第20話 訓練開始?


 朝六時三十分くらいにメイファさんが部屋へ訪れ、カーテンを開けられて優しく声をかけられて起床する。

 その後、着替えをし顔を洗ったりして目を覚ます。

 それも済めば、メイファさんに触れ魔力を軽く流して魔力を知覚させたり、自分の知ってる魔法のことについてを話して実際に魔法を試してもらう。

 それらは七時になるまで続けられ、時間が来れば終わり朝食を摂りに移動をする。

 これがここ最近、三日程の朝の日課になる。


 日課も終われば、次に来るのが訓練になる。昨日一昨日は、この国のことや歴史について必要な知識を聞かされた。そして今日だが、魔法師団による魔法の実技訓練を受けることになっていた。

 しかし、予想通りというか、俺たち四人は俺のおかげで全員魔法が使えてしまっていたために、当初予定していた訓練内容とは別のメニューになってしまった。それもそれぞれ別々の。


 聞いた話によると、俺以外の三人は近接戦闘がまだまだ甘いということで、騎士たちに混ざって訓練をするとのこと。

 そして、俺はと言うと……。



 「もう皆知っているだろうが、こちら、異世界人で我が国が保護した一人の、セイジくんだ」


 「えっと、今ご紹介に上がりました。セイジと申します。よろしくお願いします」


 「はははっ、そんな硬くならなくていいよ。我々は君に指導を受ける生徒なんだからね」



 何故か、この国の魔法師団の方たちに魔法の指導をすることになってしまっていた。

 それも全てリョウタたちの無責任な発言のせいだ。



 ◇ ◆ ◇



 数時間前。

 朝食も終え、俺たちは訓練のために、まずは魔法師団に魔法の使い方や知識などを教えてもらうことになった。



 「初めまして。異世界人の方々。私はこの魔法師団の師団長を務めているレイモンドと申します。以後お見知りおきを。早速で悪いのですが、四人にはすぐに強くなっていただかなくてはならないので、魔法についてお話させていただきます」



 それから話されたレイモンドさんの話の内容は、一部は俺がみんなに話したことがあるものであり、一部は話してはいないが不要なものだった。

 何が不要かというと、例えば、異世界で魔法と言えば思い浮かべるのは、詠唱だと思う。

 これは昨日の冒険者組合で言ったように、不必要なものになる。

 しかし、この世界の常識では、詠唱は絶対必須とされている。

 それだけじゃなく、他にも魔法が使えないものがいるだとかなんとか。色々と間違っている知識を話されていた。


 それらの説明も終わり、何か質問がないかと聞かれた。

 それに答えたのは、リョウタとレナの二人だった。



 「俺たち詠唱なんてしてなくても普通に魔法使えているんだが、これはどういうことなんだ?」


 「ん?」


 「それにボクたちを助けてくれた冒険者の人たちの中で、魔法が使えないって言ってた人も普通に魔法使えるようになったよ」


 「んんん?」



 そんな二人からの質問というか自分の知らない情報を与えられたレイモンドさんは、すぐにはそのことを理解ができなかったようで混乱していた。

 ただ、これはレイモンドさん以外のこの場に魔法師団の人たちも同様だった。

 そこにさらに追い打ちをかけるように、二人は何故魔法が使えるのか、何故そんなことを知っているのか、などを話し始めた。


 それにより、未だに信じられないレイモンドさんから実演してみせてほしいと言われてしまい、リョウタとレナだけではなく俺とリサコまで魔法を披露することになってしまった。

 その時のレイモンドさんたち魔法師団の反応は、開いた口が塞がらないという表現がお似合いの状態だった。

 その後、魔法師団の人たちから、急遽俺たちから講義を受けたいという声が多く上がったものの、他にも俺たちの訓練はやることがあるのでそれはできないとレイモンドさんは悔しそうな表情で言い、騎士団の人たちを呼びに走っていった。


 次に行われるのが、近接戦ではどの程度動けるかを確認することだった。

 この世界では、魔法が使えるものは後方から魔法を放つ砲台に、使えないものは前方で武器を使って魔法が放たれるまでの時間稼ぎをする、というのが一般的な常識だった。それには、この世界の住人に限りとつくが。

 過去の異世界人に関する情報で、異世界人は例外なく魔法が使え尚且つ近接戦も行えるポテンシャルを持つものが多いと判明している。

 そこで、異世界人の訓練は、強力な魔法の講義を行い、それが終われば近接戦の講義を行うようになっていた。そうすることによって、魔法が使えなくなった時でも戦えるようにということだ。


