第4話 魔法と国の内情
二人はここに飛ばされてから何も食べていなかったようで、危機を脱して緊張の糸が切れたからかお腹を盛大に鳴らしていたので、俺は気前よくご飯の提供をしてあげた。だが、俺が提供したのは不味くて食うのを諦めたコボルトの肉。
そんな不味い肉に文句を言いながらも、二人はちゃんと処理してくれた。
「うぅぅ、口の中にまだあの味が…」
「仕方ないだろ。あれぐらいしか食うもんなかったし」
もちろん嘘である。コウモリを仕留めてくれば、アレよりはマシなものが食えた。
でも、折角俺が必死に捌いたのだから食べなきゃ損だろ。俺は食いたくないけど。
「それで、魔法の使い方教えてくれるんでしょ?」
「あぁいいよ。ここを抜けるのに少しでも戦力があった方がいいしな」
「やったー!これでボクも魔法使えるようになるのか!」
さっきまであんなにコボルトの肉に文句を言ってたのに、レナは立ち直りが早いようだ。
そして、ボクっ娘だったと。
「あ、それだが、学校で先生が言ってたように、魔力操作が上手くできなきゃ魔法はちゃんと扱えないぞ」
「えぇー?!じゃあすぐに魔法が使えるようにはならないの?」
早く使えるようになる方法がないわけではない。
と言うか、学校で教える魔力操作自体が、学校でその後に教える防御魔法のようなものである。
魔力操作とは、言わば体内魔力を動かして魔力の動きを円滑に動かせるようにすることで。それをすることによって、魔法の発動を早くできるようにさせたり、魔力総量を増やすことができる。
防御魔法は、学校で教えるものは体の周りにその魔力の膜を張るものと教えられるのだが、実際は体内魔力を使いたい部位の筋力に流すことによって、内側から強化するもの。
なので、魔力操作をしていれば自ずと魔法も使えるようになる。
とは言え、筋力に魔力を流すのにも少し工夫がいるけど。
そこはやっていって慣れてもらうしかない。
「なるほど、そういうことなのね」
「うんうん。……リサコ、どういうこと?」
杵塚はわかってくれたようだが、新田はわかってくれなかったので、杵塚に任すことにする。
その日は結局探索はやめて、二人の魔法の面倒を見たり食料集め(もちろんコウモリ)をしたりした。
コウモリを食べた時に、二人から最初に口にしたコボルトの肉についての抗議があったがスルーした。
魔法なんて一日二日でできるようになるわけじゃない。むしろできたら俺がキレる。
そんなわけで、本日も二人は魔力操作と魔法の訓練だ。
「そういえばまだ教えてもらってなかったのだけれど、なんで柊木くんは魔法を使えたの?」
「あ〜、やっぱ気になるか」
「気になる!気になる!」
「別に大したことじゃないぞ」
そう、本当に大したことじゃない。
過去にあった戦争に参加して生き残ったのは俺の爺ちゃんだけじゃないだろうし、もしかしたらその人が俺の爺ちゃんと同じように魔法のことが書いてある本を所持しているかもしれないし。
そうじゃなくても、口伝で魔法を教えてる人がいるかもしれないしな。
それら全て国にバレたらその人たちが危険だけど。
「ふーん、そうだったんだ」
「なっ、大したことじゃないないだろ?」
「ねぇねぇ、なんで魔法って便利なのに小さい頃から使えるように勉強しないのかな?」
「はぁ〜。レナ、それは小学生で習ったでしょ?魔法は使い方によっては危険があるの。それをまだ年端もいかない子供に教えたら危険だからって」
リサコの言うように学校ではそう教わる。
「杵塚の言うようにそれもある。だけど、それは本質ではないぞ」
「えっ、どういう意味?」
「魔法は使い方によっては危険。それは間違いない。昨日二人が見たように、俺の使った魔法がもし仮に二人に向いたら?恐ろしいよな?だから間違いじゃない」
「それなら」
「でも、実際のところは、俺たち民間人に武器を持たせたくないんだよ。国の上の連中はな」
「だったら魔法なんて教えなくても」
「あー違う違う。魔法を教えること自体は別に怖くないんだよ。ただ、その教える時期を間違えると怖いってだけだよ」
