第51話 弟子
頬に冷たさを感じて目を覚ます。どうやら修練場の床に倒れていたようだ。
「目を覚ましたようですね?」
起き上がると傍にリーンさんが立っており、私の加減を窺っている。
「ええ、目を覚ましましたが......やはり私はリーンさんに一撃も与えられずに負けたのですね」
「そうですね。傍から見ればもうそれは酷いくらいにボコボコにされましたから。ですが......」
「ですが、何ですか?」
確かにリーンさんには為す術なくいいようにやられてしまった。
一撃くらいは当てられると思っていた最初の自分を殴ってやりたいくらいだ。
「最初から私に一撃当てられるなんて微塵も考えてませんでしたからね。もし、今のゼロさんに一撃でも入れられようものなら私は聖魔典管理神官の地位を剥奪されかねますよ」
「っ!! それではもしかして私を弟子にしてくださるのでしょうか!?」
「合格、と言っても良いですね。これ程のポテンシャルを持っているのなら後継者としての、まあ、それは後々でいいでしょう。では......ここに訪問者ゼロを私、リーン=アルテイオの弟子とすることを聖魔典管理神官の地位に誓って宣言する!!」
ウォォォオオオと修練場に割れんばかりの歓声が鳴り響く。空気が震え、床も震えている。
「お前さんすげえじゃねえか。リーン様の弟子なんて望んでなれるようなもんじゃないんだぜ。本当にうらやましいな、おい」
「バカか、お前は。お前にあの動きができんのかって話だよ。見たか本気を出していないとはいえあのリーン様の攻撃を触れただけでそらしちまった技をよぉ。俺は見惚れちまったぜ」
私の戦いを見ていた神官たちが先ほどの戦いを褒め称えてくれる。
私も久しぶりに心躍る戦いができアドレナリンを使い果たしたので今にも崩れ落ちそうだが、今はリーンさんの弟子になれたことの方が嬉しくそれどころではない。
「ゼロさん、おめでとうございます。いえ、これからはリーン様のお弟子様になるのでゼロ様が正しいですね。ともかく、良くリーン様の試練を突破しました。これからのご活躍を私も陰ながらここ、ファージンから祈っております」
「様付けなんてやめてください。私なんてまだまだですから」
感傷に浸っていたところを教会の神父であり、私をリーンさんのところまで案内してくれたウルマさんが賞賛の声を掛けてくれた。それに私も答え、二人で固く手を交わす。
「さてと。もう君は私の弟子になった。これからは客人としてではなく弟子として扱わせてもらうことにしますね。早速だけどこれからについて話したいので書斎に戻りますよ」
「今後のことについてゼロに話しておきたいことがあります。とりあえず座って下さい」
書斎に戻ってからの第一声はそれだった。
特に断る理由もないので指示に従いソファーに腰を掛ける。
余りにも流れるように自然に話し掛けてきたが、リーンさんが私のことをゼロさんではなくゼロと呼んできた。私もこれからリーンさんのことを師匠と呼ぶことにしよう。
「まずは先に謝らなければいけないことがあります。弟子になって早々で悪いのですが私は一度本国に戻り定例会議に参加しないといけません。なので、今から私の弟子として修行に励んでもらうことができないのです」
「......なるほど。それでは師匠、私は師匠が帰ってくるまで自己鍛錬をしてれば良いのでしょうか?」
師匠は本国に帰ってしまうのか。だが、私も今は一刀や聖たちとフィールドボスに挑戦する予定が入っており、直ぐに修行に移れなかったのでこれはちょうど良かったのかもしれない。
「いえ、自己鍛錬はしなくて結構です。それと私は中央王国に戻ってくるつもりはありません」
「では、私はどうすればいいのでしょうか?」
「そんなことは言わなくても分かりますよね? もちろん、ゼロがリジョル宗教国に来ればいいのです。そうすれば万事解決ですからね」
「それだとかなり先の話になるのではないでしょうか。私はまだ始まりの街以外に行ったことがありませんよ」
今の感じだと私が宗教国に行くのはまだ先の話になる。何せ王都に辿り着くまで最低でも4体のフィールドボスと戦う羽目になるからだ。
それに、今みたいに簡単にレベルが上がることもないだろう。レベルも高くなるにつれて上がりづらくなるだろうからな。
「そうなのですか。では、気長に待っています。ですが、それではゼロが納得しないでしょうから、宗教国に着くまでの間に何か修行のようなものを用意しておきますね。なので街に着いたらまずはその街の教会に行って下さい」
それならお預けを食らわないで済む。
それにしても宗教国か。そこに辿り着くまでにどのくらい掛かるのだろうか。夏のイベントまでに着けれてればいいが。
「これで私からの報告は終了です。特に質問がなければ次は宗教国で会いましょう」
「特に質問はありません。それでは師匠、宗教国に着いたら是非修行の方をよろしくお願いします」
師匠に向かい深く頭を下げ誠意のほどを示す。
流石の私でもこれがゲームであり、リーンさんが住民だからといってなめた態度はとれない。ましてこれから私の神官道の師になる方だ。
直接修行を付けてもらうのはまだ先かもしれないが、その時は少しでも成長した私を見てほしいものだな。
「そうだ。良かったら私が使っていた聖書と魔書でも持っていきますか?」
そんなことを考えつつもドアに手を掛け、書斎から退出する直前だった。なんとも魅惑的な提案をされたのは。
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