 その考えには、俺も同意見である。

 いくら強い魔法が使えるからと言っても、もしかしたら魔法が効かない相手と戦うことになることもあるだろうし、魔力だって無尽蔵ってわけではない。

 だからこそ、魔法以外にもちゃんとした剣術とか体術とかが必要になる。

 まぁ全て爺ちゃんの受け売りであるが、爺ちゃんとの組手やこの世界に来てからこれまでのことを考えれば、受け売りじゃなくても理解していることだと思う。


 だが、ここで騎士団を連れてきたレイモンドさんが、我儘を言い出した。

 先程リョウタとレナの二人が、俺から魔法を学んだということを言ったからか、レイモンドさんは俺だけでも確保しようとしたのだ。



 「リカルド、頼む。セイジ様だけでも私たちに貸してくれ」


 「何を言っているんだお前は?セイジ様たちは今から近接戦闘の訓練をだな」


 「そこをなんとか。セイジ様の魔法の講義を受ければ、私たち魔法師団は今よりも強くなれるんだ」


 「何を根拠にそんなことを言っているのかは知らんが、ダメなものはダメだ」



 騎士団長であるリカルドさんは、そんなレイモンドさんの我儘を許さず、残念ながらレイモンドさんのその願いは受け入れられなかった。

 魔法師団の皆さんもお通夜のような雰囲気を出し、今から行われる俺たちの近接戦闘の講義を眺めていた。



 「レイモンドのせいでちょっと変な感じになってしまったが、俺がこの騎士団の団長を務めているリカルドだ。よろしくな。魔法は大丈夫ということだったので、次に近接戦に関してのことになるんだが、その前にまずお前たちが、今どの程度できるのかというのを見ておきたい」


 「はい!リカルドさん」


 「なんだ、リョウタ?」


 「それって今からちょっと手合わせをするってことですか?」


 「そういうことだ」


 「魔法の使用は無しなんですか?」


 「当たり前だろ。魔法なんて使われたら、俺たちがどんなに頑張っても勝てないだろ」



 リョウタの言っている魔法は、きっと身体強化とかなんだろうと俺たちは理解している。

 しかし、この世界の人々の認識では、魔法とはぶっぱなして使うものと捉えているようで、リカルドさんも勘違いをしているようだった。

 そして、質問していたリョウタは、そのことをわかってないようで馬鹿正直に了承していた。


 ただ、この訓練は魔力切れに陥っても大丈夫なようにということも含まれているので、今回はそれでいいのかもしれない。



 「それじゃあ、セイジ様から順番に行きましょうか」



 リカルドさんが直々に見てくれるようで、俺と距離をとって木剣を構えた。

 リカルドさんが距離をとっている間に、俺は騎士団の人から木剣をもらっているので、素手で相手をするわけではない。



 「準備ができたら、自分のタイミングで攻めてきてくれて構わない」


 「はい。では、行きます!」



 今回は魔力での強化はなしになるので、純粋に自分がどの程度動けるのか試すのにいい機会でもある。

 まずは愚直に正面から突っ込んでみることにした。



 「ほう、思ったよりも速いな。だが」



 俺は昨日のことを思い出して、上から下へと力いっぱいに袈裟斬りをお見舞いしようとしたが、昨日の自分とは違って簡単に弾かれてしまった。

 今回に限っては、それで終わりにしとけばよかったのかもしれない。


 俺はそれによって軽く体勢を崩されたが、その状態からさらに今度は片足による一回転からの横薙ぎ、そしてさらに受け止められたその上から回し蹴りをする。最後に追い打ちでその回し蹴りの勢いを利用してジャンプをし軸にしていた方の足でかかと落としを決めてから、すぐに距離をとった。

 それら一連の攻撃をリカルドさんは見事に防いでいた。



 「っ~。なんちゅうでたらめな攻撃をするんだ。最後の攻撃なんてまともにくらってたら、今頃俺はここでぶっ倒れてるところだぞ」


 「いやいや、とか言いながら全て防いだじゃないですか。では、また行きますね」



 俺としては久しぶりの組手だったので楽しく、そこからさらにその戦闘は過熱していく……はずだった。



 「やめだやめだ。セイジ様は合格だ。レイモンド、セイジ様のことを連れて行っていいぞ」


 「話がわかるじゃないか。ささっ、セイジ様こちらに」


 「「「こちらに!」」」



 こうして俺はレイモンドさん率いる魔法師団の人たちに連行されてしまうのだった

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