第5話 汚物まみれの救出
俺の名前は、羽柴 リョウタ。清葉高校に今年入学することができた、魔法を使うことを夢見る高校一年生だ。
そんな俺が今いるのは、なんか見たこともない犬の化物たちの排泄物場所だ。正直臭いし気持ち悪い。
だけど、ここから出るわけにはいかない。それもこれも全て外にいる犬の化物たちがいるからだ。
もしここから出た場合、俺はそいつらの餌になることが決まる。俺以外にいた同じ高校に通っていた同級生たちのように。
俺は元々ここにいたのではなく、最初は清葉高校の自分の教室にいた。
ちょうどその時は、俺が楽しみにしていた魔法の授業の後の休み時間で、魔法の授業が自分の思っていた内容とは違っていたので、仲の良い友達に愚痴を言っていたはずだった。
そんな時に誰が言ったかはわからないが、「異世界転移された方が」なんて言った直後にその兆候が表れて、俺たちはこのよくわからない場所に飛ばされてしまった。
そして俺が飛ばされてきた場所が、外にいる犬の化物の住処のど真ん中だったってわけだ。
その時に同じ場所に飛ばされてきた奴らも、俺と一緒で浮かれていたんだと思う。
まさか飛ばされた直後にゲームオーバーだなんて思わなかったんだから。
それは突然に。
そこにいた一人がその化物にいきなり襲われ食べられてしまった。バリボリと。それを見て聞いた俺たちはパニックになり、無秩序に逃げ回った。
まだ魔法も習ってなく力もない俺たちじゃ、どう頑張ってもそこにいた数を相手に戦えるなんて思わなかったから。
そうしている間に一人、また一人と奴らの餌食になり、俺だけはここに隠れることに成功して生き残っているというわけだ。
愚痴を言ったことを反省するし、異世界転移を喜んだことも謝る。だから元の世界に帰してくれ。
それか誰か頼む。俺を助けてくれ。
◇ ◆ ◇
二人の方は今のところ順調なようで、一週間以内には身体強化程度はできるだろう。
……ちっ。俺が子供の頃はあんなに苦労したというのに。
午後の予定は、俺としては二人が居たという砂地部屋を見てみたかったのだが、訓練に付き合えと言われたので渋々付き合うことに。
やるとしてもアドバイスをする程度のことだけなんだが、二人にはそれだけでも何もないよりかは有難いとのことだった。
「柊木くん。少しいいかな?」
「何?」
「昨日柊木くんがゴブリンを焼いてた魔法って、火魔法ってやつ?」
「そうだよ。それ以外にも水や土や風といった基礎属性がある。他にもあるけど、それを使えるかはその人次第だな」
「それならアニメとかである、火とかを纏うような魔法もできるの?」
昨日今日の付き合いではあるのだが、この発想がさすが新田だなって思ってしまう。
「まぁ、一応。ただし、全身に纏うなんてことはできないぞ。よくて拳とか足とかぐらいなもんだぞ」
「えぇー、全身に炎を纏うことってできないのー?」
「焼死体になりたいなら止めはしないが?」
新田はなんか子供みたいなことを言っていたが、俺のその一言によって静かになった。
隣で一緒に聞いていた杵塚は、少し顔を青くして静かに訓練に励んでいた。
本当は条件さえクリアすれば全身に纏うこともできるだが、今はそのことを伝える気はなかったので言わないでおいた。
それからは、適当にお互いのことやこれからのことについて話しながら時間が過ぎていった。
魔力とは案外便利なもので、動物のソナーのようなことも真似ることができたりする。それを俺は、毎回拠点から出る時には必ず使用することにしている。
今日も起きてから外に出る前にそれを行ったのだが。
「なんで居るんだ?昨日の俺の残り香でも辿ってきたのか?」
「ふぁ〜。そんなところでぶつくさ言ってどうしたの?」
美少女の寝起き姿は眼福ですね。今後一生見られるかわからないので目に焼き付けておきます。
ではなくて!
「いや、なんかこの部屋の前の通路に、コボルトが数匹居るみたいなんだよね」
「え、なんで!?」
「多分だけど、昨日俺がそっち方面に向かったのが原因なんじゃないかな?それで辿ってきたのかも」
「……そのコボルトは何とかできるの?」
「まぁ強さ的には大したことないけど、やっぱ犬だからか鼻がいいのか部屋の近くに居てね…」
どうしたものか。
土壁を解除して、魔法をぶっぱなしてもいいんだけど。それをした場合、出入口前にいる個体にしか意味がないし。
それなら、土壁解除後すぐに外に出て迎撃ってやってもいいけど、それをやると今度は少しでも隙を与えて中に入られたら二人を危険にさらしてしまう。
まだ二人の魔力操作は拙い。俺の小さい頃よりは上手いけど…ケッ。
なので、できれば中に引き入れることはしたくない。
相手がどのくらい居るのかわからないのに、持久戦なんて無謀なことしたくはないし。
さて、どうしたものか。
「しぇいじ〜、おはにょう」
うわっ、ここで起きてきたのか。タイミングの悪い新田だな。(この新田は蔑称です)
なぜ新田が起きてきたことが、タイミングの悪いに繋がるのか?
