を往なしてしまえばいい。

 飛び込んでくるファングウルフに手をかけ、後方へ軌道をズラす。軌道をズラされたファングウルフは私の後ろを包囲していたファングウルフの群れに突っ込んでいく。


 グルゥゥゥガァァ!!


 1体では敵わないと分かれば数体で挑んでくるか。

 ボスに統制されているからか行動パターンが変わっている。だが、それでもーー


 守之術理 流々


 流々。それは流水を連続で行う技だ。だが、ただ敵の攻撃を後方に往なすだけでなく体の向きを常に変化させることにより、往なした敵同士を互いにぶつけることができる。


 攻之術理 地落

 

 ファングウルフが私に攻撃をするために跳び掛かってくる。しかし、跳び掛かりは空中にその身を差し出すことになる。

 そして、その時は無防備な体勢になる。その隙を逃さず上段からの攻撃で敵を地面に縫い付ける。




 ファングウルフとの戦闘中に白黒を発動させ続けたため既に最大まで私のパラメータは上昇している。そうなれば、レベル差も相まってファングウルフは一撃でHPが全損する。

 ここまでくれば後は対処が簡単だ。

 

 双之術理 連鎖


 ファングウルフの攻撃を避け、その反動で攻撃に転じる。さらに攻撃の反動を利用しファングウルフの攻撃を避ける。この一連の動作を鎖のように繋ぐ。

 決して止まることのないこの連鎖に対抗できる術を持たないファングウルフは徐々にその数を減らし、終には全てのファングウルフが地に伏せるのだった。


「ふぅ。これでこっちは終わったな。向こうは......そろそろ終わるか。最後に私も参戦しよう」


 歩之術理 縮地


 前に倒れる反動に加え、足に集中させた力を解放して最速で直進する。

 瞬く間に景色を流しながらイーコスウルフまでの距離を瞬時に詰め、運動エネルギーを乗せた渾身の掌底を放つ。


「ゼロもやっぱり前に出て戦いてえんじゃねえか!! だが、コイツを仕留めるのは俺だぜ!!」

「このままではゼロ殿に良いところを取られてしまいますな。吾輩も出し惜しみはやめますぞ。〈トリオマジック ピーラー赤・黄・青〉」


 私がイーコスウルフに攻撃を仕掛けると二人も負けじと今出せる最大の攻撃を仕掛ける。

 レオの獣化で高められた連撃とロードの三色に輝く光の柱に呑まれボスのHPが削れる。


「僕たちも負けてられないね。属性付与、属性解放、ヘビィショット!!」


 聖が風属性が付与され、アーツの効果で強化された矢を放ち、着弾と同時に範囲攻撃を繰り出す。

 一刀がイーコスウルフの攻撃を掻い潜りながら攻撃を加えていく。

 これでイーコスウルフのHPも残り僅か。


「咆哮がくるぞ!!」


 期待と緊張が織りなす瞬間、イーコスウルフが咆哮のモーションを取り、2度目の強咆哮を繰り出そうとした。


「この瞬間を待ってたんだ! 絶対防御!! やっとこれで俺も活躍できたぜ」

 

 グガァァァァァァア!!

 

 イーコスウルフが咆哮をすると同時に私、レオ、不知火の周りに半透明のバリアが張られ、攻撃の全てを完全に防ぐ。


 お前ならやってくれると信じていたぞ。不知火!!


 攻之術理 天駆


 イーコスウルフの顎を目掛け掌底を打ち出す。

 下段から天目掛け打ち出された一撃は脳を揺らし、掌底により生み出された衝撃がヤツの頭を貫く。


 そして......イーコスウルフは己の巨体を揺らし、崩れ落ちるようにしてその身を光の粒子に変えて消滅していくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る