第6話 引越し作業
見た目は汚いし臭いも酷かったので、水魔法で軽く洗い流した後に火魔法も加えてお湯をぶっかけまくった。
乱暴だと思われようとも、そうするしかなかった。
だって、最初に魔法を使って見せたら、急に汚物まみれで迫ってこようとしたんだから。
まだ少し臭いが残っているが、スッキリしたところでそろそろ本題に。
「リョウタはなんで」
「セイジ、お前魔法使えたのか?!」
出鼻をくじかれた。
ってまだ臭い!近づくな!
「まずはそこからか」
「……なんでそんな離れる必要があるんだ」
「言わないとわからないか?」
「……」
さすがに本人だからか俺の言わんとしていることわかってくれて、その追及はなかった。
「魔法が使えるのは、小さい頃に独学と爺ちゃんの指導を受けたからだ。以上。それで、本題だが」
「えっ、ちょっと待て。さすがに端折りすぎじゃね?」
「ここ獣臭いし、それにリョウタ、お前臭いから早くちゃんと洗いたいんだが?」
配慮のないその言葉に陥落したのかそれとも自分もちゃんと洗いたいと思っているからか、それっきりリョウタは無駄な発言をしようとしなかった。
俺がリョウタから聞きたかったことは一つだけ。
ここで何があったのか?ということ。
実際のところ、リョウタの口から聞かなくてもなんとなくわかってはいた。
先程の戦いで動き回っていた時に、俺たちの通っている清葉高校の制服の切れ端が落ちているのを目撃したから。それも幾つも。
そして、あんな普通なら隠れるにしても逃げ込みたくない場所に隠れていたリョウタを見れば、自ずと想像はついた。
それでもリョウタの口から聞いておこうと思って聞いたまでだ。
話の内容は予想通りで。そんな恐怖体験をしたからこそなのか、リョウタの髪は所々色素が抜け落ちていて、高校生になりたてだと言うのに白髪が多くなっている。
話していく内に少しずつ語気が荒げていったが、少し落ち着かせるためにもここからパムッカレ部屋に移動して、早くリョウタを洗ってあげることにした。その際には、パムッカレの水は使わずに俺の魔法でさっきとは違いきちんと身体中を洗わせる。
魔法をただぶっ放すのとそこに留めるのは、難易度的に結構差がある。
ぶっ放すのは、魔力を放出するだけでいい話なのだが。
留めるのは、水を手で掬い、それを少しでも零さないようにする感じと言えばわかるだろうか。一滴も隙間から零さないようにするなんて、ほぼ不可能に近い。
なので、留めようとすると結構疲れてしまう。
そこで、俺は逆に『零れてしまうなら零してしまえばいいじゃん』という考えにいたり、シャワーの要領(見た目は滝行)で上にお湯を生成して適度に落としている。
それがよかったのか、リョウタも上手く洗えているようだ。
そんな今のリョウタは、裸ではない。それは着ている服も全てがまだ汚いからだ。
「あー!体洗ってる!ずるーい!」
そんなタイミングで、杵塚と新田が現れた。
この二人は部屋に閉じ込めていたはずなのに、なんで外に出てきているのか。
それには理由があって、俺が魔力操作を教えた時に二人には、「この部屋のあの出入口を毎回土で塞いで行くが、もしそれを身体強化して破壊できるようになったなら、今度から二人にも一緒に探索に付き合ってもらうことにする」と伝えていたからだ。
それにしても早すぎやしませんか?
