第12話 行き止まり?リサコside
セイジくんたちは、話し合いが終わるとすぐに移動を始め探索に向かって行った。
正直頼られるというのは嬉しいことなのだが、私としてはまだまだ不安な気持ちもあったりする。だから本当はできればセイジくんが一緒にいてくれた方が安心だったりする。
「りっちゃん、もうこの壁壊してもいい?」
などと私が色々と考えていると、レナはいつもの調子で先に進んでもいいのか聞いてきた。
なんだかんだこの子がいると、セイジくんとは違う意味で安心感がある。そんな彼女は、私にとって有難い存在なんだと改めて思う。
「ええ、私たちも行きましょ」
そうして、レナの存在に助けられながら先に進むことにした。
結論から言うと通路の先には魔物はおらず、別の部屋や通路に繋がっているということもなかった。少し高低差などがある利用しにくい一本道というわけだ。
「えー、途中無駄に登ったりさせられたのに行き止まりなの~?」
レナがいつものように愚痴っているけれど、これに関しては私も少しレナと同意見だったりする。
ここに来るまでにちょっとした壁を登らされたりさせられたのだから、私もレナも上の階に行けると期待していた分これには落胆させられた。
実はここに着いてから壁に仕掛けがないかとか色々と二人で探したのだけれど、特に怪しいと思えるようなところはなく、私たちの探索はここで終わってしまっただった。
「りっちゃん、なんか聞こえない?」
そんな中、『諦めて戻ろうかな』なんて思い始めていた時に、レナが唐突にそんなことを言い出した。
何もないなら何もないで、私たちの脅威にはならないので良かったのでけれど、さすがに何かある場合は調べておかないと後々大変なことにもなりかねない。なので、私はレナが言った音が聞こえないか耳を澄ませてみた。
「……何も聞こえないわよ?」
しかし、私の耳には一切レナの言う音は聞こえてこなかった。
これももしかしたら適性属性による違いなのかもしれない。風に乗った音が聞き取りやすくなるとか。
「この壁の向こうかな?」
レナの示す壁は、私たちがちょうど辿り着いた行き止まりの壁の左側。
その壁に耳を当ててみても私には一切何も聞こえてくる気配はなく、とりあえずレナにどんな感じの音が聞こえてくるのか聞いてみた。
「ん~、金属が何かとぶつかり合うような音?…のような気がする」
レナの言う金属が何かとぶつかり合うような音など、普通ならこんなところで聞こえてくるわけがない。
例えばだけれど、私たちが今いるところとは反対側の方に向かったはずのセイジくんたちが、この壁の向こうにある通路に通じているところを歩いていて、ちょうど今ゴブリンと戦闘していたとしても、私たちが使うのは魔法であり金属類の武器などではなく、レナの言う音が聞こえてくることなんてない。
そうなると考えられるのは、あと二つの可能性。
一つは、魔物同士による戦い。これは、ゴブリン同士とかゴブリンとコボルトとか色々と組み合わせ的には考えられる。ただ、今のところゴブリンもコボルトも武器を持っている姿を見ていないので何とも言えない。
もう一つは、この世界の人と魔物の戦い。こっちの場合だと、この先にいるのは私たちの予想ではゴブリンになるので、もしかしたらその戦っている人たちは今危険な状況なのかもしれない。正直、こっちが本命だったりする。
私は、アニメやマンガといったのものは小さい頃、それこそ小学生とかの時に少し見ていた程度なのであまりわかっていないのだが、そういうのが好きなレナやセイジくんたちが言うには、二次創作の中でのゴブリンは繁殖力が強く同種じゃなくても性別が女であれば孕ませることができる生物なのだという。
もしこの先にいる人が女性で、今そんな女にとって恐ろしい生物と戦っているというのなら助けてあげなくちゃいけない。
ただ、それも勘違いで間違いだった場合……。
