第22話 国家間会議


 それからあっという間に日付は過ぎていき、各国が集まる会議の日がやってきた。

 この会議の主な目的は、各国が保護した異世界人の教育がどのくらいまでできているか、という見世物のような確認のようなものだ。俺たち異世界人側からしたらたまったものではないだろうが、これも今後のために必要なものなのだろう。


 今回参加するのは、この大陸の東側に位置する俺たちが保護されているエリアスタ王国、同じくこの大陸の北から西にかけて国土にしているダイダル帝国、同じくこの大陸の中心部から四方に広がってる広大な森を縄張りにしている獣人とエルフの国。獣人とエルフの国は、国とは言っているが各集落の集合体である。

 もちろんそれで終わりではなくて、海を隔てた隣の大陸にある宗教国家のマージェス神聖国、あまりいい噂を聞かないバルガン皇国、 あったら気になるなぁって思ってた冒険者組合本拠地。計六カ国が集まることになっている。

 冒険者組合本拠地とか獣人とエルフの各集落の集合体とか国じゃない気がするけど。そこは気にしたら負けなんだと自分に言い聞かせた。



 「自分たちの保護されている国すらまだちゃんと観てないのに、他国に足を伸ばすなんて思いもしなかったな」


 「そうね。それに会議だと言いながら、こんなパーティーなんてね」



 俺のちょっとした独り言に反応したのは、淡い青のドレスを着込んだリサコだった。

 普段はあまり化粧をしていないのだが、今回はパーティーだからか化粧もしていてその服装と相まって一段と色っぽく見えた。



 「よく似合ってるな、その格好」


 「ありがとう。そういうセイジくんもカッコイイわよ」


 「そうか?俺はなんか着せられてる感が凄くて、あまりいい感じには思えないけどな。そういや、レナはどうしたんだ?」


 「レナならあそこよ」



 リサコの示した方に目を向けると、そこではレナが料理をこれでもかってくらいに皿に取り分けていた。

 その近くでリョウタの姿も見えた気がしたが、もうあの二人のことは気にしない。

 ちゃんと二人のお世話係がいるしな。



 「確かこの後、俺らって模擬戦とかやらさせるんだよな」


 「えぇ、でも模擬戦は明日からみたいよ。今日はとりあえず自国が保護した異世界人の紹介とかをするぐらいらしいわ」


 「へぇ、そうなんだ。てか、なんでそんなことリサコが知ってるんだ?」


 「セリア様から直接聞いたからね」


 「セリア王女っていうと…確か第二王女様だっけ。適性属性は水でリョウタと一緒だったかな」



 まさかリサコが、王女様とそんなやり取りをしていたなんて思わなかったので内心驚いたが、敢えてそこには何も言わず平静を装い対応した。



 「セイジくんは王城の人たちみんなに魔法教えていたものね。さすがに私が王女様と仲良くなってるなんて驚きもしないか」


 「いや、驚いたけどなんかお茶会とかしてるって前に言ってたしね。それとあの訓練期間、俺の訓練は何故か他人への指導だったんだが、よかったのか?」


 「いいんじゃないかしら?正直魔法込みでの戦闘になると、セイジくんはこの世界で最強に近いと思うし」



 さすがに最強は言いすぎな気もするが、エリアスタ王国内ではそこそこ強いとは自分でも思っている。

 この数日間全てが全て指導だけで終わったわけではなくて、ちゃんと冒険者として依頼を受けてみたりもしたし、なんなら冒険者と模擬戦なんかもちょこちょこしたので、自分の実力がどんなものなのか把握できている。

 冒険者の人たちの中だと、支部長や『赤鉄の絆』の人たちが強く感じたが、まだまだ負ける気はしなかったかな。



 「来たわね」



 リサコの一言に俺は視線を動かしてみると、ちょうどこの広間にある扉が開き他の国の人たちが入ってきたようだった。

 一応、同じ大陸のダイダル帝国の人たちや獣人やエルフの人たちとはもう挨拶は済んでいる。

 今もお互いに刺激し合わないように、各国用に用意された場所で待機している状態だ。


 そこからわかるように、今入ってきたのは隣の大陸にある国々で、その三カ国はそれぞれの装いのおかげでどれがどの国なのかわかり易かった。

 マージェス神聖国は、如何にも聖職者ですよって言わんばかりの装いで、保護された俺たちと同じ異世界人も同じ服装をしていた。

 冒険者組合本拠地は、武器はないにしても今から戦闘する気満々って感じに防具は付けており、異世界人も同様に装備していた。

 そしてバルガン皇国、ここは見ていて胸糞悪い感じだ。王は肥太った体型で無駄に煌びやかな服装をして見た目気持ち悪いと思うだけだが、その周りにいる異世界人の装いは、見るからに奴隷ですよと言わんばかりの布切れで首には鎖付きの首輪が付いていた。



 「セリア様から聞いてた通りのようね。今すぐ解放させてあげたいけれど、それは国家間として禁止されているのよね」


 「ああ…。それに異世界人の奴隷だけじゃなく、それ以外の奴隷も少し連れてきてるみたいだ。たぶんあの人たちは、攻撃された時の盾にされるんだろう」



 俺がわかってるように他の国にいる異世界人もわかっているのか、助けたい気持ちはあれど誰も手を出さないようだった。


 そんな俺たちの視線を無視して、バルガン皇国から来たヤツらは自分たちの用意された場所へと向かっていった。

 マージェス神聖国は各国へと軽く会釈をしながら移動していく中で、冒険者組合本拠地だけは違った。

 何故か先頭にいる人が、どんどんこちらのエリアスタ王国用の場所へと向かって来ている。

 それによって、後ろにいる人たちまで全員こちらへと来ていることになる。



 「初めまして。私は冒険者組合本部の組合長をしているクレイと申します。こんないきなりで失礼だとは思いますが、あなたがセイジ様でよろしかったですか?」


 「え、あ、はい」


 「そうですか。あなたが…。あぁ、いや、なにちょっとお礼を申し上げようと思いましてね」



 クレイさんのその言葉に疑問符を浮かべていたら、クレイさんが小声になって耳元でその理由を教えてくれた。



 「あなたが冒険者組合に魔法の使用方法などを教えてくれたらしいのでね。あぁ、一応他の支部にはまだ教えてませんよ。今知ってるのは、本部の上層部とエリアスタ王国の王都にある組合だけです」



 魔法がまだまだ未発達と言わざるを得ないこの世界からしたら、俺のしたことはお礼を言われる程なんだとは思うが、まさかこう直接組合のトップの人から言われるとは思いもしなかった。

 さすがにそんな長く話すことはできなかったが、話している途中でチラッとバルガン皇国の方を見たので、魔法をまだすぐには広めない理由はそれなんだと理解することができた。


 それから各国はそれぞれ自分たちの場所に着き、場所を提供してくれたダイダル帝国の皇帝が音頭をとって、今回の国家間会議という名のパーティーが開催されることになった。

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