第58話 イーコスウルフ戦 その1

〈ボスエリアに侵入しました。戦闘を開始します〉


 戦闘開始のアナウンスだけが周囲に響く。


「あれ? フィールドボスがいないね」

「油断はするなよ。既に戦闘は開始しているみたいだからな。......エンチャント・レッドアップ」


 辺りを見渡しても何もないただの草原が広がっている。


 アオオォォォーーーーン!!


 突如、草原に遠吠えが鳴り響く。そして、獲物を見つけたとばかりに一歩、また一歩と強者の風格を持った体長3メートル超えの狼が歩み寄って来る。

 

RACE:イーコスウルフ LV20

大気中の魔素により生まれた狼型の魔物。音を増幅する特性があり、その鳴き声により多くのファングウルフを呼び寄せる


 どうやら敵のお出ましだ。

 鑑定から分かった情報によればレベルは私たちの方が高い。だが、説明を見る限りかなり多くのファングウルフを呼び寄せるみたいなので注意しなければいけない。


「一番乗りはいただくぜ!! ダブルスラッシュ」

「そんなに先を急ぐな。ゼロの支援を受けないと孤立するぞ」


 先制の攻撃はこちらが貰った。レベル差が殆ど無いからか敵のHPバーは目に見える勢いで削れていく。


「吾輩たちも忘れないでもらいたいですぞ。〈トリオマジック ソード赤・黄・青〉」

「その通りだね。ショット......ヘビィショット」


 二人に続きロードと聖も攻撃に加わる。既に敵のHPは8割を切った。


 前衛の二人がイーコスウルフに攻撃を仕掛け、イーコスウルフの反撃を不知火が全て受け止める。

 イーコスウルフの攻撃力はそんなに高くない。想定よりも不知火のHPの減りが遅いのが証拠だ。そのおかげで私も全員にバフを掛けることができる。


 アオオォォォーーーーン!! アオオォォォーーーーン!!


 HPが7割に到達した瞬間、イーコスウルフが後退し、連続で遠吠えを上げる。すると、草むらから10体のファングウルフが出現した。


「レオはそのまま攻撃。一刀、聖、ロードはファングウルフの処理を! 不知火はそのままイーコスウルフを引き付けておけ!! リジェネーション......ブラインド」


 ファングウルフの処理は早めにしなければいけない。何故なら仲間呼びでその数を鼠算方式で増やされてしまうからだ。

 他がファングウルフを担当しているので今はレオと不知火だけがイーコスウルフの足止めをしている。おかげで、ダメージが全然稼げていないが、これは攻撃役が少なくDPSが落ちているからしょうがない。


 この乱戦ではブラインドがかなり有効だ。ファングウルフにこのアーツを掛けてやれば時々仲間の方にも飛び込んでいくため仲間同士で潰しあってくれる。


「ゼロ、俺のオリジナルスキルはこの状況でも発動できる。制限付きだがモブは俺が処理する。二人はボスの方を頼む!!」

 

 なるほど、一刀のオリジナルスキルは敵に感知されてなければ発動するので、乱戦状態なら気づかれずにファングウルフを処理できるのか。

 一刀がファングウルフを処理している間に私たちでボスのHPを削らなければ。




「そろそろ5割を切るぞ。何かしてくるはずだ。気をつけろよ!」


 イーコスウルフのHPを5割まで減らすことができた。やっとこれで折り返し地点だ。

 だが、一刀の宣言通り、またイーコスウルフが遠吠えをする。今度は前よりファングウルフの数が増え、さらに数体ハイ・ファングウルフも混ざっている。


 本当に面倒くさいボスだ。

 ヤツ自身はそこまで強い訳ではないが戦法が物量戦と言うこともあり、全員でボスを攻撃することができない。

 今も一刀だけでは手が足りなくなり、聖もファングウルフの処理に回っている。かく言う私もサイレントやブラインド、パラライズでファングウルフを足止めをしている。

 状態異常はボスには効果が薄い。

 だが、私とイーコスウルフではレベルが私の方が高いのでレジストされにくいはずだ。しかし、デバフが入ったとしても効果時間が殆どない。

 ヤツは予備動作が大きいので効果時間がもう少し長ければヤツの遠吠えをサイレントで防ぐことができるのだが。

 たらればを言っても仕方がないことは分かっている。ああ、ままならないものだ。


「ほんと、雑魚の処理はめんどくさいね。ファングウルフよりこっちの方がレベルが高いから簡単に倒せるけどこのままじゃ切りがないよ。そろそろ転機が欲しいかな? 瞬間装填、属性付与・風、属性解放っと。僕もオリジナルスキルを切らせてもらうよ」


 そう言うと聖がオリジナルスキルを発動させた。

 聖が放つ矢に風が纏わりつき次々とファングウルフやハイ・ファングウルフを射抜き、その後ファングウルフたちが爆発し、その姿を光の粒子に変えていく。ってちょっと待て!!


「一刀、不知火!! 貰うぞ。マナコンバージョン」

「助かるよ。このオリジナルスキルを使うと直ぐにMP消費しちゃうから使い勝手悪いよね」


 焦った。高速で聖のMPが減少していくのだ。もう少し遅かったら空打ちするところだったぞ。

 今度からはやる前に一言言って欲しい。まあいい、おかげでモブは殆ど倒せた。


「ヘイトアップ!! ヘイトアップ!! ヘイトアップ!! おい、聖。お前にヘイトが向かって全然ヘイト奪えないぞ。次からはそれやる時には声かけてくれ。頼むぞ。パワースタン!!」

「あはは、ごめん。ごめん。流石の僕でもあの数にはうんざりしてたからさ。ついね」


 聖が不知火に怒られている。ボスにもかなりのダメージを入れていたし、不知火からヘイト奪ったのも納得だ。

 そのせいで不知火はイーコスウルフのヘイトを無理やり奪おうと奮闘しているがな。


「よっしゃあ!! これで後3割だーー」


 レオの攻撃が入り遂にイーコスウルフのHPが3割を切った。残り少し、そう思った瞬間レオの体が吹き飛ばされ私の方まで飛んできた。とっさに剣を盾にして致命傷は防いだようだがそれでも一気にHPを削られている。


 イーコスウルフがこちらをその透き通った瞳で睨みつける。そしてゆっくりと顔を上げ、空に向かいーー


 さて、ここからが本番だ。

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