第29話 【 遊び心 】

 太狼は、メリーさん三人とエリーさんを連れて、

 駅の前にある、大きな映画館まで足を運んでいた。





 映画館の前には、学校の制服のような服を着た、

 見たことの無い、一人の少女が太狼を待っていた。


「あっ、来たぁ。も〜っ! 遅いよ、お兄っ!」

「いや、なんで俺が来るんだよ。てめぇが来いよッ!」

「だって、この恋愛映画が見たかったんだもんっ!」

「知らねぇよ、俺はこんな映画に興味ねぇんだよ」


「というか、何? この後ろの人たちは……」

「お前と同じくメリーさん達だよ。一人違ぇのいるけど……」

「うっそ、メリーさんってこんなにいるのっ!?」

「そのリアクションは、お前にして欲しくはねぇな」


「まぁいっか、人がいれば盛り上がるし。いこっ!」

「はぁ、なんで俺が見知らぬガキに映画見せなきゃ行けねぇんだ」

「しょうがないじゃん。あたし、お金持ってないし……」

「お前、本当にメリーさんなのか? 何が目的なんだよ」

「細かいことはいいじゃんっ! ほら、いこいこっ!」


 そういって、少女は太狼の腕を引っ張る。

 その時、不意に太狼は、少女に違和感を覚えた。


「お前、なんかやたらと服綺麗じゃねぇか?」

「あたりまえじゃん、汚い格好で歩けないしっ!」


「おい、こいつはなっから、人のこと驚かす気ねぇぞ……」

「そ、そうですね。多分、ルールガン無視のタイプなんでしょう」

「面白い子も居るのね。お姉さんビックリ……」


「なんでメリーさんになったんだよ、お前……」

「なんでって、動いて遊べるからに決まってるじゃんっ!」

「遊べるって、お前金持ってねぇんだろ?」

「こんな可愛い学生と遊べたら、誰だってお金出すでしょ?」

「出さねぇよッ! メリーさんはパパ活じゃねぇんだぞッ!!!」


「いいからっ! 早く行こうよ、お兄っ! もう、待ちくたびれよっ!」

「はぁ、めんどくせぇなぁ……」


 太狼は嫌々ながら、映画のチケットを全員分買って、

 Lサイズポップコーンを三つ買うと、映画を見ていた。


「おぉっ! やばァ、ちょ〜ドキドキなんだけど……」

「…………」


 太狼は、目をキラキラさせて映画を楽しむメリーさんに、

 呆れた顔をしつつも、クライマックスには涙を流すのだった。


「お兄っ! やばかったね。ちょ〜、ドキドキじゃないっ!?」

「あぁ……よかった。あの子……報われて、よかった……」

「あははっ。お兄、泣いてるっ! ちょ〜ウケるっ!」


「ご主人様、意外とあの子と楽しんでるわね」

「まぁ、孤独な少女が報われるのは、太狼さん好きそうです」


 すると、足元にいた三凪が、太狼の裾をクイクイッと引く。


「……どうした? 三凪……」

「にぃに、あれが見たい……」

「……ん?」

「お兄ちゃん。あたしもね、あれが見たいの……」


 二人が指を指した先には、プリチュアの映画が並んでいた。


「いいねっ! お兄、ついでに見ようよっ!」

「おいおい、まさか俺にあれを見ろと?」

「子供がいるんだから、違和感ないってっ!」


「……にぃに」

「……お兄ちゃん、お願い」

「はぁ、分かったよ。ほら、行くぞ……」


「「「 やったぁ〜っ! 」」」


 そうして、太狼は再びチケットを買い、映画館に入ると、

 戦う魔法少女達の映画を、二時間しっかりと堪能していた。


「はぁ〜っ! 楽しかったね、お兄っ!」

「あぁ、やっぱり初代って強いんだな」

「えへへっ。にぃに、ありがと……」

「お兄ちゃん、ありがとうっ!」

「あぁ、いいってことよ。んじゃ、帰るか……」


「その前に、お腹すいたよ。お兄っ!」

「……は?」

「ほら、あそこのラーメン屋行こうよっ!」

「お前、ポップコーンめっちゃ食ってたろ」

「あんなんじゃ全然足りないよ、ほらっ! 早くっ!」

「はぁ、好き放題だな。コイツ……」


 そういって、言われるがままにラーメン屋に入り、

 予想以上に美味かった味付けに、太狼は満足していた。


「ぷはぁ、食った〜っ! 美味しかったねっ! お兄っ!」

「あぁ、癖になる味わいだった。これは通いたくなるな」

「さすがお兄、よく分かってるっ! なら、次はゲーセンねっ!」

「……は?」

「食後の運動だよ、いこいこっ!」

「はぁ、もう好きにしてくれ……」


 そういって、太狼がメリーさんに引っ張られていく。


「ご主人様、割とあっさりあの子に乗せられてないかしら」

「なんだかんだ付き合ってくれる所が、太狼さんらしいです」





 新しいメリーさんと和気藹々と話しているのを、

 一夜とエリーは、少し羨ましそうに見つめているのだった。

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