第24話 ブーデの思惑と形式変更
異世界人を呼び出した後は、各地に飛ばされた異世界人を保護した国が責任を持って面倒を見ることになっている。これは異世界人たちの意思は関係なく、そういう風に定められたことである。
どんなに他の国に行きたいと主張しても、それが通らないのはそういうことだ。
そして、それは国同士でも同じで、どんなにそっちにいる異世界人が欲しいと主張しても手に入れることはできない。
そういう取り決めがなされているはずだった。
「今なんと言ったブーデ皇帝」
「ふひっ。だから、この親善試合で我が国が全ての国を凌駕したら、そちらにいる異世界人たち全員を寄越せと言ったんだよ」
「何をバカげたことをっ!」
あの豚の王様は何を思ったのか、そんな決まり事すら無視してそんなことを主張していた。
付け加えると、自分たちの国がもっと俺たち異世界人を強くして最古のダンジョンを攻略してくるからと。
しかも、今回の試合形式も変更しろと主張して。
そんな変更しろと主張した試合形式だが、今までは軽く異世界人同士で運動会のように競いあうような形だったのだが、今回ブーデが提案したのは、異世界人だけじゃなく自国の戦力も加えていいから実戦形式にするというものだった。
それにはさすがに他の国も黙っておらず、否定の声が多く挙がっていた。
しかし、そんな中で一つの国だけ賛同した。
それがマージェス神聖国。
「いいんじゃないですか?実際今までのようなお遊戯会では、どのくらい強いのかハッキリとは分からなかったのですから。過去の文献を見ても、お遊戯会では良い成績を出していたにもかかわらず、実際戦闘になったら使いものにならなかったなんてこともあったようですしね」
主張としては理解できることだったが、その内にある魂胆は別なのだろうと俺でもわかる。
元々この国が異世界人を呼ぶための技術を要していたわけだから、異世界人を集めたいと思っているのは目に見えている。
ある意味その点に関しては、バルガン皇国と意見が一致したのかもしれない。
その二つの国とは違うが、ここダイダル帝国もどちらかと言えばあちらよりのような雰囲気があった。
それはブーデが言った、自国の戦力という単語に同調したからだろう。
ここダイダル帝国も戦力としてはそれなりに強いので、負けないとでも思っているのかもしれない。
その三カ国以外の国は、一旦自国のものたちと相談するとして時間が取られることになった。
「俺としてはいいと思うぜ!自分たちが今どのくらい強くなってるのか確認しやすいし」
「そうね。それには同意するわ。でも、私は他の同級生や先生と戦闘なんてしたくないかな」
「ボクはどっちでもいいかな〜。セイジはどうなの?」
自国のものたちと話し合うはずなのに、王様から決定権を全て俺たち異世界人に託されてしまったので、俺たち四人はこうして話し合っている。
「昨日見た感じ、他の国にいる人たちはそんなに強くないと思う」
「それなら戦おうぜ!」
「なんか最近思うんだが、リョウタお前戦闘狂になってないか?まぁそんなこと今はいいけど。とりあえず、他の国にいる同郷の人たちは強くはないと思うが、昨日はいなかったはずのあの豚の側にいる人たち。あの人たちはなんか他とは違う気がする」
「いなかったはずのって…あのフードを被ってる人たちかしら?」
「そう、なんかあそこの人たちは他とは違う。魔力の質というかなんというか」
俺とリサコの目線の先には、ブーデがこの提案をした策であろう人物が四人、フードを目深に被って顔を隠していた。
きっとその四人も隷属の首輪を付けられた奴隷なのだろうが。
「セイジでもあの四人には勝てない?」
「いや、それはどうだろう。普通にこの世界の魔法のことを考えたら、今のレナたちでも勝てる気はするんだけど……。確証はないぞ」
「ふーん、そっか」
「おい、セイジ。さっきから無視してるが、俺は戦闘狂じゃないからな!それに勝てばあいつらを解放できるんだからやろうぜ」
バルガン皇国から解放してあげたいという気持ちはわかるのだが、不確定要素がある中でやるというのも悩みどころだった。
そんな話し合いが他の国でも行われて、それから十分後。
自国で出た答えをそれぞれ発表した。
その結果、ルールの変更は認められることとなる。
ちなみに俺が出した答えは、変更しないというものだった。
「多数決で負けたが、試合で勝てば問題ないだろ」
「ほんとリョウタのそういうところは良いと思うよ」
「サンキュー」
言葉にはしなかったが、能天気でという単語がつく皮肉を言ったつもりだったのだけど、やはりリョウタには通じなかったようだ。
試合形式になったので、各国異世界人と自国の人を入れて全部で十人による個人戦を行うことになっている。
エリアスタ王国の出場者は、俺、リョウタ、リサコ、レナの四人が異世界人枠で、魔法師団から団長のレイモンドさんとタミアさんの二人、騎士団から団長のリカルドさんと副団長のライネルさんの二人、そして第三王女のメリッサ様と第三王妃のララリット様の二人合わせて計六人が現地人枠として参加することになった。
王族の人たちが参加すること自体止めた方がいい案件なのだが、二人よりもまだ幼い六歳のラモン様が出たいと駄々を捏ねたのを宥めるのには苦労した。
そう、何故か実の母親であるララリット様とかではなく、俺が宥めることになったのだ。
一人っ子の俺には難易度の高いミッションだった。
「セイジお兄ちゃん。僕の分も頑張ってきてね!それで帰ったらいっぱい魔法教えてね!」
「あぁ、わかったよ。だから大人しくあっちで王様たちと待っててくれよな」
ご覧のように何故か懐かれているので、俺はラモン様のお守りを担当させられていたりするわけだ。
エリアスタ王国がそんなことをしている間にも他の国も出場者たちが決まったようで、ようやく今回の親善試合とは名ばかりの戦闘が始まろうとしていた。
今回の試合形式は各国のトーナメント戦になるようだ。
そして、エリアスタ王国の初戦の相手は有難いのかどうかはわからないが、潰しておきたいと思っていた豚の国だった。
突然異世界転移させられたが、魔法が使えるのでなんとかなります 燿玖 @yo_ku
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