第5話 保育園児のけいちゃん、にゅーすです

 

 散歩のあった日から一月くらいか。

 お父さんから弟か妹ができるぞ、というニュースを聞いた俺は何とも言えない感情を抱いた。

 現在三歳、もうすぐ四歳の俺に弟か妹が出来る。

 不安なのは歳の差とかではなく、弟か妹が出来るということ。喜ばしい所もある。前世では兄弟姉妹に縁がなかったし。だから不安だ。どう接すればいいか分からなくて。

 

「おとうと……」

「性別は分からんがな」

 

 お父さんは苦笑いしてる。

 それでも言葉の節々に喜びが見えて、俺も喜ばなきゃならないんだと言い聞かせる。

 本来はこうやって生命の誕生は尊ぶべきで、喜ばなければ罰があたるんだ。

 

「やった」

「お、そうかそうか。なら、もう一つ。今日の晩ご飯はシチューだ」

「しちゅー!」

 

 もうすぐ生まれてくるはずの弟妹に俺はなんとも言えない感情を抱いている。

 

「もうすぐ母さんも帰ってくる」

「おかあさん、だいじょうぶ?」

「ん? ああ、お腹のことか。大丈夫だ、その時はちゃんと休ませるからな」

 

 そう言ってお父さんは俺の頭を撫でた。

 どうせ俺の不安なんて些細なことだ。きっとお父さんもお母さんも、俺の不安なんてちゃんと払拭してくれるだろう。

 

「ほら、ここで待ってろ。危ないからな」

「うん」

 

 台所に俺を連れてくつもりはない。

 その間はひたすらに暇でどうしたものだろうと思いながらもテレビの電源を点けた。

 夕方のこの時間帯は少し退屈なテレビ番組をやっていたりする。

 

「きょうだいか……」

 

 俺は姉として振る舞えるのか。

 弟妹を守ることができるのか。ちゃんと愛してやれるのか。

 どうなんだろう。

 愛の受け取り方も与え方もまだまだ不慣れな俺だ。それでもお母さんとお父さんが俺のことを愛してくれている事はよく分かってる。

 それに倣えば良いだけなんだ。

 

「ただいま、京ちゃん」

「ん、おかえり」

 

 俺のいる部屋の中にお母さんが入ってきて着替え、部屋着に戻ると俺の顔を見て中腰になってにっこりと笑った。

 

「京ちゃん、弟か妹ができるのよ」

「おとうさんにきいたよ」

「そうなの」

「うん、うれしい!」

「良かった。生まれたら優しくしてあげてね」

 

 お母さんは自分のお腹を撫でた。

 そこにもう一つの命がある。

 

「うん!」

「じゃあご飯ができたら呼ぶからね」

 

 お母さんは部屋から出て行った。

 もう一つ、不安がある。

 それは俺がもしかしたら必要とされなくなってしまうんじゃないかという事。なによりも、誰にも必要とされないことが俺は怖い。必要とされていたいんだ。誰でも良いから、俺を認めて欲しい。

 

「ぐすっ……」

 

 何で、こんなことで泣くんだよ。こんな事で泣いてたら俺は役に立たないって言われちゃう。泣くなよ、止まれよ。

 

「ひくっ……」

 

 俺は、俺は、ちゃんと必要とされてるから。前とは違うんだよ。誰にも必要とされなかった前とは違うから。

 だから、止まれよ。

 

「とま、れって」

 

 泣き方なんていつ思い出したんだよ。

 そんなの前だったら忘れてたはずなのに。笑い方も、怒り方も。おかしくなったんだろうか、この世界に来てから。

 

 なあ、神様。

 

「おれはかわっちゃったのか……?」

 

 胸の奥がズキズキと痛む。

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