第17話 【 目印は…… 】

 買い物の事件から、一夜明けた次の日、

 太狼は服を、メリーさん(幼女)に着せていた。





「えへへっ、可愛い?」

「あぁ、よく似合ってるよ。メリー……」

「ありがとう、お兄ちゃんっ!」


 メリーさん(幼女)は新しい服を着て、嬉しそうに喜んでいた。


「なぁ、メリー……」

「なんですか? 太狼さん……」

「お前ら、別の名前をつけちゃダメか?」

「……何故ですか?」

「いや、二人ともメリーは呼びにくいだろ?」

「まぁ、確かに。あたしも振り向きますね」

「だから、名前を変えちゃダメなのか?」


「名前を変えることは、本質的には難しいです」

「そ、そうなのか……」

「あたしたちは、【 メリーさん 】っていう幽霊なので……」

「それだと、名前は変えられないってことか?」

「と言うより、名乗る時は『 あたしメリー 』って言っちゃうんです」

「マジかよ、厄介な縛りプレイしてんなぁ……」


「でも、個別に呼び名を付けて貰う認識くらいはできますよ」

「つまり、俺があだ名感覚で付ければいいってことか?」

「はい。それでも、メリーって呼んだら振り向きますけどね」

「いや、個別で呼べるだけでもかなり助かる。主に俺が……」

「それなら、是非付けて欲しいです」

「そうだなぁ、ん〜……」


 太狼は目を瞑り、深々と考える。


「やっぱり、洋風の名前の方がいいか?」

「いえ、その辺は特にこだわりは無いですね」

「……そうか」

「せっかくなら、この国ならではの名前の方が嬉しいかもです」


 それを聞いて、太狼はメリーさん(少女)を指さした。


「なら、お前は【 一夜ひとよ 】なんてのはどうだ?」

「……一夜、ですか?」

「あぁ。一番初めに出会ったメリーだからな」

「えへへっ……なんか照れますね。ありがとうございます」

「よし。なら、それで決定だな」


「ねぇ、お兄ちゃん……」

「……ん?」

「……あたしは?」

「ん〜。なら、【 二葉ふたば 】はどうだ?」

「……二葉?」


「あぁ。まだ子供だから、未来に花が咲くようにな」

(まぁ、成長するのか分からねぇけど……)

「えへへっ、やったぁっ! お兄ちゃん、ありがとっ!」

「おぅ、どういたしましてだ……」


 二人のメリーさんは、あだ名を貰って喜んでいた。


「太狼さん、ネーミングセンスいいですね」

「まぁ、色んなゲームや漫画を見てるからな」

「ふふっ。なるほど、さすがです」


 その時、突然、遠くでスマホの着信音が鳴り響いた。


「……おや? 電話が来てますよ、太狼さん……」

「…………」


 太狼は遠くで鳴るスマホを見て、じーっと固まっていた。


「……まさか、な……」

「……ん?」

「……?」


 二人のメリーさんに見守られながら、

 太狼は自分のスマホを取りに向かった。


 そして、恐る恐るスマホを拾い上げると、

 太狼は画面を見て、そのまま固まっていた。


「……太狼さん?」

「……おい、また非通知じゃんかよ」

「……え? そ、それって……」


 太狼は一夜と目を合わせると、太狼は通話ボタンを押し、

 そのままスマホの音声を、スピーカーモードに切り替えた。


 すると、向こうから音声が聞こえてきた。


『もしもし、あたしメリーさん……』

『あぁ、だと思ったよ……』

『今、ゴミ捨て場にいるの……』

『…………』


 そのままブチッと、通話は切れた。


「あのさ、このスマホ呪われてんのか?」

「スマホというか、太狼さんですね」

「……は?」

「あたし達は、霊を引き寄せやすいにテレパシーを飛ばすんです」

「人間にテレパシーを飛ばす?」


「要は太狼さんに繋げる為に、に繋がるんです」

「つまり、俺がスマホを変えても来るってことか?」

「はい、そうなりますね」

「はぁ、マジかよ……」


「太狼さんって、昔から霊感が強いんですか?」

「いや、今まで霊なんか見たことねぇけど……」

「そうなんですか? じゃあ、何ででしょうか……」

「……何かおかしいのか?」

「霊感の強い方が、よく受信先になるんですけど……」

「霊感ねぇ。それにしたって、一昨日二葉が来たばかりだぞ」


 すると、再びスマホの着信音が鳴り響いた。


 それを物凄く面倒くさそうに見つめながら、

 太狼は通話ボタンを押して、スピーカーにした。


『はい、もしもし……』

『もしもし、あたしメリーさん……』

『どうせタバコ屋だろ? 他の情報をよこせ……』

『今、タバコ屋さんの角にいるの……』

『………聞けよ』


 すると、また通話がブチッと切れた。


「なぁ、一夜……」

「はい、なんですか?」

「お前ら、なんでこんなに通話時間が短いんだ?」

「十秒以上経つと、通信料がかかるからです」


「テレパシー料金制なのかよッ!」

「まぁ、正確には霊力が減り始めるんですけどね」

「はぁ、めんどくせぇ通信制限かけやがって……」


 そういって、太狼はスマホの着信を待った。

 すると、再びスマホに非通知からの着信が入った。


『はい、もしもし……』

『もしもし、あたしメリーさん……』

『貴重な十秒を、何回も自己紹介に使うなよ』

『今、大きな歩道橋の前にいるの……』

『……は? おい待て、次は俺の家の前じゃ……』


 ブチッと、太狼が話切る前に通話は切れた。


「おかしいな、いつもはタバコ屋の次は家の前に来るのに……」

「二回経験したせいで、太狼さんが通信ポイントを抑えてきてる」


「というか、なんで全員同じところを通るんだ?」

「あたし達は都市伝説ですから、人間が想像した通りに動くんです」

「つまり、人間が『 タバコ屋を通る 』と決めたってことか?」

「はい、そういうことです」

「なるほど、都市伝説ってすげぇな」


「まぁ、人形にも個性があるので、多少は異なる時がありますけどね」

「今のやつも、どっかの歩道橋の前に行ったしな」


 すると、再びスマホから着信音が鳴り響いた。


『はい、もしもし……』

『……もしもし、ぐすっ……あ、たし……メリー、さん……』

『おい、なんかお前泣いてないか?』

『……今、公園の……前に、いるの……』

『待て待て、どこの公園だ? 近くに名前が書いて……』


 ブチッと、太狼が質問しきる前に、通話は切れた。


「なぁ、一夜……」

「なんでしょう、太狼さん……」

「メリーさんって、迷子になることあるのか?」

「あたしは……その、聞いたことないですけど……」

「今のやつ、なんか泣いてなかったか?」

「はい。どことなく涙ぐむ子供感が……」


「…………」

「…………」


 一夜と太狼は目を合わせると、着信を待ち、

 コタツにスマホを置いて、正座をして待った。


 すると、再びスマホの着信音が鳴り響いた。


『もしもし? お前、今どこにいるっ!』

『……にぃに、たすけて……どこか、わからないよぉ……』

『なんか、なんか目印はねぇかっ!?』

『……あ、たし……メリー、さん……いま、コンビニの、まえに……』

『コンビニ? なんてコンビニだっ!? 名前は?』

『……よめないよぉ、にぃに……たすけてぇ、うわあぁん……』

『あぁ、じゃあ分かったっ! 色は? コンビニの色は何色だっ!?』


『……いろ?』

『…………』


『……アオと、シロ……』



























              ……と、ミドリ……



























             ファミリィマァトッ!!!



























 太狼は大声で叫ぶと、その場に勢いよく立ち上がった。

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