第34話 パーティ戦 その3

 この短時間で一刀も聖もロードもがラッシュボアのモーションに完璧に対応した。

 一刀は確実にラッシュボアに気づかれない立ち回りで攻撃を行い、聖は瞬間装填でラッシュボアの目だけを執拗に狙い撃ちひるみを誘発させ、ロードはたった三種類の魔術しか持っていないのに待機時間の調節で魔術をマシンガンのように発動している。

 ちなみに、レオはひたすらラッシュボアに近接戦を挑んでいる。私から見ればただ笑いながら剣を振り回しているだけだが未だに攻撃を1度も受けていない。


「おらぁぁああ!!」

「吾輩も続きますぞ。〈デュオマジック バレット青・黄〉! ハッハッハ、まさに快感ですな」


 レオが剣で、不知火に動きを止められているラッシュボアに斬りかかる。

 最初に戦った時は、通常攻撃ではダメージが殆ど通っていなかったのだが今の攻撃はラッシュボアのHPバーを目に見える勢いで減少させている。そして、ロードは勝手に名付けた魔術を使って着実にダメージを重ねている。


「僕はやることが無くて暇だよ。一刀、僕と話でもしない?」

「済まないが俺にはやることがあるから難しい注文だな」


 矢の節約のためラッシュボアを確実に怯ませれる瞬間しか弓は引かないことにした聖が暇になってさっそく一刀に絡んでいるが、残念ながら一刀には今戦っているラッシュボアのHPが3割を切ったら次のラッシュボアを釣りに行く役目があるので断られている。


 やはり、弓は不遇武器からは抜け出すことが出来ない運命なのか、弓だけは他の武器とは違い矢という数に制限のあるアイテムを使わないといけなく、最初に貰える矢の数も少ないのだ。......街に着いたら聖のために矢の予備を沢山買うことにしよう。


「聖、すまんがこのレベル上げが終わるまでは辛抱してくれ。白黒をフルに発動してペースを上げることにするから直ぐにレベルを上げて街で矢の補給をしよう。矢の代金は私が払うぞ」


 聖を慰めると同時に闇魔術でラッシュボアにデバフを光魔術でパーティメンバーにバフを掛けていく。


 私のMPの最大値は約200で消費MPの低いアーツでもMPを3くらいは使用するので大体バフとデバフを合わせて60強くらいしか発動することは出来ない。

 白黒の効果を最大にするまでにその内の20回を使用するので残りの40回分で白黒を継続することになる。しかし、これは私がダメージ等を受けなかった時の場合だ。もし、ダメージを受けた時は上昇値がリセットされるので何か対策を立てないといけない。


「【水球よ 我が魔力を糧に 敵を撃て〈ウォーターボール〉】」


 ロードが発動した魔術は基本属性魔術スキルのレベルが5になった時に習得出来るアーツだ。

 このアーツは初期アーツのバレットよりも攻撃範囲が大きく弾速も速い、謂わば上位互換だ。

 ちなみに本来なら詠唱など必要無いがアーツは思考補正があるのでより具体的な攻撃をイメージ出来ればその分安定した魔術として発動出来る。


「やっと僕の出番だね。不知火がしっかりボアを引きつけてくれるおかげで簡単に狙いをつけられるよ。ショット!!」


 ロードが発動したウォーターボールが当たり怯んだところを今まで暇そうに待機していた聖の澄ました弓の一撃がラッシュボアの右目を貫いた。

 今度はダメージの蓄積が限界に達したらしくラッシュボアは怯んでその場で停止した。そして、ここぞとばかりにレオやロードが待機時間が長めのアーツを連発する。


 私の鑑定で見る限り、ちょうど今の集中砲火でラッシュボアのHPは3割を切った。

 ここまでHPを削るのに大体2分ほど経過している。まだ、白黒は目に見える効果を発揮していないがこれだけ速く追い詰められるのはやはりパーティの強みだろう。

 

「ボアを連れてくるからキープを頼む」


 新しいラッシュボアを釣りに行った一刀に返答をして送り届けると同時に今戦っているラッシュボアを死なせないように調整する。

 この人数なら問題ないと思うが2体目のラッシュボアを入れるタイミングをミスると処理しきれずに壊滅する事態になりかねないので相手のHP管理もしっかりしなければいけない。


「不知火は今戦っているラッシュボアのタゲを聖に移して一刀が連れてくるラッシュボアのタゲを奪ってくれ。それと、レオとロードは今のうちに殺さないギリギリまでHPを削れ。最後に聖だが、一刀から不知火にラッシュボアのタゲが移った段階で聖にタゲが移ったラッシュボアに止めを刺してくれ」


 私がそれぞれに指示を出すと全員が頷き了解の合図を送ってきた。

 私も含めてだがこの瞬間はとにかく緊張する。誰か一人でも自分の行動に自信を持てずにいると1つのミスで全員が連鎖的に失敗してしまうからだ。

 まあ、これも慣れなので数をこなせば流れるように出来るだろう。

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