第22話 【 心の傷 】
太狼は、子供たちの遊び道具を買った後に、
再び散策するように、メリーさんと彷徨っていた。
「お兄ちゃん、人がたくさんいるね」
「あぁ、迷子にならないようにな」
「太狼さんっ! 三凪ちゃんがっ!」
「待て待て待て、一人で冒険するんじゃない」
「にぃに、あれなぁに?」
「……ん?」
三凪の指さす方向には、カラフルなアイスが並んでいた。
「あぁ、サーティーンワンか」
「サーティーンワン? って、なんですか?」
「一言で言えば、色んな味のアイスを食べられる店だな」
「なるほど、なんだか凄いカラフルですね」
「お兄ちゃん、食べたい……」
「にぃに……」
「分かった。二人とも、はぐれないようにな」
「「 うんっ! 」」
太狼は三凪を肩車し、二葉と手を繋ぎながら、
一夜を連れて四人で並んで、アイスを買っていた。
「すごぉ〜い、きらきらいっぱいっ!」
「たくさんあるね、お兄ちゃんっ!」
「あぁ、好きなの選びな」
「あたし、あの抹茶のやつでもいい?」
「あぁ、いいよ」
「にぃに、三凪、ラムネさんがいい」
「チョコとイチゴな、分かった……」
「チョコ……いや、イチゴも捨て難いですね。あぁ、でも……」
「いや、お前が一番迷うのかよ。一夜……」
「だぁって! こんなにあったら迷いますよぉ……」
「はぁ……。俺が選んだのも分けてやるから、二つ選べ……」
「いいんですか?」
「あぁ、別にいいよ……」
「えへへっ、じゃあ、チョコとイチゴでっ!」
「へいへい……」
太狼はアイスを買うと、四人で近くのベンチに座った。
「美味しそうだね、にぃにっ!」
「あぁ。落とさないように、しっかり持つんだぞ」
「えへへっ、ありがとう。お兄ちゃんっ!」
「あぁ、どういたしまして……」
「それでは、頂きましょうか」
「あぁ、そうだな。それじゃ、いただき……あ?」
「……どうしました?」
太狼が号令をかけようとした途端、足に何かがぶつかった。
「……アイス」
「……あっ」
そこには、太狼の足にぶつかって、アイスを失った子供がいた。
「あぁ、コラッ。もう、だから前を見てなさいって……」
「うわ〜んっ! アイス〜っ!」
「ほんとにこの子はもう、ごめんなさい。うちの子のが本当に……」
「あぁ、いえ。別にこれくらいは……」
「ひいぃいぃっ! ご、ごごごごごごめんなさい。お洋服は弁償して……」
「いえいえ、そこまでしなくても……」
「怖いよぉ、ママ〜っ!」
「ご、ごめんなさい。本当に、本当に……」
「あっ、あの。俺の話を聞いてくれ……」
立ち上がった太狼の圧力に怯えて、親子が怯える。
「うわ〜んっ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい……うちの子が、本当に……」
( なんで、俺はいつもこうなるんだ? )
話を聞かずに怯える親子に、太狼が困惑する。
すると、不意に足元から、二人の子供が前に出た。
「よかったどうぞ……」
「これ、あげる……」
「……くれるの?」
「うん、どうぞ……」
「たべても、いいよ……」
「二葉、三凪……」
「だったら、あたしのも入れて三段にしましょう!」
「一夜……」
「えへへっ、向こうにそんな見本があったので……」
三人のメリーさんが、一つのカップに三つのアイスを盛った。
「……凄い」
「これなら、幸せ三倍ですね」
そういって、三人のメリーさんが笑う。
それを見て、太狼も嬉しそうに微笑んだ。
「なら、向こうにもないサイズにするか」
「……え?」
みんなの後に続くように、太狼も自分のアイスを乗せる。
「これなら、幸せ四倍だな」
「あたし達の、家族の幸せ盛り合わせセットですねっ!」
「……いいの?」
「はい、よければどうぞ。召し上がってください」
「にぃに、怖くないよ?」
「お兄ちゃん、凄く優しいよ!」
そういって、メリーさんたちが、優しく親子に笑いかける。
すると、ようやく親子が冷静になり、母親が太狼に頭を下げた。
「すいません、こんなにしてもらって……」
「大丈夫ですよ、気しないでください」
「ですが、お洋服が……」
「いいんです。この子が笑ってくれるなら……」
「……お兄さん」
服の汚れは、洗えばいくらでも消せますが、
心の傷は、人の優しさしか治せませんので。
「ですから、うちの子たちの優しさを、受け取ってあげてください」
「……はい、ありがとうございます」
笑顔を見せる太狼を見て、母親の顔にも笑みが戻る。
「ありがと、おねぇちゃんたち!」
「もう落としちゃダメですよ〜!」
「今度は、気をつけてね」
「ばいばい……」
メリーさん達に見送られながら、親子は仲良く去っていった。
「はぁ、全く。どうなることかと思った……」
「太狼さんが就職できなかった理由、なんか分かった気がしました」
「それ、俺には未だに分からねぇんだけど……」
「にぃに、大丈夫?」
「お兄ちゃん、元気だして……」
足にくっついて見上げる子供たちに、太狼がそっと微笑む。
「二葉、三凪、ありがとな。すげぇ助かった」
「……ほんと?」
「お兄ちゃん、元気になった?」
「あぁ、お前らに分けてもらったからな」
「にぃに、笑った!」
「えへへっ、よかったぁ……」
笑顔を見せる二人を、太狼がそっと撫でる。
「一夜も、ありがとな」
「いえっ! 幸せはいつももらってますから、これくらいお易い御用です」
「……そっか」
一夜は誇らしげに、太狼に胸を張っていた。
「うっし、もっかいアイス買いに行くか」
「うんっ!」
「やったぁ〜っ!」
「今度は、全員二つずつのダブルにしような」
「二つも食べていいの?」
「あぁ、いいよ。お腹壊さないようにな」
「にぃに、やさしい!」
「幸せ八段乗せですねっ!」
「それは確実に倒れるだろ」
「えへへっ、幸せが溢れてる証拠ですよ」
「ははっ、そうかもな」
そういって、太狼は再びメリーさん達とアイスを買いにいった。
「イチゴと、チョコ……いや、クッキー……キャラメルか、ミントでも……」
「一夜。お前、本当に決断力ないな」
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