魔力は、鍛えれば鍛えるだけ総量が増える。だけどそれにも限界というものがあり、その限界の決め手となるのが年齢だ。
魔力総量が増えるのは二十歳までと言われている。これは民間人には一切知らされていない情報。
そして、魔力総量が増え始める年齢は、ぶっちゃけ生まれた時からと言われているらしい。どうやって調べたのかは知らんけども。
これを知っている民間人は極一部だけだろう。だが、軍の上層部や国の上層部はみんな知っていることで、それらの役職は今の時代みんな世襲制だ。
国の上層部は昔からだったが、軍の上層部が世襲制になったのには、この魔力総量が関係してきている。
小さい頃から英才教育として、魔力操作のやり方や魔法を教えられて育てられている。
それじゃあ民間人との差が生まれても仕方ないよな。
「それなら、ボクたち民間人も親が子供に教えればいいんじゃないの?」
「あのなぁ……杵塚、こいつ大丈夫か?よく高校に入学できたな?」
「あはは……。まぁ、レナはこれでそこそこ頭良いからね」
「あ〜、二人ともボクのことバカにしてるな〜?」
レナの言うように、俺たち民間人も子供に教えることができたら苦労はしないんだよな。
今やどこの国でもそうだが、街の至る所に魔法を感知する魔法具が設置されていて、民間人が魔法を使おうものならすぐに探知されてしまう。それが不適切な使用であったのならば罰が科せられる。
「あれ?でもさ、それならなんでセイジは魔法の練習できたの?」
「それも爺ちゃんのおかげだよ。なんでも、その魔法具を誤魔化す魔法具を設置していたんだってさ。ちなみにその魔法具は国や軍の上層部の家に取り付けられているものと同じなんだとさ」
「ほえ〜。そんなものがあるんだ〜」
てか、シレッと下の名前で呼ばれた気がするんだが。
まぁいいか。
それから二人にはこの部屋で続きをやってもらって、俺一人だけで探索に出ることにした。
日はないが、お昼と夕方には戻ってくるのでそれまで頑張ってくれ。とだけ伝えたが、二人は俺と同じ魔力型の端末ではなく、子供でも使える電力型の端末だったので、いつ電力が切れるかわからないから俺が戻ってきた時が昼と夕方だと言っておいた。
本日やって来たのは、昨日の午前中に来たパムッカレ部屋にあった通路。
実はここもちゃんと他の道があって、二つ行き先があった。たぶん一つは、コボルトたちの住処に通じていると思う。強さ的には大したことないが、どのくらい居るのかわからないので、できればそちらの道にはまだ行きたくない。
フラグを立てた。なんて普通は思うだろう。
しかし、俺はどこかの誰かとは違い、そんなことは起こさない。
だが、そんなことを思って行動していた俺は後で悔やんだ。フラグを立てたのなら、そのまま突っ切るべきだったと。
その通路の先の部屋は岩がゴロゴロとしていてコウモリがやけに多い以外には特になく、当分の間ここは俺たちの食糧庫(放し飼いのコウモリ)とすることに決めた。
もしかしたら、昨日狩った時に一つ前の部屋にいたコボルトとコウモリは、水分補給のためだけにいたのかもしれない。
この部屋には他の道があるようには見えないので、コウモリを何匹か捕獲して一旦二人の元へと戻ることにした。
果たしてあれから魔力操作は順調にいっているのか。
「おかえりなさい。案外早かったのね」
「まぁそんな焦ってもすぐに出られるなんて思ってないしな。それよりも二人はどうなんだ?」
「んー、まぁぼちぼちってところかしら。昨日柊木くんが、私たちの体内魔力を動かして教えてくれたおかげで感覚は掴めているし」
「でもあれは少し恥ずかしかった。ボクたち変な声出ちゃったし」
「レナ、それを言うのはやめて。思い出してしまうから」
二人の言う体内魔力を動かすというのは、俺が二人の体に触れて魔力を少し流して、二人の中にある魔力に直接干渉したってだけだ。
ただその時の感覚がなんかくすぐったいやら気持ちいいやらで、二人ともなんかエロい声を出していた。
そのせいで、昨日の夜は寝れるまで悶々としてしまったのは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます