第10話 救出活動からの絶望
ご飯の時間になってみんなのところに戻った時に、砂地部屋の天井穴の先でのことを伝えておいた。
三人もこんな洞窟内で過ごすのは、さすがに嫌だったのか外に出られると知って喜んでいた。その時にレナが「早く出ようよ」と言っていたが、しっかりとリサコに俺の伝えたはずのゴブリンのことなどを再度言われて、渋々魔法の訓練を再開していた。
レナは俺の言うことは一切聞いてないのかな?
ついでにこの時に予想として、ゴブリンのいる上へと通じている通路が他にもあるかもしれないということを伝えておいたが、リサコだけはそれを先に考えていたのか同意してくれていた。
最悪を考えることは大事なことなので、この部屋の塞いだ通路がそうかもしれないと脅しておいた。主に二人に向けてだが。
上に行くにしても、通じているのが今わかっているのはあの穴だけなので結局は他の通路を探索しないといけないことになる。
「なら次からはみんなで探索しようよ!」
「レナのその意見は、正直俺としても助かる。が、どうせレナのことだから訓練で使うよりもゴブリン相手に魔法を使いたいとかそんな理由での発言だろ」
「ち、ちがうよ…」
あからさまに目を逸らしながら言われてもな。
まぁでも、今レナの意見に賛成したように、俺としては何かあった時のフォロー役として誰かいてくれると助かるのは確かだ。
「それなら次からは四人で探索するってことになるのかしら?」
「いや、できれば二人ずつに分かれて探索したい。理由としてはここがどのくらい広いのかがわからないからだ。ただそのためには三人の成長が必要不可欠になる。そんなわけで、これから数日間は探索はなしにして少し厳しめに訓練していこうと思う」
この俺の発言に一名ブーイングしていたが、そんなことはもちろんスルーしておいた。ただ、それに乗っかってふざけたリョウタだけは制裁を加えておいた。
少し厳しめとは言っても、やることは今までとそんな変わらない。
魔力操作をしたり、各々の耐性のレベルを上げたり、魔法の維持やコントロールなど色々と行っただけだ。
ただ、そこに少し対人戦闘を加えたに過ぎない。
「こんなの少しじゃないよ~。なんで魔力切れになるまで行うのさ…。しかもセイジは全力で魔法をぶつけてくるから魔力障壁が甘いと怪我だってしちゃうんだよ。もうちょっと手加減してくれてもいいじゃん」
と何回目だったかの時にレナが発言していた気がする。もしかしたら一回目だったかもしれない。そんなことを考えながら三人の面倒をみていった。
◇ ◆ ◇
「おいおい、こんなにゴブリンが湧いてるとこにいきなり召喚させられて生きてられるのか?」
「知らないわよ。生きていようが死んでいようが、私たちは依頼を遂行するだけよ」
そうやって口を動かしながらもしっかりと手も動かして近づいてきたゴブリンを倒している。彼らは、つい先日セイジたちがいる洞窟にやってきた冒険者たちである。
最初はまだ多くもないゴブリンに特に何も思わずに討伐して進んでいるだけであったのだが、奥に行くにつれて数が増えてきていることに今回受けた依頼内容的に少し不安になってきていた。
彼らが今回受けた依頼というのは、各国合意の元に行われた異世界からの召喚という大規模魔法儀式によって召喚されたであろう異世界人たちの保護である。
この大規模魔法儀式は、一時的とはいえ次元に穴を開ける行為なので各国の同意が必要であり、召喚も飛ばされる場所は指定できずにランダムに飛ばされてしまうので、素早く探し出して保護をしないといけないという。しかも、その保護は見つけた国が行うことができるので、召喚がされる前から各国は冒険者ギルドに対して国からの依頼が出されるほどのことで、報酬も結構いい金額が設定されていたりする。
ランダムに召喚されるとはいっても、大体の予想というか法則のようなものはわかっていて、まず人の生活圏よりも森や洞窟などの魔物が出るところによく召喚されやすく、最悪見つかった時には手遅れだったというケースも過去にはある。実際リョウタと同じ場所に飛ばされた人たちは、リョウタを残して全員コボルトに食い殺されてしまっているので、手遅れと言えば手遅れかもしれないが。
そんなわけで、依頼を受けた冒険者たちも気分良く終わらせるために、できるだけ早めに見つけてあげられるように頑張っている。
その一組が彼ら『赤鉄の絆』という名のパーティー四人だ。彼らは元々同じ村で育って組んだ所謂幼馴染パーティーというもので、パーティー名も小さい頃に冒険者ごっこをして遊んでた時に使っていたものを、リーダーであるアルディンが勝手にそのまま採用した。ネリファラとラッズがそれに気づいて物申した時にはもう手遅れで、そのパーティー名で登録されてしまったためにこうしてその名前で活動することになっている。
異世界人探索依頼は、捜索場所が被らないようにするため、この洞窟には今アルディン率いる『赤鉄の絆』しかいない。
しかし、この洞窟内にいるゴブリンの数はどう考えても彼らだけで対処するにはさすがに多すぎる。
「ちょっとどうするのよ!さすがにこのままじゃ異世界人を探し出す前に私たちが全滅するわよ!」
「わかってるよ!でも、下がろうにも下がれねぇだろ!」
そう、今彼らは前も後ろもゴブリンに囲まれている状態にある。なので、逃げようにも逃げられないというわけだ。
しかも、彼らはここに入る前に休息を取ったとはいえ、それ以降はずっと移動か戦闘を繰り返している。今のところはまだ一日程度動きっぱなしってだけだが、これが続けば集中力が切れ、最悪ネリファラの言うように全滅する。
もし全滅した場合、男は食料にされ女は苗床にされる。それが嫌だからこそネリファラは今懸命に魔法を放って牽制している。
ここで全力で撃たないのは、仮に全力で撃ったとしても、それで倒せるのは前にいるやつらだけで後ろにいるのは倒せないとわかっているからだ。
もしここにセイジがいたら首を傾げていたことだろう。
それはネリファラが手加減をしていることに対してではなく、その手加減があまりにもし過ぎなことに。
実はそれはし過ぎているわけではなく、それが彼女にとっての最高の手加減の威力である。
そして、その手加減をしていて撃てる残りの魔力量も、そろそろ底を尽きかけてきていたりする。
それでもネリファラは意識を飛ばさないように必死に集中していた。
ちなみに牽制程度でしか魔法を放っていないため、今のところゴブリンの被害は大したことはなかったりする。
反対側を担当しているアルディンもそれは同様だ。彼も余力を残しながら戦っているので、あまり多くは倒せていない。
そんな絶望とも言える状況の中で、四人の考えは一つにあった。
『このままでは、どんなに粘っていても全滅する未来しかない』
ということ。
ここで誰かが屑であったりすればよかったのだが、彼らは元々仲も良かったしそんな腐ってもいなかった。だからこそ、この中の誰かを犠牲にしてまでこの窮地を抜け出そうと考えるものは誰一人としていなかった。
そして、そんなネチネチとして粘りを彼らはそれから二日間続けることになる。
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