第19話 【 過去の記憶 】

 太狼はメリーさん(迷子)を見つけると、

 二人でスイーツを食べながら、家へと帰ってきた。





「帰ったぞぉ……」

「ぞぉ〜っ!」


 二人が返しを知らせると、中から一夜と二葉が出てきた。


「はぁ、見つかったんですね。よかったぁ……」

「まぁな。悪ぃな、二葉を見ててもらって……」

「構いませんよ、これぐらい……」


「にぃに、誰?」

「お前と同じ、メリーさん達だ」

「メリーさん?」


「初めまして、あたしメリーさん(少女)。よろしくね」

「あたしね。メリーさん(幼女)なの。よろしくね」

「メリーはね、メリーさん(迷子)っていうの。よろしくね」

「面倒くさすぎる自己紹介してんじゃねぇよ」


 太狼は風呂場にメリーさん(迷子)を連れていき、

 他のメリーさんの様に綺麗にすると、コタツに入れた。


「にぃに、暖かいね……」

「あぁ、そうだな……」


「お疲れ様です、太狼さん……」

「全く、とんだ一日になっちまった」

「ふふっ。出ていく時の太狼さん、ちょっとかっこよかったですよ」

「必死になりすぎて、よく覚えてねぇや……」


 疲れきって伸びたままの太狼を見て、一夜は静かに笑っていた。


「太狼さん、子供には優しいんですね」

「別に、ガキじゃなくてもそんなに毛嫌いしねぇよ」

「確かに、あたしの時も優しかったです」

「口と目つきの悪さは認めるが、性格までは歪んでねぇつもりだ」

「ふふっ、ギャップ萌えってやつですね」

「なんじゃそりゃ……」


 メリーさん(迷子)と二葉は、太狼にくっついて眠っていた。


「この子も、疲れたみたいですね」

「そういえば、霊力って、減ると腹が空くのか?」

「基本的には食べれば回復するので、その認識でも合ってます」

「それ、枯渇するとどうなるんだ?」

「その場から消えて、ゴミ捨て場にリスポーンします」

「リスポーンって、お前らはゲームのモンスターかよ」


「それも、ただリスポーンするだけじゃないんです」

「……?」



























         それまでの記憶が、全てなくなります。



























 その言葉に、太狼は目を見開いた。


「それって、何かの拍子に死んでも同じなのか?」

「はい。基本的には、全て【 死 】と認識していいでしょう」

「ってことは、何かの拍子に死ぬか霊力が尽きたら……」

「太狼さんの事を忘れて、ゴミ捨て場から再スタートですね」

「なら、昨日みたいに人形が離れても……」

「霊力の大本が人形に溜まるので、霊体が消えたらアウトだと思います」


「…………」

「…………」


「お前は、何でそれを知ってるんだ?」

「…………」



























         前に一度、死んだことがあるからです。



























 それを聞いて、太狼は言葉を失った。


「元の持ち主は覚えていますが、それ以外の記憶がありませんでした」

「…………」

「でも、捨てられてから何年も、時間は経過していました」

「……そうか」


 そう呟くと、太狼はそっとメリーさん(迷子)と二葉を抱き寄せた。


「太狼さん、私も一ついいですか?」

「……なんだ?」

「なんでその子が泣いてた時、あんなに必死だったんですか?」


「…………」

「…………」


「……昔な、俺も迷子になったことがあるんだよ」

「……そうなんですか?」

「……あぁ」


太狼は二人を布団に寝かせながら、静かに語り出した。



























 俺もまだ小さかったから、本当に怖くてな。


 俺の両親は、生まれてすぐにどっちも死んじまったから、

 俺には昔っから、親なんて呼べる相手はいなかった。


 でも、そん時は俺の爺ちゃんが、走って見つけてくれた。

 街中を駆けずり回って、死ぬ気で走って見つけてくれたんだ。



 ──あの時は、本当に嬉しかった。



 そんな自分を思い出したら、

 なんだか夢中になっちまってな。


 こいつが泣いてるのを、聞いていられなかった。

 だから、俺も思わず我を失なっちまった。


 でも、こうして目の前で笑ってるのを見ると、

 昔の自分までもが、報われた気がすんだよ。


 爺ちゃんと婆ちゃんは、こんなやんちゃな俺を、

 本当の子供のように、死ぬ間際まで育ててくれた。


 俺を守ってくれてた、あの二人の大きな背中が、

 今でも俺の目には、しっかりと焼き付いてんだ。


 だから俺は、子供が泣いてたら涙を拭ってやるんだ。

 あの時、俺の涙を拭ってくれた、爺ちゃんのようにな。



























「……太狼さん」

「お前にも、一人にしねぇって約束しちまったしな」

「えへへっ、そうですね。期待してますよ、太狼さんっ!」

「あぁ。一度交した約束は、必ず守ってやるさ……」


 そういって、太狼と一夜が静かに笑顔を交わす。

 すると、メリーさん(迷子)が、そっと腕に抱きついた。


「……にぃに、大好き……」

「ふっ。お前はもう、帰る気なさそうだな」

「……えへへっ、すぴぃ……」

「お前は三番目だから、【 三凪みな 】がいいな」

「……すぴぃ~、すぴぃ~……」

「その瞳から、もう涙を流さなくていいように……」


 太狼が小さな笑みを浮かべて、そっと頭を撫でると、

 三番目のメリーさんは、寝ながら笑みを浮かべていた。



























 ……あたし、メリーさん……今、凄く……


          カッコイイ……お兄ちゃんが、出来たの……

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