第32話 【 だからあたしは…… 】

 『 二度と人間は信じない 』と言われた太狼は、

 メリーさん(メスガキ)の目を見たまま、固まっていた。





「あたしは他のメリーさん程、チョロくはないよ」

「別に、お前の体なんか求めてねぇよ」

「そうかもしれないけど、何か理由があるんでしょ?」

「まぁ、結果的に何もねぇと言えば嘘になるけどよ」


「他人の私利私欲の為に使われる程、あたしは安い女じゃない」

「よく言うよ、人の金で散々遊んだくせに……」

「そんなこと言うなら、初めっから来なきゃ良かったじゃん」


「お前が俺を呼び出してきやがったんだろ」

「それでも、来ない選択ぐらいできるでしょ?」

「なら、どうやってあの呼びかけを止めんだよっ!」

「それはまぁ、耳栓でもなんでもあるじゃん」

「人の家を勝手に幽霊物件にしやがって、どの口がいいやがる」


「あたしは自分が楽しめるなら、どう思われようと構わないもん」

「呼び出したり襲ってきたり、なんでこう、俺の人生は理不尽なんだ」

「そういう星の元で生まれた、自分を恨むんだね」

「聞きましたかね、全国の皆さん。これがイジメっ子の心境ですよ」

「イカつい顔して、いじめられっ子の気持ち語らないでよ」

「事実だろ。これだけ言われてんだ、文句の一つくらい言わせろよ」


 太狼がブツブツ文句を言いながら、河原に寝そべる。


「…………」

「…………」


「あたしは、楽しく遊んだ思い出さえあれば、それでいい」

「…………」

「それ以上の絆を、あたしはあんたになんか求めてない」


「下手な嘘だなぁ、つくならもっとマシな嘘をつけよ」

「なんでよ、あたしの話を聞いてたでしょ?」

「あぁ、聞いてたよ。だから言ってんだろ」

「……は?」


 太狼は夜の星空を見上げながら、言葉を放った。



























    は、そんな思い出じゃねぇんだろ?



























 その言葉に、メリーさんは目を見開いた。


「なっ、そんなこと……」

「お前が『 本当に欲しいものは手に入らないから 』って言ったんだろ」

「…………」

「それが羨ましかったから、さっき一瞬電話してきたんだろ。お前……」

「そ、それは……」


「…………」

「…………」


「ったく、素直じゃねぇガキだなぁ……」

「うっさいな、お兄のくせに生意気っ!」


「生意気はてめぇだ。何が『 お兄 』だ。妹ぶりやがって……」

「なんで? 男の人はみんなこう呼ばれると嬉しいんでしょ?」

「知らねぇよ、どこ情報だよッ!」


「なんか、ネットに書いてあった……」

「なんでもネットの情報を鵜呑みにすんじゃねぇよ」

「だって、他に頼れる情報源なんかないし……」

「はぁ。メリーさんってのは、なんでこう不器用なんだよ」

「しょうがないじゃんっ! 捨てられた人形の幽霊なんだからッ!」


 太狼は頭を掻きながら、語り始めた。



























 俺は確かに、あいつらに甘えている部分がある。

 欲を素直に言えば、俺は寂しさを埋めてもらっている。


 今、俺の家にいるメリー達が来るまでは、

 俺はずっと、孤独な毎日を送るだけだった。


 他人からすれば、確かに私利私欲の為なんだろう。

 でも、俺なりにあいつらの幸せも願ってるつもりだ。


 他人にどう見られようと、俺がけなされようと構わない。

 だが、あいつらが傷つくことだけは、俺は絶対に許さない。



 ──今のあいつらは、俺にとって大切な家族なんだ。



 人なんてのは、誰かと共に過ごせば迷惑をかけ合う。

 それが嫌と思うやつも、当然、世の中には居るだろう。


 欲を満たす為といえば、俺もあいつらもそうだ。

 存在を認めてほしい者と、孤独を埋めて欲しい者。


 他人からすれば、欲に飢えた寂しいヤツらの集まりだ。

 でも、そこに幸せがあって、笑い合えるなら良いじゃねぇか。


 それが、【 誰かと共に生きる 】ってことなんだよ。

 互いに言葉を交わして、同じ時間を過ごしてるんだよ。


 それを俺は、あいつらと過ごして知ることが出来たんだ。

 共に過ごす日々の中で、あいつらはそれを教えてくれたんだ。



 ──心を持つ者は、そうやって幸せを分かち合えるんだってな。



 友情や愛情と言えば、聞こえはいいのかもしれない。

 共依存と言えば、人によっては偏見なんかもあるのだろう。


 だが、他人の勝手な目線なんかで怖気ずくほど、

 俺は生半可な覚悟で、あいつらとは過ごしてない。


 俺が求めるのはただ一つ、【 あいつらの笑顔 】だ。

 俺はそれを守れるんだったら、他は全てどうでもいい。


 お前が俺を信じなくても、俺は別に構いやしねぇが、

 俺は何があっても、家族を見捨てたりすることはしない。


 喧嘩しても、傷ついても、泣いても、怒っても、

 俺は、絶対に【 メリーさん 】を捨てはしない。


 あいつらの居場所は、存在は、俺が死んでも守り抜く。

 それが俺に出来る、あいつらへの【 恩返し 】だから。



























 そういって、太狼は夜空の星を見つめていた。


「まぁ、一人違ぇの混じってっけど、同じってことで……」

「あんたバカじゃないの? あたし達は幽霊なんだよ?」

「俺は、今が楽しけりゃいんだ。お前と同じでな」

「…………」


 その言葉に、メリーさんが言葉を失う。


「文句があんなら、いくらでも言ってみろ。俺はそんなんじゃ……」

「……ぐすっ、ぐすっ……」

「……あ?」


 太狼がメリーさんを見ると、蹲ったまま泣いていた。


「はぁ、ったく。なんなんだよ……」

「…………」


 太狼がゆっくり体を起き上がらせ、ため息をつく。

 すると、メリーさんがそっと近づき、太狼の服を掴んだ。


「……ねぇ、お兄……」

「……あ?」

「……人形、捨てたりしない?」

「……あぁ、捨てねぇよ」


「……本当に?」

「……本当にだ」


「……絶対?」

「……絶対だ」


「…………」

「…………」


「……ねぇ、おにぃ……」

「……ん?」



























    ……こんな、あたし……でも、ひろって……くれる……?



























     そういって見つめる、メリーさんの涙を、


            太狼は優しく拭って、静かに笑って答えた。



























       言うのが遅ぇんだよ。待ちくたびれぞ、ばーか。



























          ……おにぃ、の……いじ、わる……



























   そういって、声をあげて泣きつくメリーさんを、


           太狼は静かに笑いながら、優しく抱きしめていた。



























( あたしメリーさん。今、あなたの温もりに包まれてるの…… )

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❀ 後ろが取れないメリーさん ❀ 大神 刄月 @okami_haduki_0120

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