それはこいつが、
「せいじ〜、おトイレ行きたいから開けて〜」
朝は必ず起きたらトイレに行くと言うからだ。
昨日の朝に聞かされたことだ。
女子なんだからそんなことは教えなくてもいいと思うんだけどな。
んー、賭けではあるがやるだけやってみるか。
「トイレに行きたいのはわかった。その前にだが、新田に一つだけやってもらいたいことがある」
「ん〜?な〜に〜?」
寝起きではっきりと働いてない頭の新田にあまり期待はしていないが、できなきゃ自分が大変なことになるのでできるだけ必死にやってもらいたいと思いながらお願いした。
「魔力をできるだけ耳に集めて、耳の防護をして欲しい。もちろん杵塚もな」
確か犬は鼻だけでなく耳もよかったはず。
そこで俺は、今回音を使った魔法で撃退してみようと考えた。
これは成功できたらいいな程度の賭けなので、失敗したらすぐに違う魔法に切り替える予定だ。
「それじゃあ行くぞ。3、2、1、今!」
その合図で俺は、土壁を崩して音の魔法を発動させた。
そして、どうやら二人も耳を魔力で覆って護ることはできているようだった。
外の方はと言うと……。
「割とまだ生きてるんだな。でも瀕死には変わりないが」
音のせいで怯んだのか、多くのコボルトはその場で蹲って倒れていた。
後の処理は簡単だと、俺はすぐに身体強化して素早く息の根を止めた。
ざっと見た感じここに居たのは全部で十六匹。
さすがにこれで全部だとは思えない。なので、今後の安全のためにも潰しておく必要がある。
「ボクも行きたい」
「今はまだダメだ。あと何匹いるのかもわからないのに連れていくことはできない。正直足手まといになる気しかしない」
「柊木くんの言う通りね。レナ、今はとりあえず訓練でもしてましょ」
「は〜い」
新田のことは杵塚に任せておけば大丈夫そうだ。
そうと決まれば、早速殲滅に向かうとしよう。
そこにいたのは、思ってたよりも数が多かった。
俺が部屋に近づいた瞬間から気づかれていたのか襲われて、初手は相手に取られて少し苦戦をしてしまったが、身体強化を先にしていたのもあってなんとか持ち直すことができた。
近づいてくるのには、物理的に殴ったりしてできるだけ少ない打撃で沈めている。
まだ遠くにいるのには、主に風魔法を使って風の刃を飛ばして切り刻んでいる。
そんな戦闘が続いて、数匹、十数匹と数を減らしていくコボルトたちではあるが、まだまだいるようだ。
パッと見ではあるが、多分五十近くは居るんじゃないかと思う。
「もういっそのこと焼却処分にしようか?お前たち」
さすがにそろそろ真面目に相手をするのが面倒くさくなった俺は、そんなことを口にしながら睨みつけていたのだが、コボルトたちは、人が折角口を使ってるっていうのに、口ではなく拳で応えてくるみたいだった。
仮にも人のような姿をしてるんだから少しは会話もして欲しいものだよな。
なんて呑気に考えていたら、いきなり後ろから迫ってきていて、ビックリして咄嗟に反応したのはいいが力加減を間違えてしまった。
顔面グチャったけど、大丈夫か?
さっきから拳で語り合ってたんだけど、さすがに疲れてきたのでそろそろやっちゃいます。
魔法はイメージとはよく言うが、イメージは人それぞれ。
現代っ子なら化学で火の起こる原理を思い浮かべるのだろうが、俺はそれだと想像しにくかったので全然違う。そもそも、酸素が燃えて火がついたり強くなったりって、燃えるのに酸素だけが必要なのか?そこら辺勉強があまり好きではない俺はよくわからなくて想像できない。
なので、俺のイメージは無属性魔法に色をつけるって発想を行っている。
熱いのは体感できるからわかる。色は見えるからわかる。実態も見たことも触れたこともあるからわかる。
そういった様々な要素を組み込んで、一気に燃やす。
そうして、それまで俺に接近しようと迫っていたコボルトから次々に俺が生み出した炎に呑まれていった。
今ので約半分は消えたので、もうひと踏ん張りだ。
それから二十分。
やっとコボルトの殲滅が完了した。
焼くのは一瞬のくせに、こんなにも無駄に時間がかかってしまったのには、コボルトたちが原因である。
アイツら、形勢が不利だとわかるとすぐに逃げの姿勢を見せやがった。あるコボルトは通路へ走って鬼ごっこ始めようとするし、あるコボルトはこの部屋の中でかくれんぼを始めるしで結構大変だったのだ。
しかもここ、俺が通ってきた道とは別にもう一つあるので、俺は二ヶ所の出入口に神経を尖らせながらも隠れているコボルトを探さないといけなかったので疲れた。
まぁ今はそれも終わったので、コボルトの住処を見て回っているところだ。
そんな時、突然とある場所が動き崩れた。
それは今俺が『臭いから焼こうかな?でも焼いたら臭いが増しそうだな』って思っていた場所だ。
まさか伏兵がまだそんなところに隠れていたなんて思わなかった俺は、驚いて咄嗟に魔法を構築していたのだが、そこから現れた人物を見て発動まではしなかった。
「お前、リョウタなのか?」
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