第7話 各々のイメージの仕方


 ここに最初に飛ばされた二人は気づかなかったようなのだが、砂地部屋の一部の天井に穴が空いているようで、見た感じではそこはまだ外とは言えない風景だった。

 多分あれは壁かなんかだろう。



 「ねぇ、セイジ。ボクには何も見えないよ?」



 俺が穴が空いている発言をしたからか、新田も必死になって探しているみたいなのだが、見つからないらしい。



 「そりゃあ、普通に見てても少し遠いし暗いから見えないよ。目に魔力を集中させて見てみな」



 そんな俺のアドバイスを聞いて試した新田は、最初は見えなかったその穴とか色々と見えるようになったのか、はしゃいでいた。

 そんな新田とは違って、俺は『もしかしたら、自分が思っているよりも、ここは深い場所なのかもしれないな』と考えていた。




 コボルトとコウモリの共存はなかったみたいで、今俺たちが拠点に設えた元コボルトの住処は、広々としていて俺たち四人からしたらだだっ広い空間を持て余している状態だった。


 あの後砂地部屋には他の発見はなかったので、すぐにリョウタと杵塚の元へと戻り引越し作業を再開した。その時に二人には、俺と新田の見た穴のこととかを伝えている。

 一人部屋からの引越しは、少しの食料と何かに使えるかもしれないと取ってあるコボルトやコウモリの皮や牙などの素材を持っていくので、今度はリョウタたち二人にも手伝ってもらった。男とか女とか今の魔力が使える俺たちには関係ないので、しっかりと平等に持ちながらである。


 俺としては男女二人で同じ空間に居させたので、少し大丈夫だったのか心配してもいたのだが、さすがに今の状況でリョウタも女を襲うような奴ではなかったみたいで少し安心した。


 引越し先の懸念点である臭いは、俺が三人よりも少し早めに先に行って風魔法で空気の流れを作って追い出したので、多少はマシになったと思う。それだけではなくて、予め砂地部屋から砂を持ってきていたので、それをリョウタの元隠れ家に被せもした。

 それでも余っている砂は、俺たちがそのまま地べたで寝ると体が痛いので床に敷くためにある。



 「あっちの通路は塞いじゃうのね」


 「まだ何があるかわからないからな。今度探索に行く時には開ける予定だけどな」


 「それまでには、私たちも魔法が使えるようにしておくから安心して」



 杵塚の言う私たちが杵塚とリョウタなのはわかるが、さすがにリョウタが一緒にってのは無理だと思う。杵塚のが先に魔力操作から離脱して実戦に投じられるのが早いだろう。


 引越してきたからそれで終わり。ではなく、各々の好きな場所に仕切りを作り部屋を設置して寝床を作った。

 それらの作業は全て俺任せになるが、そこは仕方がない。

 まだまともに魔法なんて俺以外使えないし。仕切り作りは土魔法を使わないといけないから。


 俺とリョウタは完全に個室にして、杵塚と新田は個室って言えば個室だが、隣接している部屋にした。



 「セイジ。そろそろ、ボクのこと新田じゃなくてレナって呼んでよ。前にも言ったけど、苗字で呼ばれるのってあんまり好きじゃないんだよね」



 各々の部屋の作成も終わり、これからのことについて話し合いをしていた時にそんなことを言われた。

 実際、初めて会った時にそんなことは言われていたのだが、あの時はまだ会って間もないし馴れ馴れしいのもなんだか嫌だったので、俺からは保留にしていたのだが、いい機会だということで俺たちは今後お互いに名前で呼び合うようになった。それはリョウタもリサコも含めてだ。


 今わかっていて行っていない道は、砂地部屋の一つ、その前にある広場の二つ、砂地と広場を繋ぐ通路の分かれ道のゴブリンの住処があるであろう一つ、そしてこの部屋の今は塞いでいる一つ。

