第57話 準備完了 その2

「見てもらえれば分かると思うけど頭装備だけオリジナルスキルを使ったからレア度が1上がっているわ。だから、そこだけINTに上昇値を割り振れなかったのよ。ごめんなさいね」

「これだけの装備を作ってもらえたので文句などありませんよ。ありがとうございます」

「そう? それならいいのだけど......。私としては依頼通りにできなくて不甲斐なさを感じているわ」


 だから少し機嫌が悪いのか。もちろん徹夜明けというのもあるだろうが。


「後、これはリアからの餞別よ。それじゃあ今日はこれで落ちるわ。ボス戦頑張りなさいよ」


 そう言い残し、ミサキさんがその場でログアウトする。

 ログアウトしていく姿はまるで幽霊のようだったがそれほど疲れていたと言うことか。無理をさせすぎてしまったな。だが、おかげでボス戦には万全の状態で挑めるのだ。深く感謝だ。

 それとリアさんからはMP回復ポーションの詰め合わせを貰った。

 戦闘中にMPが切れたら大変なので買い足そうと思っていたが、ナイスタイミングだ。今度お礼に行かなくては。


「最後は私のアクセサリーね。ゼロちゃんのためを思って一生懸命作ったからね♡」


 ぐっ!! なんと言う破壊力。ボス戦を前にして死ぬところだった。っという冗談はさておき、最後はゴルジアナさんが制作したアクセサリーだ。


〈ファングウルフのイヤリング〉 一般級 ☆6

INT+3

高度な細工技術により美術品とも言えるできになっている


〈ハイ・ファングウルフの首飾り〉 一般級 ☆6

アーツ発動時のMP消費が僅かに減少する

魔石を加工して装飾しているため魔力に多少の親和性がある


 制作してもらったアクセサリーはファングウルフのイヤリングが2つ、上魔狼の首飾りが1つだ。

 なんだかんだ言ってゴルジアナさんの腕は本物だ。

 ミサキさんの話によるとアクセサリー製作は防具の制作よりも上昇値の選択や特殊効果が元の素材に引かれ易い。それでもゴルジアナさんは全てMP関連の効果にしてくれたのだ。


「ゼロちゃんの注文通り性能はMP関連にしたわよ。素材もたくさんもらったからどうにか納得のいくものができて本当によかったわん。ゼロちゃんたちなら問題ないと思うけどボス戦頑張るのよ♡」

「ええ、任せてください。こんなに立派な装備を身に着けて負ける気など微塵もないですよ」


 ゴルジアナさんの激励の言葉とウインクを貰い、後はあいつらと合流するだけだ。

 ちなみにゴルジアナさんのウインクは強烈だ。近くにいたプレイヤーなど膝から崩れ落ちていた。




 どうやら今回は私が最初に着いたようだ。集合時間までは後20分ほどあるので当たり前か。


「先に来ていたのか、ゼロ」

「やる気は十分みたいだね」


 掲示板を眺めていたら一刀と聖が声を掛けてきた。

 時計を見ると後数分で集合時間になる所だった。いつの間にかこんなに時間が経っていたとは。


 二人も装備を新調したようで一刀は黒の装束に小剣を携え、聖はレザーアーマーに長弓を背中に担いでいる。

 基本、私たちは装備を依頼する生産職の人が違うので一緒に依頼に行くことはない。まあ、依頼する人は違うが所属するクランは同じところが多い。


 ちなみに生産職のクランは数個しかない。と言うのもよくある生産職の見下しがβの時に多発してしまったからだ。

 それ以来、生産職は固まって行動するようになった。まあ、大勢いる方が生産でのテクニックを共有できるので、私はその方がいいと思う。


 その後も時間までに不知火、ロード、レオと全員が揃った。

 当然のように装備を新調しているが不知火だけは殆ど昨日と同じままだ。ここだと防具のいい素材がないからな。その分アクセサリーの類は充実している。


「それじゃあ、行くとしよう」


 私の言葉に全員が頷き南エリアの先端、ボスエリアへと移動する。

 全員がこれから死地に向かうかのような真剣な顔でフィールドを移動する......ことはなく、もちろん最近のことやこの世界の情報について喋りながらボスエリアに向かう。


 何せ、始まりの街からボスがいる場所まで走って30分以上かかるからだ。

 常識的に考えて街から近いところに強力な魔物がいるのは可笑しいが、ゲームの中でも移動時間があると億劫になると言うもの。

 今は聖たちと喋りながら向かっているが一人だと暇だな。召喚士なら召喚獣に乗って移動できると聞いたが、それ以外の職だと自力での移動になってしまう。騎乗用のペットでもあればいいのだが。


 道中ではファングウルフに襲われることもあったが、朝方と言うこともあり大体が一体でしか行動していなかったので撃退が簡単だった。

 それと私以外のメンバーのレベルが20を超えているのも拍車をかけていることだろう。

 

 そして、遂にボスエリアに辿り着いた。

 周囲の見た目は変わらないが私たちの目の前に〈ここから先はボスエリアです。先に進みますか? YES/NO〉と表示されているので間違いないだろう。


 全員の顔を見回し、それぞれが頷いたのを確認する。

 今からボス戦が始まる。このために昨日今日とレベル上げをしたのだし、きっと大丈夫だ。一度、深呼吸をし、そして〈YES〉の欄を選択する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る