第7話 チュートリアル その3

「それでは、次に戦闘訓練を行いますがよろしいでしょうか?」

「大丈夫ですが、私一人で勝てるでしょうか?」


 攻撃が出来ない神官の私はどうやって戦えばいいのか。

 初めての戦闘と言えばβテストの時のチュートリアルでファングウルフと言う魔物との戦闘を行ったが、狼特有のスピードと私自身に攻撃手段がなくて何もできないまま負けた時の記憶が甦ってくる。

 その後、レベルを上げてリベンジしに行ったがな。ちなみに圧勝だった。


「ご心配はいりません。今回召喚される魔物は始まりの街周辺に出現するホーンラビットと言う魔物です。ホーンラビットは生産職の方でも一人で倒せる強さですのでご安心ください」


 サエルさんがそう言って右手を振るうと10メートルくらい先に魔法陣が出現し、そこから角が生えているウサギが出てきた。

 ホーンラビットなら私でも勝てる。ヤツは素手でも簡単に倒せるからな。

 それとホーンラビットは全然可愛くないので殴るのには罪悪感は全くない。

 ちなみにサエルさんは魔法陣から魔物を出していたが、魔法とは神々が使うものであってその下位互換に魔導と魔術がある。魔導は魔物が使うもので魔術は人類が使うものと言う設定だ。


「それでは戦闘を開始してください。戦闘についてアドバイスが必要な際はおっしゃってください。また、この空間では経験値の獲得、アイテムのドロップはありませんのでご注意ください」


 さてと戦闘についてのアドバイスは要らない。ここからはセンスの見せ所だ。


「まずはポイズン」 


 最初にホーンラビットに向けて闇魔術のポイズンを発動させる。

 すると私の前に黒色の魔術陣が現れ、そこから紫色の靄がホーンラビットに纏わり付くように飛んでいった。そして、ホーンラビットは紫色の靄に包まれて毒状態になった。

 始まって気づいたがホーンラビットのHPバーが表示されていない。

 もしかしてこれも鑑定がないとHPとかは見えないのではないだろうか。βテストの時は見ることが可能だったのに。鬼畜だぞ、製品版。


「考えてもしょうがないな。ライト」


 今度はホーンラビットに向けて光魔術のライトを発動させる。

 すると白色の魔術陣から光り輝く球体が放出された。

 魔術陣は術者の近くならどこにでも出せるので、ライトは明かりを灯す魔術だが目くらましにも使える。

 そして、これで白黒の条件が満たされた。私の周りを腕の長さほどの白い十字架が浮遊している。

 今は補助効果なんてないから意味はないけどな。


「もう一回ポイズンっと」


 8秒程経過してからポイズンを発動させる。

 何故ならポイズンはだいたい10秒で効果が消えるのでそれを回避するために重ね掛けをするからだ。

 重ね掛けは効果が変わらずにアーツの継続時間だけがリセットされる。これは戦闘中では特に重要なことなので状態異常が切れる前に重ね掛けをするのが常識だ。

 それにポイズンはLV1のアーツであるため消費MPも安く、リキャストタイムも短い。

 そして闇魔術を使用したため私の周りを白の十字架と同じ大きさの黒い十字架が召喚され、浮遊し始めた。


〈戦闘が終了しました〉


 ああ、死んでしまうとは情けない。と言うのは冗談だが戦闘開始から15秒くらいか。

 思ったより早く終わってしまい白黒の効果が確認できなかった。


「おめでとうございます。続いての魔物を召喚しますがよろしいでしょうか? また、ここでチュートリアルを終了して始まりの街に降り立つことも可能です」


 ここまで来たらやめるわけにはいかないだろう。


「次の魔物をお願いします」

「それでは次の魔物はファングウルフです。先ほど消費したMPは回復しておりますので準備ができたら声を掛けて下さい」


 何と次の相手は怨敵ファングウルフではないか。

 だが、今の私は負ける気がしない。しかし、ファングウルフはとにかく速い。また、私自身VITが低いので攻撃を受けないようにしなければいけない。


「準備できました。お願いします」


 今回の戦闘だと近接攻撃では大したダメージを与えられないのでポイズンが頼みの綱だ。

 もしも魔術が使えない状態になったら、仕方がないので少し本気で戦うとしよう。βテストの時とは違うところをこの魔物には見せつけないといけないからな。


「それでは戦闘を開始します」


 再度サエルさんが腕を振るうと魔法陣が出現し、そこから長い牙が生えた狼が現れる。


「やるとしよう......ポイズン」


 まずは先制攻撃でポイズンを発動させる。

 するとファングウルフの周りに紫色の靄が現れて苦しみ出した。

 このままHPが削れないかと様子を窺ったが望みは薄いようだ。


「おっと危ない。当たるとこだった」


 油断していたら急にファングウルフが飛び掛かって来たので横に跳んで何とか回避する。


「へーい、カモン」


 今度はファングウルフに向けて挑発のダンスを踊る。

 すると、ヤツは唸りながら鋭い目つきで睨んできた。

 僅かに後ろ脚に力を入れているようなのでまた飛び掛かって来るだろう。


「よっと、ライト。そしてもう一回ポイズン」


 予想通りファングウルフが飛び掛かって来たところを華麗に右にステップすることで回避しながら、目くらましのライトと唯一のダメージ源であるポイズンを掛ける。

 さらに白黒が発動して白と黒の十字架が出現した。

 本来なら魔術系のアーツは立ち止まった状態でないと発動しないが、アーツを使うと同時に移動することで動いた状態でも発動できるテクニックがある。


 グルルルル


 物凄く睨まれている。

 しかし、ライトのおかげもあってかファングウルフは私のことが上手く見えていないようだ。


「もう一回ライト......ポイズン」


 白黒によって召喚されている二つの十字架が再度光魔術と闇魔術を交互に使用したたことで、それぞれの十字架の周りに今度は小指ほどの白と黒の十字架が召喚される。

 黒の十字架が増えたおかげでファングウルフに掛かっている毒の効果が上昇したようだ。ヤツの息が先ほどよりも少し荒くなったのがその証拠。

 もしかしたらこの戦法は1対1なら最強かもしれない。


「ライト......ポイズン」


 弱っているファングウルフにさらにライトとポイズンを掛けるとまた二つの十字架の周りに小指ほどの十字架が追加される。

 白黒は光魔術と闇魔術を交互に発動させることで一回目は大きな十字架が召喚され、二回目以降は小さな十字架が召喚されるのだろう。

 効果としてもファングウルフに掛かっている毒状態を表す紫色の靄は確実に濃くなっている......と思う。


〈戦闘が終了しました〉


 あれから何回かライトとポイズンを掛けていたらファングウルフは力尽きてしまった。

 結果的には圧勝だったがホーンラビット程は簡単に倒すことができなかった。


「おめでとうございます。これにてチュートリアルを終了します。また、チュートリアルに参加したプレイヤーにはギフトを配布しております。始まりの街に着いた際にインベントリよりご確認ください。ここまでで何か質問はありますか?」

「いえ、質問はありません」


 やっと始まりの街に降りられるのか。

 あいつらと合流するまではレベル上げついでに冒険者ギルドで依頼でも受けておくとしよう。


「承知いたしました。これよりゼロ様を始まりの街に移転させます。それではAWOの世界を存分に堪能してください」


 サエルさんの言葉とともに私の視界は光に包まれ、浮遊感に襲われた。




〈称号〈チュートリアル完全達成者〉を獲得しました〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る