第15話 夜闇の作業
この一週間の最初の三日には、『赤鉄の絆』のメンバーの育成に関して実は終了していたりする。元々彼らには下地があったからそんなに長くなることもなかったのだ。
それなのに今もまだこの場所に留まっている理由。それは、この知らぬ間に勝手に繁殖しまくっていたゴブリンをどうにかしなくちゃいけないからというもの。
聞けばこの洞窟、人里より離れているとは言ってもそんなに凄い離れているわけではないらしい。
なので、もしこのままここのゴブリンを放置すると、仮にここからゴブリンが出てきた場合、近くにある小さな村や街なんかは簡単に飲み込まれてしまうのだとか。
少し離れたところにある領主のいる街は兵や騎士もいるので大丈夫らしい。
そこで民を守る冒険者としては見過ごせないということで、『赤鉄の絆』のパーティーのみんなは自分たちが強くなった力試しも含め、ゴブリン討伐をしていこうということになったのだった。
この世界の地理など知らない俺たちは、それに参加せざるを得ず今もこうやって付き合っているわけである。
「でも、さすがに四日狩り続けているだけあって、最初よりも数が減りましたね」
「そうね。これぐらいまで減ればもう安心ではあるわね」
「じゃあ、ようやく俺たち街に行けるんですね。さすがにこんな洞窟生活も飽き飽きしてましたし。よかったです」
俺たちがこの洞窟に飛ばされて二週間は経っている。その内の半分が、このゴブリン狩りのためのものだった。
それが必要なことだったのはわかるが、さすがにこんな生活が嫌になるには十分な時間過ごした。
中にはサバイバルとか冒険者としての生活とか言って楽しんでるのが約二名ほどいるが、それはそれである。
人間陽の光を浴びないで一生を過ごすなんてできない。
なので、俺はネリファラさんの案内で先に少しだけ外に出ることにした。
俺たちがいた洞窟の場所は、どうやら森の中にある丘、そこの斜面の途中に入口があったようだ。
きっと、そのせいで中はあんな地下に伸びていたんだろう。
それでも一つ謎なことがある。
それは、
「下に伸びていたのはこのせいなのはわかりましたが、何故あんなに地下の方は色々な部屋があったのでしょうか」
というもの。
そんな俺のちょっとした疑問にも、ネリファラさんは答えてくれた。
「もしかしたら、今こうしている間にもこの洞窟がダンジョン化しているんじゃないかしら?ここも魔素がそれなりに溜まっている場所だし、ありえない話じゃないわ。そうなると、ここに留まるのは危険かもしれないわね」
その回答は、俺がなんとなく予想していた通りのものであった。
この世界の中心には大きなダンジョンがある。それも最古と呼ばれるものが。
ならば、他にもダンジョンがあって当たり前。しかも、これから先新たなダンジョンが生まれるなんてことも想定できるわけだ。
そんな新たなダンジョンが今ちょうど俺たちのいたこの洞窟に生まれようとしているわけである。実際は生まれて成長途中といったところかもしれないが。
聞くところによると、ダンジョンは大量の魔素の結晶体であるダンジョンコアが生成されると、そのダンジョンコアが自我を持つかのようにそのダンジョンの中を作り替えていくらしい。
まぁこれも小説では定番の話である。
他にもダンジョンマスターや階層など色々とあるようだが、それらも知っているような内容だった。
小説の中だと、ダンジョン内の作り替えは基本的に人がいる場合は行えなかったり、人がいた場合には外に吐き出して行ったりするものとして描写されていたりするのだが、この世界のダンジョンはそんな都合のいいものじゃないらしい。
普通に人が探索していても中の構造を作り替えてきて、酷いとパーティーが分断されて全滅してしまうなんてこともあるとのこと。一応壁や天井などに飲み込まれ潰されるなんてことはないそうだ。そこだけは少し安心した。
俺とネリファラさんはすぐにみんなのところへ戻り、この洞窟から出る提案をすることにした。
