第17話 忙しくなる前の休日


 手を加えたとはいえ体に負担をかけるような寝心地の良くないあの洞窟とは違い、今はふかふかで体にも心にも優しいベッドという環境でのこの睡眠は、一言に言って最高である。


 あの森から近い街を経由して、このエリアスタ王国の王都に到着したのが昨日のこと。

 この世界に飛ばされて実に一ヶ月といったところか。長かった、本当に長かった。

 道中にも宿屋で休んだりはしたが、やはり王城にある寝具と比べると格段に質は下がるのでここまでの感動は起きなかった…気がする。


 昨日俺たちをここに送り届けた『赤鉄の絆』の四人は、王様からの有難い言葉と報酬を貰い、そのまま王都の宿屋に向かったようだった。

 その日の夜に俺たちの歓待ということで軽いパーティーのようなものが開かれて、その場には昼間に分かれたはずの『赤鉄の絆』の四人も招待されてたようで、少し会話を楽しみながら様々な人と交流をした。

 国王だったり、その家族であったり、公爵家の人たちだったりと様々だ。中には執事やメイドさんといった人ともほんの少しだけではあるが話もした。



 「おはようございます、セイジ様。昨夜はよく眠れましたか?」


 「おはようございます。はい、ぐっすり眠れました」



 目を覚まして昨日までのことを少し振り返っていたら、部屋の扉がノックされて返事をしたらメイドさんが入ってきた。

 彼女は昨日のパーティーで話した一人だが、名前は確かメイファさんだったかな。

 年齢は俺たちより少し上で十九歳。少しくすんだ青色をした髪のこの王城に出稼ぎにきている平民の女性だ。

 俺としては同性である執事の人の方がよかったのだが、執事の場合は全員貴族の人しかいないらしく、貴族の出身の人を顎で使うようなことは一庶民としては気が引けるたので、泣く泣く執事はやめて平民のメイドに世話係を頼むことになった。

 ちなみにメイドでも貴族出身者はいるにはいるが、ちゃんとそちらも断っている。



 「まずはお着替えのお手伝いから失礼します」


 「え、いや、着替えは一人でできますから。大丈夫です」


 「いえ、しかし…」


 「本当大丈夫ですから」



 小さい頃は別にしても、今まで生きてきて誰かに着替えを手伝ってもらうなんてことがなかったし、ましてや赤の他人の女性にその手伝いをしてもらうなんて恥ずかしかったので拒否していたのだが、メイファさんは仕事だからという一点張りで引きはしなく、最終的に叱られてしまうというので俺が折れることになった。

 ついでに様付けはなんか俺が嫌なのでやめてくれと言ったのだがこれも拒否されて、俺もさすがに様付けだけは嫌なのでこれも押し問答になり、最終的に二人だけとかこの城以外で大丈夫な時だけはさん付けで落ち着いた。



 「本日のご予定ですが、朝食が済み食休みを挟まれましてから改めて国王様から今後についての詳しい話がされます。それが済み次第本日は自由になりますので、もしよろしければ城下町のご案内でもしますが…どうでしょうか?」



 メイファさんは少し顔を赤らめて言ってきた。

 昨日、執事の人からメイドは、貴族出身だろうが平民出身だろうが関係なく異世界人の伴侶になれるように狙ってくることがあると聞かされていたが、この反応を見るに案外嘘じゃなかったのかもしれない。

 それでも俺も街の様子は見たかったし、何より行きたい場所もあったのでお願いすることにした。



 「じゃあ、お願いします」



 国王様の話の内容は、今日から一週間訓練をし鍛えていくということと、一週間後にある各国の首脳陣と保護した異世界人たちの顔合わせという名目のパーティーが開かれるということだった。

 前者は話を聞いた限りだと、本来転移したての異世界人は魔法をまだ使えないらしいからなのだが、俺たちは使えるので必要が無いような気もするが、そこは黙っておいた方が賢明な気したのでそうした。

