第13話 転移事情と理由


 あれから数時間上の階の探索をしたが、色々と道が入り組んでいる上にちょこちょことゴブリンに遭遇してしまって時間が取られてしまい、思ったよりも探索範囲を広げることができなかった。

 まぁゴブリンだけではなくて、リョウタもその内の一つの原因でもあるのだが、それは今日だけだと割り切ることにして注意するだけに留めておいた。


 そうして、俺とリョウタは収穫がないままもう帰ってきているだろうリサコたちがいる拠点へと戻っていった。



 「それにしても、ゴブリンって全然大したことなかったな。やっぱ小説でも一番最初に登場して主人公に狩られる存在って感じでさ」


 「そうだな…。でも、普通に俺がいなかったらリョウタ一人では不意打ちとかでやられそうだけどな」


 「いやいや、今の俺だったらそんな簡単にやられはしねぇよ」



 そんなちょっとした雑談をしながら歩いていたら、気が付いた時には俺たちはもう拠点についていたのだった。

 そこでは俺の予想通りリサコとレナが既に戻ってきていたようで、俺たちが戻ってきたのを確認して声をかけてきた。ただ、その二人の近くにはいくら俺でも予想できなかった存在がいた。


 驚きはあったものの二人がなんともないのを見て話を聞いてみることにしたのだが、そこで色んなことがわかった。



 「それじゃあ、俺たちはあんたらの世界の都合で勝手にこの世界に呼ばれたってことか?」



 リョウタは怒っているわけではなく確認のために聞いたのだが、それを相手がどう受け取るかは別で、自分たちを探す依頼を受けてここに来たという冒険者のアルヴィンさんたちは、そのリョウタの聞き方で勘違いをしていて申し訳なさそうにしていた。



 「あー、リョウタの聞き方が悪かったと思いますが、リョウタは怒ってませんよ。むしろ異世界転移させられて喜んでる感じなのでこいつは。それとそこにいるレナも…ね」



 一応申し訳なさそうにしている四人のフォローということでそうやって言っておいたのだが、やっぱ自分たちの世界のことで勝手に呼び出したことに関しては悪いと思っているようで、そう言われても四人の態度は変わらなかった。


 フォローはしといたので後は好奇心旺盛な二人に四人の対応は任せて、俺は彼ら四人から与えられた情報を少し整理することにした。

 彼ら四人は、異世界系の話にはほぼ必ずと言っていいほど登場する冒険者というものらしく、同じ村出身の幼馴染同士で組んでいる『赤鉄の絆』という名前のパーティーだという。

 そのメンバーは、リーダーの剣を主体に戦うアルヴィンさん、その恋人である斥候を主にして短剣をメインに使うレディアさん、ある意味この人がリーダーな気もする魔法を主体に戦うネリファラさん、ちょっと寡黙な感じの盾を使いみんなを守るラッズさんの四人。

 アルヴィンさんは、最近流行りの追放系の小説に出てくるような屑な性格のリーダーではなく、情に厚いようなリーダーだった。

 レディアさんは、斥候を担当するらしいが、彼女の持つプロポーションが斥候らしくないというか、アルヴィンさんの趣味がわかるという感じの…まぁ素晴らしいものをお持ちのようである。

 ネリファラさんは、王都でも指折りの魔法使いの一人として君臨しているらしいのだが、リサコとレナの扱う魔法を見て少し自信を無くし始めているらしい。しかも彼女、レディアさんとは真逆な存在で、こう…ローブがストンと…いや、なんでもない。ただ、俺の斥候のイメージと魔法使いのイメージが逆っていうか。



 「何?」


 「いえ、何でもないです」



 気づかれたっ?!こわっ!


 気を取り直して、最後のラッズさんは、二種類の盾を使うようで、背中には大きな盾を背負い広い場所での戦闘や大型の魔物相手の時はそれを使い、今回のような狭い場所では片手で振り回せる小型の盾を使うようだ。


 四人の内最初の二人の情報が少ないのは、周りに人がいるから乳繰り合っていないとはいっても、恋人同士である二人が仲睦まじい感じなので、そんな情報しか入ってこなかったからだ。


 そして、俺たちがこの世界に呼ばれた理由となんでこんな場所に呼び出されたのかということだが、理由はよくある世界の危機だからだが内容は魔王が出現したからではない。

 この世界の真ん中にはとある大陸があり、その大陸の中心地には穴が開いている。そこは世界最古であり最も危険と言われているダンジョンがある場所で、最も危険だからこそそこはあまり探索されていない。それはそのダンジョンだけでなく、その大陸に棲む魔物も危険だから近づくのが大変というのも理由の一つになるかもしれないが。

 そんな危険なダンジョンが何十年、何百年と放置されれば起こる天災。それは小説などでも描かれることのあるスタンピードという大氾濫である。

 それがちょうど今、俺たちが呼ばれた年から数年以内で起こる可能性が高いという。

 そこで過去の文献に記されている異世界の強力な助っ人に頼ろうと召喚の儀が執り行われたという。

 しかし、その召喚の儀には欠点があって、それが俺たちがこの場所に飛ばされた理由らしい。

 こちらの世界に呼び出すことはできるのだが、その呼び出す場所の指定はできず、ランダムに呼び出すことになってしまうらしい。それも、呼び出す人数とかそういう指定もできないという。


 まぁこうやって頭の中で軽く整理するだけでも頭の痛い話であることがわかるのだが、それに加えてその呼び出されるという場所が人里からは遠く離れていて、魔物が出やすい森や洞窟、それにダンジョンなんかにも飛ばされることがあるという。

 この世界を救ってくれるかもしれないという存在が、呼び出されて飛ばされた先で真っ先に死ぬ可能性があるとかほんとふざけた話だ。


 各国が俺たち異世界人を保護するために動いているらしいが、発見された異世界人はその見つけた国が保護する決まりになっているようで、他の国に所属したいと思っても「はい、どうぞ」とは簡単にはいかないようだ。

 まぁそれはきっと、今の世界の危機が落ち着いた後の政治的な面で必要だからなんだろうけど、俺にとってはどうでもいいことだ。


 今後というのであれば、まずはここから早く出たい。


 が、そんな俺の望みはまさかの保護しに来たはずの人物によって阻止されてしまった。



 「ちょっと、貴方、セイジと言ったかしら!レナたちから聞いたわよ!彼女たちにあんな魔法教えたのは貴方なんですって?」


 「えっ、そうですけど?確かこちらの世界にも魔法ってありますよね?まさか悪影響でも?」


 「悪影響……そうね。悪影響ね。あんな私の全力の魔法と同じ威力の魔法をポンポンと出されてはね。ふふっふふふっ」



 『あ、これはめんどくさいやつだ』なんて思っていたら予想通りだった。



 「私にも教えなさい!私がレナたちと同等以上の水準になるまでね!」


 「え、それって戻ってから」


 「ここで今日からやるに決まってるでしょ!」


 「あ、はい」



 強く言い切られてしまった。その勢いのせいで俺も素直に返事をしてしまったし。


 『赤鉄の絆』のメンバーに救援アピールを込めて視線を送ってみたが、アルヴィンさんとレディアさんは相変わらず二人の世界に入っていて、ラッズさんはリョウタと話していてこちらを見ていないようだった。



 「セイジ、諦めなさい」



 あなたがそれを言うんですか、ネリファラさん。

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