第16話 魔法具整備
マジックウォッチ。それが今俺の右腕についている時計型端末の名称だ。
ウォッチとついているので時計としての役割はもちろんのこと、他にも一昔前まで使っていた携帯電話と同じような様々な機能を搭載している。
これも全て、魔法の存在があったからこそできた技術の一つだ。
そんなマジックウォッチにも種類があり、それが俺のこの腕についているものと手に持っているものの二種類だ。
この二つの違いは、単純に『電気での充電のみで動く代物』か『魔素での充電も可能とした代物』かというだけ。それだけのことではあるが、これは凄く大きな違いと言える。
電気の方は、その都度充電しなくては使い物にならない。それに対して魔素の方は、空気中に漂う魔素を勝手に吸い取りエネルギーに変換し、半永久的に使うことができてしまう。そして機能としても魔素の方が上である。
今の地球では、色々なものがその二種類存在している。
例えば、交通手段として使う自動車。
例えば、生活に必要になる家電製品。
他にも様々なものがそうである。
そして、今ではそれらのものを総称として『魔法具』と呼ぶようになっている。
異世界ではお馴染みな魔物の体内にあるという魔石。実はそれは元の世界にも存在していた。
確認されている数が今はまだ少なく、民間人に行き渡るほどの量が確保できないため、その存在は上によって秘匿されいる。
そんな魔石が、俺の腕についているマナウォッチにも使われている。
それが使われているか使われていないかが、魔法具の種類の大きな違いである。
これらの情報でわかるだろうが、実はこの魔石を使ったものは、一般には売られていない。
魔石使用のものを使っているのは、軍関係者の家や国の上層部の家だけである。
それなのに俺はその魔石使用のものを持っている。それも全て爺ちゃんのおかげだ。
これは国が極秘に開発したものではなく、爺ちゃんがその技術を盗んで作ったものだ。
今思うと爺ちゃんの家の設備もそうだが、結構すごいことをやっていた気がする。
一応子供のころにそれらの本は読んだことがあるし、爺ちゃんからその技術は叩き込まれている。
だからこそ、今俺はこの手元にあるものを改造して魔石を使用したものに変えようとしているわけだ。
「セイジ、そろそろできそう?」
話がひと段落したのか、ネリファラさんはこちらの手元を覗き込みながら声をかけてきた。
さっきまで分解されていたマナウォッチも、今では元通りの形になっていた。
「そうですね。ネリファラさんが魔法具製作用の道具を持っていてくれたので何とかできました」
改造に必要な道具は、何故か持っていたネリファラさんに借りることによって、なんとかこうして改造することができた。
ネリファラさんが言うには、冒険中に故障してしまった魔法具は自分たちで直すので、こういったものも持ち歩いているらしい。
一つ一つの道具はそこまで大きくないとはいえ、色々とあるのでさぞ嵩張ることだろう。
「もちろん嵩張るわよ。でも、それは冒険に必要なものだから仕方ないのよ。それにそれはラッズが運んでくれるしね」
「ラッズさんならこれぐらい大したことなさそうですもんね。リサコ、はいこれ」
改造の済んだマナウォッチを、俺は元の持ち主であるリサコに返した。
「ありがとう、セイジくん」
お礼を言って受け取ったリサコは、早速腕につけて使用していた。
その性能は、ただ魔素を吸って半永久的に使えるだけの性能だけではない。
「すごいわねコレ」
魔石を使うことによって、今までの性能よりも何段階もよくなっていた。
これに関して俺は、普段から魔石使用のものばかりしか使ってこなかったので知らないことだ。
「へぇ、そこまで違うものなのか。まぁ改造してる時、なんでこんな効率の悪い回路してるんだろって思うものとかあったけどさ。それでも基礎ができてたから、改造が楽にできてよかったよ」
そんな軽い感想しか出てこなかった俺や、単純に使いやすくなってすごいとしか思っていないリサコとは違う反応を見せた人物が一人いた。
「何よこれ!どんな風に作ったらこんなもの作れるのよ!」
「んにゃ?!」
そう、ネリファラさんだ。
そんなネリファラさんのその悲鳴にも近い叫び声のせいで、リサコの肩でぐっすり眠っていたはずのレナはびっくりして起きてしまった。
「魔物か?!」
「ふぁ~、どうしたんだよ~」
それだけではなく、テント内で寝ていたはずのラッズさんやリョウタたちまで起きてきてしまった。
それにしてもリョウタ、今でそんなんじゃ冒険者なんてなれないんじゃないか?もっと緊張感持とうぜ?
「いえ、魔物は出てきてません。ちょっとネリファラさんが驚いて声を荒げてしまっただけなので。すいません」
軽く事情を話し謝っておいたのだが、アルヴィンさんは起こされた腹いせかいらない一言を告げてテントに戻ろうとした。
「なんだよ、ネリファラのせいかよ。全く、胸がない以上に驚くことなんてないだろうに」
「あ゛?アルヴィン、燃やされたいの?今までの私と違ってあなたなんて一瞬で燃やし尽くすわよ?」
まさに一触即発。
俺やリサコは巻き込まれないように少し距離を取ったのだが、さすがパーティー仲間なだけはある。ラッズさんは物怖じせず二人の間に入って宥めて、アルヴィンさんをテントに戻して、ネリファラさんに話を聞き始めた。
「それで、ネリファラは何に対してそんな驚いたんだ?」
「それが聞いてよ。このセイジの腕についてるやつあるじゃない?それがね───」
そう言って俺の腕を持ちながら説明し始めた。
そのせいで、本来この時間は寝ているはずのラッズさんまで興味を持ってしまい一緒に夜の番をすることになってしまった。
◇ ◆ ◇
セイジたちが『赤鉄の絆』のメンバーと出会う前後数日の間に、各地でセイジたちと同じ異世界転移をしてきた人たちが保護され始めていた。
全ての国で彼ら彼女らの扱いが特別な賓客としてされている中、ある一つの国では違う扱いを受けていた。
その国の名前は、バルガン皇国。そこはセイジたちが、ネリファラから話を聞いていた時に出てきた国の名前だった。
「ふひ、異世界人は全部僕のものなんだもんね」
無駄に煌びやかな部屋に、無駄に肥え太った豚と見間違うほどの男がいた。その男こそバルガン皇国の王ブーデ・バルガンである。
ブーデの前には、衣服を一切身につけていない首に鎖をつけた数人の男たちがいた。全員体のあちこちには殴られたような後があり、口は喚かれないように猿轡がされている状態だった。
その男たちこそ、セイジたちと同じこの世界の人たちが呼んだ異世界人だった。
今回このバルガン皇国で見つかったのが男たちだけだったのだが、もしもその中に女が混じっていたら彼らとは違う意味で地獄を味わったかもしれない。
代々この国の王になるものは好色家が多く、この国の住人だけでなく他の国にまで知れわたっているようなことだからだ。
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