 今わかっているだけでもこれだけある。

 そんな中で、まずはどこから探索していくのがいいか。



 「砂地部屋の通路にしようよ」



 一番に意見を受け付けていないはずのレナがそんな発言をしてきた。

 もちろん却下するけど。



 「探索もいいけれど、私としてはもう少し魔力操作や魔法の面倒を見てもらいたいのだけれど。私たちが魔法を使えるようになれば、少しは探索もしやすくなるだろうし」


 「それには俺も賛成だな。正直俺はさっきちょこっとやっただけで、まだよくわかってないしな。それに早く魔法が使えるようになりたい」



 俺やレナとは違い、リサコとリョウタは戦力増強を視野に入れているようだ。と一瞬思ったが、それはリサコだけかもしれない。

 リョウタのこの感じは、言葉の通りただ単に魔法を早く使いたいだけのように感じる。


 票としては分かれているのだが、リサコの言い分は理解できるので採用することになった。

 前にも言ったように、そんなすぐにここから抜け出せるなんて考えてないからな。


 レナは身体強化ができるようにはなったが、それもまだまだぎこちないのでそれもスムーズに行えるようにと、レナも一緒に訓練を再開することになった。

 本人は嫌そうではあったが。




 それから数日は、俺が監督して三人に俺の知っている魔法の知識を教えていった。それもある程度慣れてきたら、三人にはコウモリを相手に実戦しながらも魔法を使って慣らしてもらった。

 その時に狩ったコウモリは、もちろん美味しくいただいた。



 「ようやく全員、各種属性魔法まで使いこなせるようになったな」


 「そうね。それにしても属性魔法のイメージで、こうも皆の個性が出るとは思わなかったわ」



 リサコが言うように、俺たちの属性魔法のイメージの仕方は見事に違う。

 俺は以前に言ったように、色塗り感覚で付け加えていく。

 リサコは俺とは違って、ちゃんと化学原理を元にしての考えで行っているようだ。

 他の二人は似ていると言えば似ているのだが、リョウタはよくわからんが気合いで何とかしたようで、レナはボッと燃える感じとか何とか言ってた。

 この二人のことは理解できないので、感覚派なんだと思うことにして深くは追求しなかった。


 属性魔法といえば前に爺ちゃんの本に書いてあったことだが、個人によって適性属性があるという記述があった。

 当時は、全部の属性が使えたもんだから『そんなもん妄想だろ』って勝手に決めつけて思い込んでいたことだが、今こうして四人で比べてみると適性属性はあるのだと実感できる。


 リサコは火に適性があるらしく、それに加えて化学原理を軸にしているせいで、最大火力が半端ないことになる。

 レナは風に適性があって、元々体を動かすことが好きなのか得意なのかはわからないが、そこに風を纏うことによって爆発的な身体能力を発揮している。

 リョウタは俺が最初にぶっかけたのが原因ではないと思うが、適性は水だったようで、気合いで無駄にドバドバと出された時は俺たち三人からきつく説教を受けていた。

 そして最後に俺になるのだが、実は俺の場合みんなとは違って普通の火や水などの基礎属性ではない。

 俺の適性属性は、現代日本というより世界では戦争終結後からは禁忌とされているもので、分類としては闇属性とされている。



 「闇?なんだか厨二病臭いわね」


 「あー、うん。それは俺も一度思ったことがあるから、あまり言わないでくれ。だが、やろうと思えばリサコの火属性だって適性なら黒い炎にしたりすることもできるぞ?」



 リサコの言葉に若干ダメージを受けたので、お返しとばかりにそんなことを言っておいた。そんな俺たちのことはお構い無しなレナは話の続きを催促してきた。



 「それでその闇属性ってどんなのなの?」


 「簡単に言えば状態異常だな。黒い煙を発生させて目くらましをしたり、標的の体内に毒を侵入させたり色々ある。その中でも俺は影を操ることを好んで使っているけど」


 「影?状態異常なのに?」



 状態異常とは言ったが、それはわかりやすく説明するために簡単に言ったことであって、俺の適性である闇やそれと対になる光は基本的な属性とは少し違う。

 そもそも、状態異常自体は起こそうと思えば他の属性でもできることだ。火傷だったり脱水だったり。

 なので、闇や光の本質はまた別である。


 先に適性ではない光からだが、光のイメージと言えば治癒に直結しやすいと思うが、これは間違いではない。

 今の地球の専門医療では、光魔法を中心に現場が動いているのは確かだから。

 しかし、それ以外にも光には熱もあり、攻撃に使うこともできる。この光魔法による熱は、火魔法とは違って燃やすのではなく、浴びせ続けることにより対象を消失させることもできる。焼失ではなく、文字通りの消失だ。

 俺は光を使うことはできないので、実際に見たことはないけれど。


 そして次に俺の適性属性である闇だが、闇と言えばデバフとイメージはつきやすいことで、先程俺が状態異常と言った通りではあるのだが。

 それ以外にも影を操ることができる。



 「それはさっき聞いたよ」



 相変わらずレナはせっかちなようなので、口で説明するよりも実際に見せることにした。

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