第16話 【 家族 】
太狼はひったくりのバイクを一撃で砕くと、
飛んできたバックを、落とすことなくキャッチした。
「コイツ、バケモノかよ……」
「っと、危ねぇ。人形は……」
太狼が慌ててバックの中を見ると、
二つのメリーさん人形が座っていた。
「はぁ、良かった。本当に良かった……」
太狼は、人形の無事を確認すると、
ホッと息を吐いて、バックを抱きしめた。
「クソ……テメェ、何者だ……」
ひったくりの二人が、地に這いつくばる。
そんな二人を、太狼がギロっと睨みつけた。
てめぇら、生きて帰れると思うなよ?
太狼が目を赤く光らせて、ゆっくり二人に迫る。
「ひ、ひぃぃぃぃいいい!」
「も、もう返すから、悪かったって!」
「そんな軽い言葉で、許すわけねぇだろうガァァアアッ!!」
「「 ぎゃああぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあっ!! 」」
太狼は気が済むまで、二人を血祭りにあげていた。
「あっ、やべぇ。早く戻らねぇと……」
太狼がハッと我に返り、急いで戻ろうとすると、
少し透明になった、二人のメリーさんが走ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ。あっ、太狼さんっ!」
「おお、メリーっ! お前ら、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。三十分くらいなら……」
「お兄ちゃん、怪我してるの。大丈夫?」
「あぁ。こんなのは、すぐ治る。それより人形を……」
太狼は取り返したバックから、二人に人形を渡した。
「はぁ、よかったぁ。本当に良かった……」
「えへへっ。ありがとう、お兄ちゃんっ!」
「ありがとうございます、太狼さんっ!」
「あぁ、間に合ってよかった……」
二人が笑みを浮かべて、太狼にギュッと抱きついた。
すると、半透明になっていた二人が、くっきりと実体化した。
「あっ、戻りましたっ! もう、大丈夫ですっ!」
「そうか、よかった。本当に、無事でよかった……」
「えへへっ。お兄ちゃん、大好き……」
「ありがとう、メリー……」
太狼が二人のメリーさんを、ギュッと抱きしめ返す。
するとそこに、通報を受けた一人の警察がやってきた。
「ちょっと、君たち……」
「……ん?」
「なんか、トラブルが起きてるって、通報があったんだけど……」
「あっ、いや。これは違くて……」
警察は、地面に伸びている犯人を見て、目を丸くする。
そして、太狼の手が怪我しているのを見て、ギロッと睨んだ。
「あれは、君がやったのかい?」
「まぁ、そうですね。はい……」
「ちょっと、署まで来てもらおうか」
「ですよねぇ……」
「違うんですっ! あの人たちが、あたしたちを誘拐しようとして……」
「……あっちがやったの?」
「はい。そこを太狼さんが、助けに来てくれたんですっ!」
( 誘拐って……まぁ、間違ってねぇけど…… )
「なんか、バイクが粉々になってるんだけど。これは?」
「これはまぁ、アイツらが俺に突っ込んできたので……」
「突っ込んできた? 君に? バイクで引いたってこと?」
「……はい」
「じゃあ、君はこれに当たって怪我を?」
「当たったというか、殴ったというか、砕いたというか」
「……!?」
太狼の謎の発言に、警察が耳を疑う。
「怪しいなぁ。君たち、この男に言わされてない?」
「違うよっ! お兄ちゃんは、そんな事しないよ!」
「本当に? 悪い人なら、僕が捕まえるよ?」
「そんなことは無いですっ! 太狼さんは、悪いことなんかしませんっ!」
「最近は物騒な事件が多いから、少し信用し難いんだけど……」
「そう言われましても、これが事実でして……」
「とりあえず、君たちの関係も含めて調べるから、署まで御同行を……」
その瞬間、太狼の手を、二人のメリーさんが引っ張った。
た、たたた太狼さんは、あ……あた、あたしの旦那さんですっ!
お兄ちゃんは、あたしのお兄ちゃんなのっ!
その突然のアピールに、警察が言葉を失う。
「ささっ、早く帰りますよ。あ、あな……あなたっ!」
「えっ!? ちょ、おいっ! メリー?」
「えへへっ、お兄ちゃん。帰ろっ!」
「帰るっつっても、これは流石に……」
メリーさん(少女)が、顔を赤く染めて笑みを浮かべ、
メリーさん(幼女)が嬉しそうに、太狼の腕にしがみつく。
そんな二人の笑顔を見て、太狼が小さく微笑んだ。
「ふっ、そうだな。帰るか……」
「……うんっ!」
「帰りましょう、暗くなる前に……」
「あぁ、そうだな。一緒に帰ろう、俺たちの家に……」
太狼は、二人のメリーさんと手を繋いで、
警察を残し、夕焼けの帰り道を歩いていく。
そんな幸せに満ちた、一つの家族の後ろ姿を、
警察は呼び止めることもなく、ただポカーンと見つめていた。
( いいなぁ、家族。羨ましいなぁ…… )
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