第6話 【 本能 】
太狼とメリーさんは、晩御飯を食べ終えると、
布団を二つ敷いて、そのまま眠りについていた。
そんな中、太狼は謎の寝苦しさに目が覚めた。
「……ぅ、うぅ……ん? なんだ……」
太狼が目を開けると、顔の上に何かがあり、
その物体を退けようと、両手で横に下ろした。
すると、その物体は抱きついてきた。
「……ん?」
「……う、うぅん……今、あなたの……後ろに……」
( いや、目の前だよ。何してんだ、こいつ )
そこに居たのは、寝ながら寝言を言うメリーさんだった。
太狼は起き上がると、メリーさんを元の布団に戻した。
「……ダメ、ですよ……太狼さん。えへへっ……」
( ったく、幸せそうな顔しやがって…… )
太狼は、メリーさんをそっと布団に戻してから、
水を一杯飲んで、気にすることなく布団に戻った。
( ま、これも気を許してる証拠か )
太狼は静かに笑みを浮かべると、そのまま眠りについた。
それから数分後、太狼は再び目が覚めた。
「……ん?」
「……見つけ、ました……あたしの、背中……」
( こいつってひょっとして、かなり寝相が悪いのか? )
「……もう、にげられ……ない、ですよ……へへっ、すやぁ……」
「…………」
メリーさんは、再び眠ったまま抱きつき、
ブツブツと寝言を言いながら、笑っていた。
( い、意図的にやってんじゃねぇよな? )
太狼は、メリーさんを元の布団に戻すと、
深く気にすることなく、再び眠ることにした。
すると、眠りについて十分後。
またメリーさんが、太狼の横にいた。
「……逃がし、ませんよ……あたしの、背中……」
( テメェ、どんだけ背中が恋しいんだよッ! )
心の中でツッコミを入れながら、
太狼は、メリーさんを布団に運んだ。
そして、余った布団や座布団で周囲を囲った。
「……すやぁ、えへへっ……また逃げ、ましたねぇ……」
( うっし、これでもう来ねぇだろ )
太狼は自分の布団に戻って、再び眠りについた。
再び違和感を感じて、太狼が目を開けると、
メリーさんは、当たり前のように真横にいた。
( 幽霊相手に、どうしろってんだよ…… )
「…………」
「……へへっ、捕まえ……ました。太狼、さん……」
( こいつ、何の夢を見てんだ? )
「…………」
「……これで、後は一刺し……えへへ、すやぁ……」
( 嘘だろっ!? こいつ、夢の中の俺をッ! )
「…………」
「……冗談、ですよ……えへへっ、すやぁ……」
( わ、笑えねぇ…… )
呆れながらも、太狼がメリーさんを退けようとすると、
不意に寝ているメリーさんが、太狼の腕をそっと掴んだ。
「……あ?」
……お、願い……あたしの、こと……捨て、ないで……
そういって、メリーさんは涙を流していた。
「…………」
「…………」
「…………」
「はぁ、しょうがねぇか」
太狼は、メリーさんの体を抱き寄せると、
優しく抱きしめたまま、静かに眠りについた。
そのメリーさんの寝顔は、笑顔に変わっていた。
朝起きると、メリーさんがパニックになっていた。
「あっ、あわあわあわあわあわあわあわっ!!」
「……うぅ……ん? なんだ、どうした?」
「……た、たたたたた……」
「……あ?」
「太狼さんのえっちっ!! 変態さんの狼さんですッ!!」
「テメェが何度も入ってきたんだろうがァッ!」
太狼は、一緒に寝てる理由をメリーさんに説明すると、
メリーさんは顔を真っ赤に染め、床に頭をくっつけていた。
「す、すいません……」
「ったく。お前、寝相悪すぎんだろ」
「寝相というか、その。本能が……」
「……本能?」
「人の背中を狙う夢を、よく見まして……」
「……おぅ」
「それで気がつくと、現実も背中を探してて……」
「……おぅ」
「だから、何かを抱いてないと彷徨うことがあって……」
「まぁ、そうなんだろうな。寝言でもなんか言ってたし……」
( 『 一刺し 』って、余計な単語までつけてな )
「その、ごめんなさい。ご迷惑をお掛けしました」
「いや、まぁ。誤解が解けたんならいいんだが」
「…………」
「…………」
二人の間に、気まずい空気が流れる。
「……なぁ、それってよ」
「……ひゃ、ひゃいっ!」
「落ち着け、もう怒ってねぇから……」
「す、すいません……」
「それ、ここに来るまではどうしてたんだ?」
「ゴミ捨て場にある物を、代わりに抱いて寝てました」
「おいおい、それはさすがに悲しすぎんだろ」
「ちょっと、自分ではどうしようもなくて……」
「はぁ。寝てる間に刺されたら、シャレになんねぇぞ」
「さすがに寝ぼけて刺すまでは、いかないと思います。多分……」
「おい。今、不安な一言が語尾についたぞ」
「背中をっ! 背中さえ、見せなければ……」
「……は?」
「背中を向けなければ、刺さない……と、思います……」
「つまり、俺にずっとお前の方を向いてろと?」
「……えっと、その……はい。すいません……」
「…………」
メリーさんは申し訳なさそうに、
その場でどんどん小さくなっていた。
「……はぁ、まぁいいか」
「……?」
「とりあえず出かけっから、準備しろ」
「……え? どちらに?」
お前の服や、生活用品だの。
そういって、太狼は準備を始めた。
「……太狼さん」
「紙オムツにくっつかれたくないしな」
「もうっ! それは言わないでくださいってっ!」
メリーさんは顔を真っ赤にしながらも、
少し嬉しそうに微笑んで、準備を始めた。
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