俺としてはもう少しかかると思っていたんだけどな。
早いなら早いでやれることは増えるので、俺としても有難いことなので素直に……喜んでおくことにしてやる。
「おう、案外早かったな。それで、どっちが壁壊したんだ?俺の予想としては、杵塚だと思うんだが」
「ブッブー、ハズレ〜。正解はボクでしたー!」
なんか新田のあの言い方ムカつくな。
それもこんな面倒なことをしているので尚更。
「あ、そう。それなら杵塚はまだってことだな?」
「そうね。レナは私と違って運動神経は良いから多分それでね」
「そういうことね。運動神経『は』良いからね」
新田のさっきのお返しとして少しバカにしてみたが、本人はそれよりもお湯のシャワー(滝行)が気になるようで気づいていない様子。
それよりも、今目の前でそのお湯を浴びている人物について触れてあげてもいいと俺は思うのだが、そこんとこどう思っているんだろうね。
「お湯も魅力的なのだけれど、それよりその人は?見たところ同じ学校の生徒のようだけど」
「あ!そう言われてみれば誰かいる!」
杵塚はやはりちゃんと聞いてきてくれた。それに比べて新田は……。
今は滝行もあるので、終わってからお互いに挨拶することにして、まずは軽く何があったのか俺が二人に説明した。
それでリョウタがどんな状態で今に至るのかを知った二人は、少し顔を歪ませて心なしか距離を取ったように思えたが、きっと俺の気のせいだろう。
「そう。もう既に八人も犠牲が出ているのね」
「リョウタの話だけならそうなるな」
少し暗い雰囲気に包まれたが、それもリョウタの洗浄が終わって霧散した。
リョウタの臭いは完全に霧散してくれてないみたいだが。それでもマシにはなっている。
話を逸らすためにお互い自己紹介をし、リョウタも俺たちと行動を共にするために拠点に連れて行くことにした。のも束の間、一つ問題が発生。
「思ったのだけれど、さすがにこの部屋を四人で使うには狭すぎない」
杵塚のご指摘のように、さすがに四人で生活するのにこの部屋では少しキツいものがある。
最初は俺一人だけだったからよかったが、こうなってしまっては引越しをせざるをえない。
とは言っても何処に引越すのかだが。
実はそれに関して検討している場所がある。
「リョウタには悪いと思っているんだが、それがここになる」
連れてきたのは、先程俺とリョウタがいたコボルトたちの住処だ。
さっきは獣臭いとか色々言って移動したが、実はここ元々先住者がいたからか、地均しされているところもあって住みやすいと言えば住みやすくなっている。
それに臭いだって、洞窟内は完全な密閉空間というわけではないので、時間が経てば薄まりいずれなくなるはず。
まぁそこは魔法という力技で解決する予定ではあるのだが。
そして次にリョウタが隠れていた場所の処理について。実はそこをどうしようか悩んでいたところだったのだが、ちょうど新田のおかげで何とかなりそうでよかったと安堵した。
元々ある物に関して、これも力技で土で覆って運び出そうと考えてはいたのだが、その運び込む場所を何処にしようかと悩んでいたのだ。
最有力な候補としては、杵塚と新田が最初に飛ばされた砂地部屋へ運んで埋めることだったのだが、如何せんここから遠い。仮にそこまで運べるにしても、途中でゴブリンと遭遇したら俺が危険にさらされてしまう。
それもあって元々引越しするのにも悩んでいたのだが、身体強化が使えるようになった新田のおかげで全てが解決することになった。
それらのことを三人に説明して、早速俺たちは引越し作業に取り掛かった。
とは言え、今回行動するのは俺と新田のみ。それまで残りの二人には元いた部屋で大人しく魔力操作の訓練でもしていてもらうことにした。
「新田、なぜそんなに離れて歩くんだ?」
「臭いから」
新田は道案内にしては頼りないので、予め杵塚に道順は聞いてきている。
なので、新田には先頭に立って歩いてもらわないで隣にいてもらおうとしたのだが、なぜか険しい顔をしながら俺より離れている。
その原因はわかっているが、俺も辛いので我慢してもらいたいものだ。
それから俺たちが砂地部屋に着くまでに、ゴブリンと遭遇することはなかった。
もしかしたら、コボルトの加護?が役に立ったのかな。
「セイジ、そんなバカなこと考えてなくていいから早く埋めて!」
「へいへい。それよりも警戒はしといてくれよ?」
「大丈夫、それは安心して!」
何が大丈夫なのかはわからないが、俺は俺ですぐに作業を終わらせた。
俺はここを自分の目で見てみたかったのもあり、すぐには戻らず少し探索してみることにした。
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