第18話 冒険者組合
セイジ本人は特に大したことはなかったと言っていたが、実は結構色々とやらかしていた。
少し時間は遡り。
昨日アルヴィンがリーダーのパーティー『赤鉄の絆』が、ドライダルの森にある洞窟内で異世界人を見つけて連れ帰ってきたことで、次は自分たちもと他の冒険者たちも気合を入れて捜索を再開し始めた。
珍しくそんなほぼ冒険者がいない状態になっている組合内に、二人の人物が現れた。
一人は、どこかの貴族の家で働いているのかメイド服を着用している女性。
そしてもう一人が、昨日アルヴィンたちが連れてきたという異世界人の一人と特徴が似ている人物だった。
「へぇ、ここが冒険者組合か~。なんか想像してたところとは違いますね」
「それはどういう…?」
「あぁ、悪い意味じゃないですよ。まぁ失礼かもしれませんが、冒険者のイメージ?的な感じが…ですかね。それにしてもいつもこの時間はこんなに人がいないものなのですかね?」
「いえ、そんなことはないですよ。いつもだったら、あそこに併設されている酒場で夜中から朝方にかけての依頼を終えた冒険者なんかが飲んだくれていたりもしますから。ただ、今日は珍しくその冒険者たちもいないようですが…本当どうしたのでしょうか?」
その二人というのが、案内役として連れてきたメイファと異世界の定番として冒険者が気になっていたセイジだった。
二人が言うように今の組合内には、ちょうど依頼を達成して戻ってきた冒険者や昼間まで寝こけてしまって急いで依頼を探しに来た冒険者などの他にはいない状態だった。
それも全て自分たちを見つけた『赤鉄の絆』が、その報酬として大金を手に入れたの原因だというのだが、そんなことがわかるはずもなかった。
「あら?なんでこんなところにセイジがいるのよ」
組合内に入ったのにもかかわらず、未だに入り口付近で話し合っていた二人の後ろからそんな声がかけられた。
その人物は、昨日まで一緒に行動を共にした『赤鉄の絆』のメンバーのネリファラだった。しかも何故かはわからないが、彼女は一人だけである。
「あ、ネリファラさん。こんにちは。今日は一人なんですか?」
「そうよ。あなたたちを見つけて連れてくることができたから、当分依頼をしなくても困ることがないような金額の報酬も手に入れたしね」
「それならなんでここに?」
「今までは魔法使いの一人行動なんて死にに行くようなものだったのだけれど、今の私は、セイジあなたのおかげで一人でも戦えるほど強くなったと思うのよ。だからその力試しに簡単な依頼でも受けてみようかな、なんてね。それで、セイジはなんでここにいるのかしら?」
「別に大した理由はないですよ。俺たちの世界にはこういった職業はなくて、冒険者なんてものは本の中だけの物語でしかなかったものだったので気になっただけなんで。まぁ登録ぐらいはしてみようかなって思って来てみたんですよ」
ネリファラもセイジもお互いにこの場に来た理由を教え合い、それも済めばセイジがネリファラとメイファそれぞれを紹介をして、ネリファラがセイジに登録について軽くレクチャーしてあげた。
本来登録については、受付にいる組合員がするものでセイジの姿を見ていた組合員たちも異世界人とお近付きになるチャンスということで、楽しみにしていたのだが邪魔をされた形になった。
「ネリファラさん、酷いですよ〜」
「あははは〜、ごめんって。今度あの通りにできたケーキ屋さん奢ってあげるから。ね?許して」
「そんな私はケーキみたいに甘くないですからねーだ。ぜっーたい許しませーん」
「あら、ララナはそんなこと言うのね。なら仕方ない。やっぱケーキはなしね」
「ふぇ、ちょ、待ってくださいー。やっぱ許す。許すからお願い。あそこのケーキ屋さん気になってたんです。だからね?」
ララナは、ネリファラたち『赤鉄の絆』を担当している組合員で、ネリファラとはお互い同い年の十九歳でそろそろ行き遅れに片足を踏み入れたと言われている二十歳になるのに相手すらいないとして仲良くしている。
この時まだセイジは二人の年齢を知らない。
しかもセイジは、ネリファラと初めて会った時も今ララナを初めて見た時も『綺麗で大人っぽい人だなぁ。だいたい二十代前半くらいかなぁ?』なんて軽く思っていたりする。そんなことを口にしていたら、きっと今頃二人にハッ倒されていることだろう。
まぁそんな風にセイジが間違うのも無理はない。
日本人と外国人の顔でも、仮に同い年だとしても日本人の方が幼く見えたりすることの方が多かったりするのだから。
セイジの冒険者登録のはずだったのだが、ネリファラとララナのやり取りの方で時間を取ってしまって、想定よりも時間がかかってしまった。それでもちゃんと登録は済ませてある。
さらに今回ネリファラからの口添えで、セイジは自分よりも魔法の扱いが上手く近接戦闘もできるからとランクアップの申請が行われた。
元々異世界人が強くなりやすいというのは、この世界の住人からしたら常識ではあるが、保護された直後の異世界人がまだ弱いっていうことも常識とされていた。
そのため、いくらこの王都内でそれなりに名前を知られている魔法使いであるネリファラからの口添えだとはいえ、そう簡単にランクアップなんてできない。
なので、急遽支部長がセイジの適正を見定めることになった。
「おう、待たせたな。お前がファラの言ってた異世界人のガキか」
「え、はい。セイジです。よろしくお願いします」
組合の奥にある訓練場で、セイジとネリファラの二人は支部長を待っていた。
それも十数分経った頃にやっとここの支部長が登場したというわけだ。
「ちょっと、ケビエラ。まずは自己紹介からでしょ。それに結構待たせたのだし言うことがあるんじゃないのかしら?」
「別にいいじゃねぇか、ちゃんと来たんだしよ。とっ、それよりも自己紹介はちゃんとしとかねぇとな。俺の名前は…ってそれはファラが今言ったか。まぁここエリアスタ王国の王都の冒険者組合の支部長をしているもんだ。よろしくな」
セイジの中の支部長になる人物像は、屈強な見た目の面倒見のいい元冒険者とか頭の回転がいい見た目に騙されると痛い目に合うような細身の優男とかを想像していた。
しかし、それらの想像はやはり想像でしかなかった。
いや、屈強な見た目とかそこら辺は間違いではないのだが、セイジの中ではそれらは全て男だと思っていたのだ。
ここエリアスタ王国王都の支部長を務めるケビエラは、女性であった。
「小難しいことなんてなしにして、手っ取り早く手合わせと行こうや!」
「はぁー、ごめんなさいね。セイジ。ケビエラはあんな感じで考えるよりも行動するって人なのよ」
「いえ、それは大丈夫なんですが……。一応その、女性…?ですよね?」
ケビエラの見た目は男性並、もしくはそれ以上に筋肉隆々でガタイもよく、そして言動とかも男らしいところがあった。
その姿にセイジは困惑していた。
「あ゛?なんか言ったか?」
「あ、いえ、すいません。すぐやりましょう」
「はぁー、ケビエラは相変わらずなんだから」
こうして、ケビエラによるセイジのランクアップ試験が開始された。
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