第4話 【 帰る場所 】

 太狼はゲームを終えると、お風呂に入っていた。





 メリーさんは、おもてなしのお返しに晩御飯を作っていた。


( あれ、あたしってこの後どうしたら…… )


「……でたぞ」

「……ひゃいっ!!」


 突然の声に、慌ててメリーさんが声を上げる。


「なんだよ、変な声上げて……」

「……へ? いや、なんでもないです。すいません……」

「……あ、そう」


 そう呟くと、シャカシャカと頭を吹き、

 太狼は冷蔵庫を漁って、牛乳を飲んでいた。


( な、なんか、思ったよりかっこいい? )


 筋肉質の体に濡れた髪、そして長身、

 目つきは悪けど、キリッとした顔立ち。


 パッと見の印象は、圧力があれど、

 中身は意外と優しい、誠実な男の人。


 そんな太狼に、メリーさんは少しときめいていた。


「お前、本当に料理出来るんだな」

「も、もちろんですよっ! これでも乙女ですからねっ!」

「そ、そうか。にしても、本当に作ってくれるとは思わなかった」

「だって、ゴミ箱カップラーメンばっかりなんですもんっ!」

「まぁ、普段は俺しか居ないからな」

「いけませんよ、健康によくないですっ!」

「お、おぅ。悪ぃ……」

「分かればいいんです、えへへっ!」


 そう言いながら、黙々とメリーさんは料理を作っていた。


「それで、お前はこの後どうすんだ?」

「……え?」

「今日は飯食ったら、そのまま家に帰るのかってよ」

「あ、あぁ。それはその、えっと……」

「……なんだよ」


 すると、小さな声でメリーさんが答えた。



























        あたし、帰る場所ないんですよ。



























 その寂しげな言葉に、太狼はそっと問いかける。


「なんでだ? 家出してきたのか?」

「いえ、そういう訳では……」

「じゃあ、なんでだよ……」


「あたしは、捨てられたお人形の魂なんで……」

「……人形の魂?」

「……はい」


「……ちょ、ちょっと待ってくれ」

「……はい?」


「……お前、人間じゃねぇの?」

「……え? 違いますよ?」


「……は?」

「……え?」


「……つまり、幽霊ってこと?」

「……まぁ、それが一番近いですかね」


「…………」

「……?」


 太狼はメリーさんの近くに来ると、

 頬をぷにぷにと触って、優しく伸ばした。


は、はの……はおうはん、はにお?あ、あの……太狼さん、何を?

「人形の魂って、こんなに人間に近いのか?」

「まぁ、はい。そうですね」

「マジかよ、初めて見たわ」

「まぁ、そりゃそうでしょうね」


「なんで、それを先に言わねぇんだよ」

「いや、あたし電話でメリーさんって名乗りましたよ?」

「お前、この世に何人の『 メリーさん 』がいると思ってんだよ」

「普通、電話であの流れが来たら、都市伝説の方を疑いません?」


「都市伝説なんかより、まずは人間からの電話だと思うだろっ!」

「だから、最初に怖くないのかって聞いたじゃないですかっ!」

「こんなに人間味溢れる奴が、都市伝説なんて思わないだろっ!」

「思ってくださいよっ! こっちは寒い中頑張ったんですからっ!」

「だったらあんな格好で来んなよっ! もっと厚着しろ、厚着っ!」

「服なんてありませんよっ! 人形の着てた服なんですからっ!」


 互いに思いを全てぶつけて、二人は息を上げていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 すると、メリーさんは俯きながら続けた。


「なるほど、だからパンツ履いてなかったのか。お前……」

「そ、それはもう忘れてください。ほんとに……」

「なら、お前の出発地点ってのはどこだ?」

「電話で言った通り、ゴミ捨て場ですよ……」

「そういうことか。それは、悪いことを言ったな」

「いえ。あたしも説明不足だったので、気にしないでください」


 そう告げると、二人を数秒の沈黙が包み込んだ。


「なら、お前はここを出たら、ゴミ捨て場に戻るのか?」

「そうですね。そして、また次の人を探します」

「…………」

「人間にとって……もう、あたしは……」



























           要らない子なんで……



























 その瞬間、太狼が強くメリーさんを抱き寄せた。


「ひゃっ!? た、太狼さん?」

「バカ言ってんじゃねぇよッ!」

「……え?」

「お前は、こんなにも暖かいこころを持ってるじゃねぇか」

「……太狼さん」

「そんなやつが要らねぇやつだなんて、俺が絶対言わせねぇッ!」

「…………」


 優しく全身を包み込む温もりに、メリーさんもそっと抱き返した。



























            ……太狼さん。



























   ……お願いです……あたしを、助けて……ください……



























「…………」

「……あたし、もう……一人は、嫌なんです……」

「…………」

「……一人で、いると……寒くて、凍ってしまいそうで……」

「……そうか」

「……太狼さん」


 涙を流しながら、メリーさんは太狼にくっ付いていた。

 そんなメリーさんの頭を撫でて、太狼は優しい声で告げた。


「もう、大丈夫だからな」

「…………」

「俺がお前を、絶対一人になんかしねぇから……」

「……太狼、さん……」


 メリーさんが涙目で見上げると、太狼は優しく微笑んでいた。



























      好きなだけ、ここに居ればいい。


          ここならもう、寒くはねぇから。



























 そういって、太狼はメリーさんの涙を拭った。


「……太狼、さん……」

「よく、ここまでやってきたな。メリー……」

「……はい」



























       お前のことは、今、この俺が拾った。



























     これからは、ここがお前の【 帰る場所 】だ。



























   メリーさんは、静かに涙を流しながら、


         その言葉に、精一杯の笑顔を返した。



























          ……凄く、嬉しいです。



























 あたし、メリーさん。今、あなたの腕の中にいるの……

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