 後者はこの国が一番最後に保護した異世界人が到着したから、やっと開催できるということだった。

 それでもまだ他にも各地に飛ばされている可能性もあるので、冒険者による探索は引き続き続けるようだ。


 そんな国王様からの話も終わり、今は昼下がり。

 俺は今朝の約束通りメイファさんの案内で、エリアスタ王国の王都レネアルを見て回っていた。

 過去にも異世界人を呼んだことがあるというだけはあって、上下水などもしっかり完備されていて街並みは綺麗なものだった。

 異世界というと、よくそういうのがしっかりしていなくて現代っ子な異世界人たちが生活するのに不便に思ったりするものだが、この世界はそうでもないようだ。



 「この大陸にある他の国もだいたい同じような感じだと思われますよ。ただ…ある国だけはトップの方がトップの方なのもあって内情が荒れていたりするんですが……」


 「もしかして、バルガン皇国とかいう国ですか?」


 「そうです。よくご存じですね。あそこの国も過去これまで異世界人様方を保護してきましたが、その…扱いの方がですね……」



 メイファさんは言い淀んでいるようだったが、元々その国がどんな現状なのかはネリファラさんに聞いていたので、言われなくても想像はできていた。

 街並みがいいとはいえ、今まで召喚された異世界人が手加減したのかそれともそこまでの知識がない子供たちばかりだったのかはわからないが、そんなに凄く進歩した改革はされていないようで、未だにこの世界では奴隷制度がある。

 それも中途半端に技術提供をしてしまったからなのか、無駄にその奴隷を縛ることができる魔法具まで存在する。

 そして、そんな奴隷たちが多く産出される国がバルガン皇国というわけだ。

 そんな国に保護という名目で捕まった異世界人がどうなるかなんて、誰でもわかることだろう。


 辛気臭い雰囲気になってしまったが気を取り直して、とりあえずまだだった昼食をとることにした。

 そこはメイファさんのおすすめというか知り合いの店のようで、二人カウンターに座りながらメイファさんは今も親しげに知り合いという女性と話していた。



 「へぇ、この子供がその異世界人ってやつなのかい?」


 「もう、リアラ。ごめんなさいセイジさん。リアラは昔からこんな感じなので、もしかしたら失礼なことを言うかもしれないけど許してくださいね」


 「大丈夫ですよ。それに俺も一庶民ですし、砕けた話し方をされる方が気が楽です」



 この店はリアラさんの旦那さんが開いた店のようで、その旦那さんは今も黙々と料理を作りリアラさんや雇っているという女性店員に渡していた。

 接客は、リアラさんと今もホールを動き回っているその雇っている女性の二人なんだそうだ。

 そこまで広くないとはいえ、ここの料理は美味しく人気があるようで、今も結構人が入っていて忙しそうなのによく二人で回していると感心してしまった。


 メイファさんとリアラさんの話もある程度終わり腹も満たされたので、その後俺たちは色々と見て回った。

 その中で一つだけ気になっていた冒険者組合にももちろん顔を出して、冒険者登録を済ませてきた。

 本当はそんなことしなくてもいいらしいのだが、俺がなりたかったのでなってみた。



 「それでセイジは俺を誘わないで、メイドさんと楽しく街中デートをしながら冒険者になってきたと?」


 「そう言うが、リョウタだってこの国の騎士団とか魔法師団とか色々と見たいところを見て回ったんだろ?」


 「そうだけどさー、やっぱ異世界と言えばってとこがあるじゃん」



 帰ってきて夕食も終わり俺たち四人は、部屋で集まって今日の出来事を話し合っていた。



 「ふーん、早速メイドさんと……ねぇ」


 「いいなぁ。ボクも冒険者組合行ってみたかったなぁ」


 「いやいや、リサコもなんか誤解してるようだけど、別にメイファさんとはなんもないからな!それとレナもリサコと一緒に今日は王女様とお茶会して楽しんだんだろ?ならいいじゃないか。それにただ登録しただけで特に面白いことなんてなかったぞ」



 それぞれの今日の行動を話したまでは良かったのだが、何故か今は俺だけが集中的に攻められているような雰囲気になっていた。

 もうほんと各々好きなように動いていただけなんだから勘弁してくれよ。

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