ちょうどお昼時ということもあり、俺たちが戻った時にはみんな揃っていたようで。
「なるほど。確かに、言われてみればなんか構造が普通の洞窟にしてはおかしいな」
「えー、でも前にコボルト倒した時吸収?しなかったよ。ダンジョンって言ったら普通死んだ魔物とか人間を吸収して栄養にするもんじゃないの?」
「そんなことよく知ってるわね、レナ。確かあなたたちの世界には、ダンジョンも魔物もいないって話じゃなかったかしら?」
「うん、いないよ!でも、ライトノベルがあるからね。そういう知識はそこから得てるんだ」
「ライト…なに?」
アルヴィンとレディアさんの二人とレナが途中から話し始めたのだが、なんか脱線しかけているので少し修正をして進めた。
その後、昼食を呑気に食べてる場合ではないので、すぐに各自準備をして脱出することになった。
俺たちがちょうど上の階に着いた時、今まで通っていた通路が変化し始めた。
それはまるで生きているかのようにぐにゃりと曲がり歪んでいたりして、話に聞いてたようにあれで潰されるということは無さそうではあるが、地面が不安定なせいで立っているのも大変そうだった。あれでは突然壁ができてしまえば簡単に分断なんてされてしまうだろう。
「うわっ。なんだよあれ。あんなのに巻き込まれていたら俺たちもやばかったんじゃね?」
ちょうど俺と一緒に後ろを見ていたリョウタがそんなことを口にした。
それには俺もリサコたちも同意見だったので「あぁ、そうだな」と答えて、いつ今いる場所が同じようになるのかわからないので、すぐに外に向かうことにした。
俺たちが外に出るまで上の階の変化は激しくなく、出た直後も特にそこまで劇的な変化をする様子はなかった。
ネリファラさん曰く、成り立てのダンジョン内の変化はコアを守るためか、コア周りから順番に行われていくらしい。
それも過去に鉱山の最深部で作業をしていた数人の鉱夫の目の前でコアが生まれて、突然壁とか魔物とか色々と生み出されて襲われたという記述が存在しているから知っていたんだとか。その記述はどうやって残されたのか疑問だったが、運良く生きて出てくることができた一人が残したという話だ。
時々バチッと音を鳴らしながら弾ける焚き火を囲って、俺とネリファラさんとリサコとレナの四人は夜の番をしていた。
俺たちがあのダンジョン化し始めていた洞窟の外に出た時には外は少し暗くなり始めていて、さすがに今から無理に向かっても街には着けないということになったので、この森の中で野宿することになった。これも全て、ダンジョン化が思ったよりも早くに起こったせいである。
上の階は元々多くのゴブリンが生活できるぐらいには広く入り組んでいたのだが、それに加えてダンジョン化まで所々起き始めていたせいで、出るのに少し手間取ってしまったのだ。
そんなわけで今、俺たちは二回に分けて夜の番をすることになっている。
「この国以外で見つかっている異世界人の情報って、わかってたりするんですか?」
「私たちはここ最近ずっと捜索していたからわからないわ。それと今向かっている街でもたぶんわからないと思うわ。でも、貴方たちは結局この国の王城に行くのだし、その時に聞けばわかることよ」
「そうですか。ちなみに、王城に着いてすぐに奴隷にされて扱き使われるなんてことはないですよね?」
「あるわけないじゃない、そんなこと。……まぁ、バルガン皇国ならなくはない話だと思うけどね。あそこはきな臭い噂ばかり聞くしね」
リサコは情報収集と時間潰しのための雑談として、ネリファラさんに色々と聞いているようだ。
そのリサコの肩には、昼間にはしゃぎすぎて疲れてしまったのか、ダウンしているレナがぐっすりと眠っている。夜の番の意味……。
そして俺はというと、今そんな三人を横目にとある作業をしていた。
手元には俺の腕についているものと同じものがある。
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