第7話 【 お買い物 】

 太狼は、メリーさんを連れて家を出ると、

 駅前のアウトレットモールにまで来ていた。





「おぉ、おっきいですね」

「ここなら大体の服はある。好きに選べ……」

「……いいんですか? お金とか……」

「金ならある。今まで大した使い道がなかったからな」

「……太狼さん」

「金があっても使わなきゃ、宝の持ち腐れだろ?」

「えへへっ。じゃあ、甘えちゃいますねっ!」

「あぁ、どんとこい」


 そういって、二人は色んな服屋を見て回った。


「うわぁ〜、これ可愛いですね。ふふっ……」

「試しに来てみたらどうだ? あそこで着れんぞ……」

「いいんですかっ!? じゃあ、ちょっとお邪魔して……」


 メリーさんは試着室に入ると、色んな服を着て楽しんでいた。


「どうですか? 太狼さんっ!」

「あぁ、いいと思うぞ。よく似合ってる」

「ほんとですかっ!? えへへっ、嬉しいですっ!」


「お客様、いかがですか?」

「……あっ、えっと……その。えへへっ……」

「あら、とても良くお似合いですね」

「そ、そうですか? ありがとうございます」


「ふふっ、可愛らしい彼女さんですね」

「……か、彼女っ!?」

「はい、俺にはもったいないくらいですよ」

「……太狼さんっ!?」


「ふふっ、仲が良くて羨ましいです」

「ほら、他の服は着なくていいのか?」

「あっ、き……きき着ます。少々お待ちくださいっ!」


 メリーさんはカーテンを閉めると、

 一人で赤くなって、うずくまっていた。



























 そこで色々と纏めて服を買うと、

 二人は次の店を探して歩いていた。


「もう、ビックリしましたよ」

「あぁいうのは、あぁ答えるのが一番楽なんだよ」

「でも、ちょっと嬉しかったです」

「……あ?」

「いえ、なんでもないです。えへへっ……」


「次は、何を買いたいんだ?」

「とりあえず、下着ですね。あそこ寄っていいですか?」

「……ん?」


 太狼が、メリーさんの指を指す方向に振り向くと、

 様々な下着を置いた、ランジェリーショップがあった。


「そっか、そういう所で買うのか。下着って……」

「……え? 違うんですか?」

「さっきの店でもあっただろ、下着は……」

「ありましたけど、なんか同じ色ばかりで……」

「まぁいいか。ここで待ってるから、好きに買ってこい」


「……え?」

「……あ?」


 メリーさんはモジモジしながら、太狼の袖をそっと掴んだ。


「あの。店員さんに話しかけられるのが、ちょっと怖くて……」

「……おい、まさか俺にここに入れと?」

「だ、だめ……です、かね?」

「ここは流石に、男子禁制感凄くね?」

「お願いしますっ! 今回だけでいいので……」


 必死に懇願するメリーさんを見て、

 太狼は一人、心の中で何かを諦めた。


( 爺ちゃん、婆ちゃん、捕まったらごめんな )


『行け、我が孫よ。お前の冒険はここからじゃ……』

『女の為に腹を切る、それが出来ての漢じゃよ。太狼……』


 太狼が一人、空に向かって手を合わせ、何かを祈ると、

 加護を得たように、勇気を振り絞ってメリーさんの手を取った。


「……た、太狼さんっ!?」

「傍に居てやるから、悔いのないもん選べよ?」

「は、はいっ! えへへっ……」


 メリーさんは、何度も試着し直しては、

 色々な下着と取り替えて、少し悩んでいた。


「どうだ? いいのは見つかりそうか?」

「えっと、まだしっくり来るのがなくて……」

「……そうか」


 メリーさんが、悩みながら下着を見ていると、

 太狼の後ろから、気の強そうなメガネの店員が来た。


「お客様、少々よろしいですか?」

「すいませんね、連れが一人じゃ怖いというもんで……」

「あっ、いえ、それは全然よろしいのですが……」

「……ん?」


 店員はメリーさんを、じーっと見つめていた。


「あの、あたしに何か……」

「お客様、失礼ですがサイズを伺っても?」

「……サイズ?」

「お前が何カップかを、聞きたいんだとよ」

「……カップって、なんですか?」

「あぁ、知らないのか。お前……」


「では、現在はどのサイズをお付けに?」

「あっ、今はその。付けてなくて……」

「……付けてない?」

「は、はい……」

「では、すこしよろしいですか?」

「……え?」


 店員は、メリーさんのジャケットを開けると、

 胸の形をじーっと見つめて、一瞬だけ優しく触った。


「……ひゃいっ!?」

「うん、いい形とサイズですね」

「……え?」

「これとこれと、あとはこれも……」

「……あ、あの。えっと……」

「貴方様の胸に合ったものを、ご提供致します」

「た、太狼さん。この人は……」


 店員が、じーっと後ろにいた太狼の目を見つめていると、

 太狼もじーっと店員を見つめ返して、小さな笑みを浮かべた。


「大丈夫だ、この店員は本物だ。間違いない」

「……え?」

「ご信頼いただき、ありがとうございます」

「メリーのこと、お願いします」

「はい、お任せ下さい。お客様……」

「……え?」


 そういって、店員はメリーさんを試着室に連れていった。


「ちょ、ちょちょちょ……太狼さん?」

「俺を信じろ、大丈夫だから」

「……大丈夫?」


 太狼がグッドサインをして、メリーさんを見送ると、

 試着室のカーテンがしまった途端、メリーさんの悲鳴が響いた。


「……あっ! ちょ、そこは……ダメっ!」

「じっとしていて下さい、大丈夫ですので……」

「ひゃっ! あっ、あん……、ダメって……やん、あっ……」

「もう少しです、我慢なさってくださいっ!」

「……そこはっ、触っちゃ……はっ、あっあっ……ちょっ、あん……」


( …………………… )


 太狼はカーテンの外で、一人目を瞑って瞑想していた。

 なんかよく分からない悲鳴に、己の理性が飛ばないように。


 そして、悲鳴が静まり返ってからしばらくすると、

 満足気な顔をしたメリーさんが、店員と共に出てきた。


「お、おまたせしました。太狼さん……」

「……どうだった?」

「凄いですっ! ピッタリの見つけてくれましたっ!」

「そうか、そりゃよかったな」


「それで、その……」

「……あ?」

「太狼さんは、何色が好きですか?」

「……は?」

「えっと、その。参考までに……」


「あのなぁ、水着じゃねぇんだぞ?」

「一応ですっ! 参考にするだけです、参考に……」


( こいつは、何を考えてんだ? )


「ん〜、じゃあ水色……」

「水色ですねっ! 分かりました、えへへっ!」


 メリーさんは、ウキウキしながら下着を見に行った。

 すると、太狼の後から、メガネの店員が歩いてきた。


「とても、仲がよろしいのですね」

「まぁ、寂しがり屋な子なので……」

「わたくしは、胸は心の形だと思っています」

「なるほど、あなたが言うと説得力がある」


 二人は、楽しそうに下着を選ぶメリーさんを見つめていた。


「あの方は、とてもいいこころをお持ちでしたよ」

「ある意味、こころそのものですからね」

「これからも、あの純粋な心を大切にしてあげてください」

「そうですね。肝に銘じておきます」


 そういって、二人は静かに笑みを交わした。





 メリーさんは、そのままいくつかの下着を買い、

 太狼は去り際、メガネの店員に目でサインを送った。


( 助かったよ、ありがとう )

「またのご利用、お待ちしております」

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