第11話 上はゴブリンの巣窟


 基礎は既に教えてできていたので、特に苦労することもなく三人の育成ができた気がする。かかった日数は三日と(レナが少しうるさかったので妥協も含まれているが)短い期間で最低限の水準まではいけたと思っている。


 そして後はどう分けてどこを探索していくか決めるだけなのだが…



 「ボクはセイジが見に行ったっていうあの穴の先がいい」


 「私はあそこの今塞いでいる通路の先が安全なのかどうか確認した方がいいと思うのだけれど」


 「俺としては早く魔法を使った戦闘をしたいから、レナとリサコの二人が襲われたっていうとこの奥に行ってみたい」



 と、こんな風に意見が分かれている。


 順番にレナの意見からだが、前にも言ったようにあの穴まで上がるのは普通に魔法が使えるからと言っても容易ではない。

 その点、適性属性である風魔法で最近は自分を浮かすことができるようになっているレナであれば、他の二人よりも苦労せずに穴に辿り着けるので、そういう意味ではレナがその先に行くというのは適任なのかもしれない。その代わり、その相方は必然的に俺になるし、また苦労して壁を登らないといけない。


 次にリサコの意見だが、これは今後もここを拠点として生活していく上で大事なことではあるので、俺も考えていたことだ。俺が行くかは別としても。

 それもあって俺の中ではリサコの意見は採用というか既に確定していたりする。


 そして最後にリョウタの意見だが、これは単に探索というよりただ自分の力を試したいというだけなので理由としては却下するところだが、正直あの先が本当にゴブリンの住処なのかどうかは確かめておきたいという気持ちもある。


 そう考えると、レナとリョウタどちらの意見を採用するのか決まってくる。



 「というわけで、リサコとリョウタの意見を採用しようと思う。次に…」


 「えー、なんでボクの意見は毎回却下なのさー」



 毎回ではない気がするけど、もう少し自分たちの安全面を考えるということはできないものなのか。

 そうは思うが、口には出さないで話を進める。



 「次に組み分けだが、魔法が使える時点で男だとか女だとかなんて関係がないので、冷静な判断ができるリサコと自分で言うのもあれだが、この中で一番強い俺が分かれることにして、あとの二人はお互いに元々仲の良い組み合わせということで、普通に男女で分かれることにする」



 これに関しては異論はないようで、三人からは何も言われなかった。

 その後の話は俺とリサコがメインにどちらがどちらに行くのかを話したが、これも特に異論が出ることもなく、俺とリョウタはリョウタが言ったゴブリンの出た通路の先に、リサコとレナはリサコの言ったこの部屋のもう一つの通路の先に決まった。


 リサコたちには危険があればすぐに戻って通路を塞ぐように言い、俺たちは移動をし探索を開始した。



 「この先にゴブリンがいるかもしれないんだよな?」


 「リサコたちがこの先から来たって言ってたからな。だが、ここに来る前にも言ったが、この世界のゴブリンが小説などに出てくるような生態だったら」


 「わかってるよ。ゴキブリ並に繁殖しているかもしれないんだろ?さすがに数で攻められたらきついしな」



 少しリョウタが楽観的だったのでそう言っておいたが、本人はわかっているというのでそれ以上は言わないことにした。

 最悪俺が頑張ればいいことだしな。


 それから五分ほど歩いただろうか。途中で軽い上り坂になっていたので、この通路の先は上へと続いていることが判明した。

 そして、その先には俺らの、というよりリョウタの望んでいたゴブリンが生息していた。



 「くらえ、ウォータージェット!!」



 今そんなゴブリン相手にリョウタは一人楽しそうに水遊びをしている。

 無駄に名前なんて付けて魔法を撃っているし。


 そんなリョウタと戯れているゴブリンは今ちょうど十匹目が、その水の威力に押されて壁にぶつかりお亡くなりになったところだ。

 出会いがしらこそ、数で勝っているからなのか余裕そうに何か言葉(ギィとかグギィとか)を発して凶悪な笑みを浮かべていたのだが、今では可哀そうにもう既に三分の二が壊滅している。

 そして残りのゴブリンたちは、逃げ腰のようで後ずさりしている。



 「おらぁ、逃げんじゃねぇ!」



 が、そんな逃走もゴブリンにとっての悪魔(リョウタ)の前では無意味だったのか、ものの数分で壁の染みへと変貌を遂げてしまった。



 「なんか楽しそうだな」


 「おう、やっと魔法がちゃんと使えるようになったんだからな。しかも地球では民間人が禁止されていた攻撃性の魔法がさ」



 リョウタの言っていることは俺も理解できる。子供の時の俺もそうだったから。

 それにしてもリョウタははしゃいでた気もするけどな。



 「それよりも魔力残量的にまだいけるのか?」


 「余裕余裕。俺そんな魔力の無駄使いしてないしな」



 本人的にはそう思うのだろうが、見ていた俺の意見としては結構無駄撃ちをしていたような気もしたが、本人が大丈夫というのであればいいか。



 「んじゃ、また探索を再開するか」



 そこから先はゴブリンとの遭遇戦だった。

 下よりも上の通路は狭くなっていて入り組んでいるので、俺が魔力をレーダーのように伸ばして索敵し、リョウタが倒すという役割分担をした。その甲斐あって苦戦は一切しなかったけど、その際無駄に声を出すリョウタのせいでゴブリンが集まってきてしまい一戦一戦が長引いてしまった。

 リョウタは、「ちまちま来られるよりはいいだろ」とか言ってたけど、イラっとしたので軽ーく毒を与えて苦しませてあげた。



 「おい、セイジ!戦闘中にあれはないだろ!危うく死ぬところだったぞ」


 「いやいや、身体強化をちゃんとしているのなら、あのくらいの打撃頭に受けない限り死なないよ」



 これに懲りたら無駄に叫ばないでもらいたい。


 そんなこんなで俺とリョウタの探索は思いのほか順調に進んで、ちょうどお昼になったので来た道を戻り砂地部屋で休憩をすることになった。



 「上はゴブリンしかいないな。しかも弱いやつばかり」


 「今のところはな。この先もしかしたら上位種とか出るかもしれないし油断だけはするなよ」


 「そう言うなら、もう毒はやめろよな。あれ地味にうぜぇんだよ」



 リョウタが地味という理由は、俺が本気で毒を使ってないからだ。実際その毒でリョウタは、少し体が痺れた程度だっただろうし。

 だけど、一緒に巻き込んだゴブリンには結構効いていたようだったので、午後の探索もそんな危険はないのかもしれない。リョウタには油断するなといったけれど、俺はそんなことを思ってしまっていた。

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