第8話 適性属性と耐性


 空から襲ってきたコウモリは、途中で黒い煙に包まれた直後に苦しみながら地面に落下した。そこに待ち受けていたのは自分自身の影、その影が自身に絡みついて身動きが取れないようになり次第に絞める力が増していき、それによって絶命した。



 「とまあこんな感じだな。わかったか?」


 「…うん。セイジには逆らわないことにする」



 今のちょっとした戦闘を見て、何を思ったのかレナはそんなよくわからない決意をしていた。

 もしかしたら、感覚派の嗅覚的な何かかもしれない。



 「レナのことは置いておいて。それよりもセイジくん。あの煙にはどんな効果があって、コウモリはあんなに苦しんでいたの?」


 「なんとなくわかっていると思うが、あれは毒だな。主に神経毒。とは言え、そんなに強力なものじゃないから、大型の生物にはそんなに効き目はないしな」


 「いやいや、それでもすげぇだろ。ぶっちゃけそれを使えるだけでも安全度が上がる気がするぞ」



 リョウタの言うように毒があるだけで、俺たちの今後の安全性は上がるとは思う。しかし、毒も毒で使い勝手が悪かったりもする。現に今も弱いとは言え、毒を使ったことを教えたから、三人はこのコウモリを食したいとあまり思っていないだろうし。

 そもそも、俺はこの洞窟に飛ばされる前からこれは使えていた。それなのに、今まで使おうとはしてこなかった。

 それだけでも何かしらあるんだろうと察してくれてもいいと思うのだが、三人中二人にその期待はしない方がいいのかもしれない。

 魔法が使えて、テンションが上がっているのはいいんだけどね。



 「それでその使い勝手の悪さって何かしら?」


 「まず、生物に使えば体内に残る。だから、より強力なものを使うと食べられるものである場合は、どんなに処理をしようがリサコたちが食べられなくなる。次にこの闇だけではなく他の魔法にも言えることだが、魔法は使えば少しの間その場に残る」



 これは口で言うよりも実際に体験してもらった方が確実に理解してもらえると思ったので、リサコに火魔法を壁に向かって放ってもらった。

 そしてある程度経った頃に、三人にはその壁へと歩いて近づいてもらった。



 「壁に近づけば近づくほど暑くないか?」


 「ボクもそれ思った」


 「そうかしら?私はまだ何とも思わないのだけど?」



 リョウタとレナが感じたのが、魔法がその場に残るということだ。今回は燃え移るようなものがなかったので火はすぐに消えて熱だけが残った。

 そしてこれが水ならこの洞窟であれば滑りやすくなっているだろうし、風なら洞窟内の風向きを少しの間変えれるだろう。俺がこの部屋の臭いを飛ばしたのもこれを使ったからだ。

 他にも土ならその場にその土くれが残るし、氷は溶けるまで残る、雷も生物に使えば痺れが残ったり、場所によっては連鎖的に放電したりする可能性もある。


 そして、リサコの場合二人とは違ってまだ平気そうに近づいているが、これが適性属性であると言える根拠でもある。

 適性属性には耐性というものがその人それぞれにあって、これも鍛えていけば今後の強みとなってくる。

 リサコの火であれば、今はある程度の距離なら耐えれるぐらいの熱耐性だと思うが。



 「さすがにこれ以上先は、私でもキツいわね」



 あのように。

 だがそれも鍛え極めれば、アニメなどでよくある『ふっ、俺にはそんな炎は効かん』など言って真正面から炎を受けても平然としていられることもできる。



 「それができたとしても、私は火魔法を正面から受ける気は絶対にないからね」


 「えー!なんで?それができたら絶対カッコイイと思うよ、ボクは」


 「私の生身の火への耐性が上がったとして、それは服も守れるのかしら?ねぇ、セイジくん」



 リサコの言うように服は別だ。

 それでもレナ辺りだったら、耐性があれば構わず突っ込みそうではある。



 「セイジ、その目はなに?もしかして、ボクだったら、とか考えてないよね?いくらボクでも服が燃えるんだったら受けようとはしないからね!」



 と供述しているが、真偽のほどは定かではない。



 「そんなことより、俺の水の場合どうなんだ?」


 「あ!ボクの風も!」



 リョウタは自分のが気になるのか聞いてきて、それにレナも便乗してきた。

 俺としては他の属性についても説明するつもりだったので、勿体ぶらずに教えてあげた。



 「水属性は水中での移動がしやすくなったりある程度呼吸ができるようになるらしい、風属性は風の抵抗を受けなくなるだったかな」


 「えー、なんか微妙」


 「だよな。水中移動とか呼吸とか、俺別に魚じゃねぇし。そんな役に立つ気がしねぇ」



 俺の説明を聞いたレナとリョウタは、自分の属性の耐性に不満があるようだった。

 それとリョウタが魚じゃないのは知ってるから。


 とりあえずリョウタは置いておくとして、レナに自分の耐性を実感させてあげることにした。


 三人には横一列に並んでもらい。俺はその三人から少し離れた正面に立って、そこから風魔法で少し強めの風を送ってみた。

 結果は、リョウタは吹っ飛び、リサコは魔力を足に集めていたのかなんとか踏ん張っていて、レナは少し風を感じているだけのようだった。

 この時にしっかりと身構えていたリサコは、さすがと言える。


 今回の体験で、レナも少しは自分の耐性の良さを知ってくれたと思う。

 だから、吹っ飛んだリョウタのことをあまり笑ってあげるな。



 「それで肝心のセイジくんの耐性は?」



 俺としては、闇属性のことは知っていても得することはないと思ったので教える気はなかった。だが、お互いに強みとなる耐性を知っておくことは、今後のことも考えれば大切だろうとリサコは言う。



 「別に隠すものでもないからいいんだけどな。ただ、知ってどうだってものでもないからな?」


 「わかったから、それで?」



 闇属性の主となるものは、状態異常などのデバフ関係。それも毒が主にだ。それの耐性ともなれば、考えなくてもわかること。

 しかも、それを鍛えるとなれば、



 「それって毒を自らの意思で飲むってこと?」


 「まぁそうなるな。あ、でも耐性が元々少しはあるからそんな苦しくはないぞ。それに鍛えていけば抗体もできて色んな毒に強くなれるし」



 それ以外にも闇適性の耐性を鍛えた人材の血液は、医療現場では役に立ったりもするし。

 何も悪いことだけではないのだが、それを言っても三人には受け入れられることでもなかったようだ。


 結局その日は各々の耐性を鍛えたりして、探索はせずに過ごすことになった。




 ◇ ◆ ◇




 セイジたちが洞窟の出口を探し回っている時、その洞窟の入口に四つの人影があった。



 「ホントにここにいたりするのかしら?」


 「そんなん俺様が知るかよ。それよりもこんな任務なんか早く終わらせて、レディアと宿でしっぽり休みたいぜ」


 「もぉ〜、アルディンったら。ネリファラとラッズがいるんだからそういうのは、あ・と・で。ね?」


 「……。ネリファラ行くか」


 「そうね」



 そんなやり取りをしながらも、その四人は油断なくその洞窟へと足を踏み入れていく。


 彼らの言う依頼の目的とは何なのか?

 いると言うのは、セイジたちのことか?それとも魔物のことなのか?

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