第6話
俺は取引先への道を急いだ。
取引先のビルが見えてくるにつれ、周囲の様子が普段と違ってるような気がしてきた。やたらと人だかりができてる。その輪の真ん中、取引先ビルの出入り口に救急車が停まってた。ちょうど担架が車内に消えるとこ。載ってた人の顔は見えなかった。後部ハッチが閉まり、救急車はサイレンの音けたたましく病院へと去ってった。集まってた人だかりも散っていき、救急車のそばまで出てた社員らしき人たちもビル内へ消えてった。
「何があったのかな」
急病か、はたまた事故か。まあ気にしても仕方ない。それより社内はバタバタしてるだろう。そんなとこへいきなり尋ねてくのもなんだかな気がするので、3分、いや5分だけ待ってからビルに入ろう。アポの時間にちょっと遅れるけど、ビル前で救急車を見たと言えばなんとか
きっかり5分待ってビルに入る。受付の女の子が俺の顔を見て「あっ」というような顔をした。おかしいな。普段ならなんかかわいそうなものを見るような顔をするんだけどな。俺が毎度毎度、ここのクソ担当者に怒鳴られてるのを知ってるんだろう。
何ごともなかったかのようにこっちの名前を言って来訪の用件を伝える。
「しばらくお待ちください。今、係の者が参りますので」
気のせいか、受付の子の声がおどおどしてるような気がする。もしかして俺の顔が怖い? ならまずいぞ。「嫌だ」という感情が顔に出てしまってるのか。気をつけてたつもりだったんだけどな。玄関ロビーを歩き回るふりをして背を向けて顔を直す。あえいうえおあお、かけきくけこかこ。よし、もう大丈夫。いや、念のためにもう1回……。
「宇山さんですか、お待たせしました」
背後から俺の名が呼ばれた。でもいつものあのクソ野郎の声じゃない。第一あいつは俺を「さん」
振り向いた先に立ってたのは若い男。俺より年下か。いままで会ったことない。首からネームプレートを
でもなんであのクズが出てこないんだ?
「あのう、富野課長は」
「申し訳ありません。富野は急用ができまして……」
その瞬間、俺の中でパズルがカチリとはまる音がした。恐ろしい恐怖のパズルが。
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