第6話 保育園児のけいちゃん、げんきちゅうにゅう

 

 

「けいちゃんはどんなあそびがすきー?」

 

 どんな遊びが好きかと聞かれては答えに迷ってしまう。何のつもりでの質問だったのか。もしかしたら、俺が何かを悩んでいる事を感じ取ったのかも知れない。

 子供はわりあい、そう言うのに敏感なのだと言う。

 

「あそび……?」

「うん! ほら、おままごととかさっかーとか」

「ほかには?」

「おにごっことか、かくれんぼとか!」

 

 俺は大して遊びの経験がない。鬼ごっことか、缶蹴りとか。そう言うのがあった事は知っているけど、遊んだことがない。

 俺は鬼ごっこをしたりする楽しさがわからない。

 

「おもしろいの?」

「うん!」

 

 もしかしたらここで知った遊びをこれから出来る弟妹に教えてやることが出来るかもしれない。

 なら、これは思ったよりも有益な事なのではないかと思えてきた。

 

「せんせいは?」

 

 先生はやらないのだろうか。

 俺は隣に立っていた先生を見上げて表情を伺う。

 

「えーと、ね……」

「え?」

「ごめんね、京ちゃん」

 

 何で謝るんだろう。

 別に先生に悪いことなんて一つも無いのに。

 

「今日は一緒に遊べないの」

「なんで?」

 

 もしかして俺は迷惑をかけてしまったんだろうか。だから、そんな顔をしているのか。

 

「大丈夫、大丈夫だから」

 

 俺の小さな身体を抱きしめて先生は頭をちょっとだけ強く撫でて。

 

「元気〜、注入っ!」

 

 と、子供向け番組のお決まりのセリフの様なものを俺に向けて言った。俺の両肩を優しく掴んで、しゃがんでいる先生は話す。

 

「大丈夫、京ちゃんなら先生が居なくても大丈夫だから。それに智也くんも居るから」

「せんせい……」

「元気は注入したんだから」

 

 そんなの。

 そんなの子供には通用するかもしれないけど、俺は大人だから……。

 

「せんせい、げんきちゅ〜にゅ〜っ!」

 

 子供らしく俺も先生に抱きつき返した。

 

「あはは、折角元気上げたのに」

「うん……」

「大丈夫だよ、京ちゃん。京ちゃんは元気だから」

「うん」

 

 ごめん、先生。

 嬉しかったんだ、俺は。元気だけじゃなくて幸せを貰ったんだ。

 大丈夫だ。もう心配はかけない。先生から元気を貰ったのに、そんなのダメだ。

 

「けいちゃん?」

 

 俺と先生のやり取りを見ていた智也も飛び込んで入ってくる。

 

「おれもおれも〜! けいちゃんにげんきちゅうにゅっ!」

「わぶっ……!」

 

 先生が壁になってくれたお陰で倒れずに済んだけど、突然、何をするんだか。

 

「けいちゃん、ちょっとひんやりしてる」

「あ、あつい……」

 

 夏真っ盛り、気温も高いこの時期に、智也の肌は少し暑苦しく感じた。

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