「りっちゃん、どうするの?この壁壊せるか試してみる?それとも気にせずに戻る?」
「そうね。どうせ外に出るには通らないといけない道なのだし…レナ、壊していいわ。でも、もしこの先にいるのが魔物だけで数も多かった場合は、すぐにこの壁を直して戻るわよ」
「りょーかい!んじゃ、行くよっ!」
そんな掛け声とともにレナは壁を破壊した。
◇ ◆ ◇
あれから二日間、休憩という休憩もないまま戦闘を繰り返している『赤鉄の絆』のメンバーたち。
一応の休みといえば、片側二人で対応していたのを片側一人ずつにして二人休ませるというくらいのこと。しかしそれも、ゴブリンたちの狡猾さの前では碌に休むこともできずにすぐに戦闘に参加させられてしまっていた。
そんな四人もさすがに疲れがピークなのか、誰も喋る気配はない。
睡眠も碌に取っていない状態で思考も既に鈍り始めていて、四人はなんでこんなにも必死になって戦っているのかわからないでいた。
そんな諦めと地獄が始まりそうになっていた時、突然彼らとゴブリンの間にある壁が大きな音を立てて崩れ去った。
「うわっ、結構ゴブリンがいるみたいだよ。どうする?戻る?」
「ちょっと待って、レナ。あそこ、人がいる。しかもやっぱ戦ってたみたい」
そこに現れたのは、彼ら『赤鉄の絆』が受けた依頼の探し人である異世界人であった。
この時思考は鈍ってはいたものの、それでもここが今危険な場所であることはわかっていた。そんな場所にいきなり現れた人物。しかも装備も碌にしていない女性二人。そんな姿を見てしまっては疲労がどうこうとか言ってる場合ではない。
ネリファラは今出せる全力の力を振り絞ってその二人に対して短い言葉で叫んだ。
「逃げてっ!」
そんなネリファラの叫びも虚しく、ゴブリンたちは新しい苗床が自分たちから来たと喜び、既に動き出していた。
もし、彼女たちがここに飛ばされた時の状態でこの場に来ていたら、『赤鉄の絆』のメンバーが想像してしまった結果になっていたことだろう。
「ギギャッ!」
「ぶっ飛べ!」
「ギュブッ」
先頭にいたゴブリンは歓びの声をあげて襲いかかろうとしたのだが、その襲いかかろうとした相手が悪く、逆にレナの風魔法によってぶっ飛ばされて壁に叩きつけられてしまった。
その風魔法は、ネリファラの全力と比べても遜色ない程の威力があり、後続のゴブリンたちも巻き込んで壁に叩きつけていた。
「なんか今一瞬鳥肌立ったんだけど。ゴブリンって見た目もそうだけど、やっぱ気持ち悪いね」
「そうね。とりあえずこっちはレナに任せて大丈夫かしら?私は反対側のあっちを片付けてくるわ」
「りょーかい!任せて!」
そんな軽いやり取りをして、二人はゴブリンたちを駆除していった。
まさか助けに来たはずの自分たちが、逆に助けられる側になるとは思っていなかったのか、それともただ単に疲れてしまったからなのか、『赤鉄の絆』の四人は呆然とリサコとレナの戦闘を眺めていた。
それから数分後にはゴブリンは全て片付けられていて、今この場に息のあるゴブリンは一匹もいない状態になった。
一応倒せるものは全て倒したのだが、途中で逃げ出してしまった個体も中にはいた。なので、ここに集まっていた全てを倒したわけではない。
それでも、そんな大量のゴブリンを相手に魔法を使っていた二人は、普通なら魔力切れが起きててもおかしくないのだが、そこはセイジが鍛えたので今も余裕がある程である。
「こっちは片付いたわ。レナ、そっちはどう?」
「こっちもオッケー!でも、何匹か逃げられちゃったけどね」
「まぁそれはいいわ。私だって全部倒したわけではないから。それよりも……」
リサコは、危険がなくなったから次の気になっていた方へと視線を向けるのだった。
それは先程、自分たちに対して危険を知らせて逃がそうとしてくれた存在であるネリファラたちである。
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