第23話 暗躍する豚


 国外への勝手な移動が制限されているが、普通に話すことに関しては特に禁止もされていなかったので、俺たち四人は他の国にいる同郷の人たちと色んなことを話した。自己紹介からどこのクラスだったのか、この世界に来てどんなとこに飛ばされてどんなことに巻き込まれたのか、今までどんな生活をしてきたのか、と色々と。

 ここで同級生たちと言わないで同郷と言ったのは、この世界に飛ばされたのは俺たち生徒だけでなく先生までも飛ばされていたようで、ちょうど俺たちの担任の先生が他の国に保護されていたからだ。


 話せたことはよかったが、やはり気がかりだったのはバルガン皇国内へと飛ばされた人たちのことだ。

 彼らは、隷属の首輪のせいで喋りたいこともまともに喋れないようにされているようだった。

 それもこれも全てあのぶよぶよ肉だるまな王のせいだろう。

 助け出してあげたいのは山々だが、そうすると国際問題になるのでできないというのが現状だ。



 「セイジの力で何とかできないのか?」


 「さすがに無理だな。仮に俺らが勝手に助けたとしたら、向こうの国には大義名分ができて戦争に発展しかねない」


 「だよなぁー。一応清潔にはさせてもらえてるようだけど、あんな状態はないよな」


 「そこが唯一の救いかもしれないな…。一つだけ、助け出せる可能性があるとしたら、あっちがちょっかいを掛けてきた時ぐらいだな」



 会食中も俺たち異世界人に変な視線を寄越していたのは知っているので、それも有り得なくはないが絶対に何かあるとも言えない。


 結局その日の夜は特に何かが起きることもなく、普通に睡眠を取ることができた。



 ◇ ◆ ◇



 セイジたち異世界人たちが気楽に過ごしていた時、実はバルガン皇国が行動を起こそうとしていたのだが、それよりも先に異世界人への警備が強化されていたために実行することができなかったのである。



 「ちっ、僕の邪魔をしやがってっ!」


───パァン


 「ィ……」



 ブーデは自分の計画を潰されたことに苛立ち、そのストレスを自分が連れてきていた異世界人とは別の奴隷に鞭を振るうことによって発散していた。

 その奴隷はもう既に何度か叩かれた後なのか、肌のあちこちに蚯蚓脹れができていた。


 今回ブーデが計画していたのは、奴隷たちを使って異世界人の部屋へ侵入させて、寝ていたらそのまま首輪を付けて、起きていれば奴隷という立場を利用して同情心を誘い油断したところで首輪を付けさせてこようとした。



 「はぁ…はぁ…。おい、水持ってこい」



 普段から運動などしてないような体型のブーデは、ストレス発散の鞭打ちだけで疲れたのか、息を切らしながら近くにいた叩いていた奴隷以外に怒鳴りながらそう命令した。

 首輪の強制的な効果によって逆らうことができずに、その命令された奴隷は急いで水を持ってくる。それなのにその奴隷も鞭打ちされた奴隷と同様に殴られてしまった。



 「遅いっ!僕が欲しいと思ったらもう持ってきてるのが普通だろ!使えない奴隷だな」



 ブーデの身の回りのお世話をするのは基本的に女の奴隷で、普段から鞭を打たれるのは男の奴隷なのだが、今回は自分を大きく見せるためか女のそれも綺麗どころの奴隷を連れてきていた。今回鞭打ちされたのも殴られたのもその奴隷たちだった。ただし、一つだけ付け加えるとその奴隷は普通の人ではない特徴があった。

 それは見ればすぐにわかるもので。

 鞭打ちをされていた方は、獣の耳や尻尾があり、肌も少しその獣の毛が生えているところがあった。

 殴られた方は、耳の形が少し尖っていて、完成された美と表現してもいい容姿をしていた。



 「見た目が良かったから連れてきたが、獣人も森人も動物だから気の利くことなんてできなかったか。これじゃあ連れてきたのが失敗だ」



 先程の会食の時はまだお披露目をされてなかったので、この二人はセイジたちとは顔を合わせてはなかった。

 もしセイジたち異世界人が見ていたら、きっと騒いでたに違いない。

 動物的特徴を持つ獣人と容姿が良く寿命が人よりも長い森人は、セイジたちの世界では二次創作の中にしか登場しないのだから。

 ちなみに森人とは、セイジたちに合わせて言うとエルフになる。


 結局その後も、何かと難癖をつけては八つ当たりをして気が済んだら森人に自分たちの治療をしとけと命令をし寝室へと向かっていった。

 寝室には他の女奴隷がいて、それは獣人や森人とは違い普通の人で、これから更に違う意味でストレス発散をすることになる。


 獣人と森人、それに他にも土人や魔人といった存在は、奴隷にされてもそういった夜のお世話をすることはなかった。

 それは、ブーデが普通の人相手じゃないと気持ち悪いと思っているからなのだが、彼女たちの唯一の救いはそこなのかもしれない。


 普通の人とは違う種族は、それぞれがそれぞれの強力な武器があり、獣人は全体的に身体能力が高く獣の種類によっては対空戦や隠密など様々なことができる。

 森人は自然との調和性が高く木々や動物、精霊など様々な友を持ち、それを力にすることができる。植物を操る樹魔法や精霊術と言ったものだ。

 土人は主に力が強く戦闘もできるのだが、専門は鍛治などの生産系である。所謂ドワーフという存在だ。

 魔人は魔力との親和性が高く魔法技術の高い存在が多い。見た目的にはそこまで普通の人との違いはないが、魔法の力が断然に違いすぎる。


 ブーデたちバルガン皇国は、自分の国の近場にある彼らの領地を襲い、そして奪って自分たちの国の力を増やしてきた。

 そのおかげで今では、他の国よりも軍事力のある大国になっているのだった。

 他の国がそんな暴挙を繰り返すブーデたちバルガン皇国を野放しにしている理由は、そんな軍事力があるからこそであった。


 その日動くことができなかったブーデは、そのまま大人しく終わらせるつもりもなく、次の日に動き出そうと色々と考えながら女奴隷を組み伏せて腰を振り続けた。

 その時のブーデは不気味に笑っていたので、女奴隷は少し怖い思いをしていたのだが、ブーデからしたらそんなのはどうでもいいことだった。



 「ふひっ、ふひひっ、明日が楽しみだ。絶対異世界人の女を手に入れてやるんだもんね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る