第49話 試練 その1
「それでは始めましょうか。とりあえず今のゼロさんがどれ程の実力か確かめるために私に攻撃を仕掛けてください。もちろん私はゼロさんの攻撃を避けるので一撃入れることを目標にしてくださいね」
「本当にやるんですか。それでは私も全力でやらせてもらいます」
今の私ではリーンさんに攻撃を当てるのは難しい。
私は昔、武術を少しやっていた。その私から見ても彼の立ち振る舞いは隙が無い自然体だ。それも私に武術を教えてくれた亡き祖父と同じ自然体だった。
『戦いは常に気を使わなければならない。だが、体はいつも自然体でいることが大切だ。何故ならそこまで気を張ると疲れるからな』と祖父はよく言っていた。
バカみたいな理由だが実は的を得ている。祖父の言った通り、体まで気を張ると自分の思うように体を動かせない。
達人同士の戦いになると大抵は一瞬のうちに決着がつくため自然体を意識することが勝利へのカギなのだろう。
それに私とリーンさんではレベルの差が激しいだろうからな。MMOと言うジャンルはレベルがそのプレイヤーの強さといっても過言ではない。
如何にスタートダッシュを成功させたと言ってもまだ私のレベルは18だ。
流石にこのレベルでは聖魔典管理神官に名を連ねるリーンさんにダメージを与えるのは難しいだろう。
だが、この
「よろしくお願いします!」
右手右足を前に出し、左手左足を後ろに引く。
攻撃の姿勢を取って床を踏み抜く勢いで蹴り、思いっきり右拳でリーンさんに殴りかかる......ことはせずに今の私では勝てないので神官の定石で地盤を固める。
ついでに光魔術と闇魔術を交互に発動させることで白黒をフルで発動させる。
「ほお、いきなり殴りかかることはせず、まずは強化で自身を高め弱化で相手を弱める。神官の基本は分かっているようですね。それにその十字架。私が知らない
なんだか高評価を貰えたみたいだ。
それにしても私のスキルがオリジナルスキルだと一瞬で見破られたな。まあ、十字架が出現する時点で通常のスキルではないと分かってしまうからしょうがない。
どうやら私の準備が整うまでリーンさんは待ってくれるようなので、万全な状態で挑ませてもらうとする。
聖典と魔典で言うところの強属と強化、弱属と弱化を交互に発動させる。
バフを使用する度に私から属性に対応する色のオーラが立ち昇り、デバフを使用するたびにリーンさんに僅かに薄暗い各属性の色が纏わりつく......ことはなく当たり前のようにレジストされる。
とりあえず全てのバフ、デバフを掛け終え、私の今出せる最大までパラメータを上昇させたが、如何にしてリーンさんに攻撃を当てるかが問題だ。
私もリーンさんと同じく自然体で構え、彼の動きを観察する。
やはり、リーンさんは気が抜けたように構えており、一見隙が多そうに見えるがその実は隙など一切なく、如何なる攻撃でも簡単に捌かれそうな雰囲気を醸し出している。
それにリーンさんは私の攻撃を避けるとは言っていたが、彼自身が攻撃しないとは一言も言っていない。このことも含めより一層気を引きしめなければならない。
辺りは静寂に包まれ、周りで鍛錬をしていた神官たちの固唾を呑む音だけが修練場に響く。
ドンっと音が鳴り一瞬のうちにリーンさんの目の前に移動する。
次いで右手を振りかぶりその反動で回転蹴りをする。しかし、リーンさんは半身をズラすことで難なく避け、がら空きになった私の胴体目掛けて手刀を落とした。
初手での攻撃が当たるとは微塵も思っていなかったし、その反撃も想定内だったので床に手をつきバク転をしてその場から離れる。
「おお、これをしっかり予想していましたか。やはり見どころがありますね。しかし、これだけでは私の弟子にすることはできませんよ」
「ええ、そんなことは百も承知です」
一度深呼吸をして息を整える。
今の攻防で分かったことは基礎ステータスが圧倒的に違うこと、リーンさんの武術の腕前が予想以上だと言うことだ。
私の腕前も一応祖父に認められているがリーンさんの体捌きは祖父のそれと同じものを感じた。それにリーンさんの手刀を避けている時にリーンさんは右手で追撃もできたはずなのにしてこなかった。
さらに、リーンさんの手刀で生まれた風圧で床が罅割れている。ただの手刀のはずが圧倒的ステータスのおかげで底上げされているのだろう。
我ながらよく避けたものだと感心するが、もしあれを食らっていたらあそこで私は敗北していた。
「こないなら私から攻撃させてもらいますね。本気で逃げてください。死んでしまうかもしれませんから。まあ、訪問者は死んでも神々の恩恵で本当の死は訪れないと思いますがね......
リーンさんの右手に徐々に巨大な魔術陣が形成され、唸りを上げて魔術が行使された。
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