第3話 奇跡的な合流
あまり美味しいと言えない昼食を終えて、俺はまた洞窟内の探索を再開した。
午前中は右側を探し回ったが、午後は左側を探すことにする。
ちなみに右側の詳細となぜ時間がわかるのかに関してだが。まず簡単な時間に関しては、先程飛ばされた時に身につけていたものも一緒に飛ばされたからだ。なので、手元…というより手首に、昔で言う携帯電話のような時計型端末がついている。これは魔力を燃料として動かせるものなので、使い物にならなくなるなんてことはない。
爺ちゃんが、高校入学祝いにと俺にプレゼントしてくれたものである。
そして右側の詳細だが、それなりに歩いた先に結構広めの部屋があって、そこがヒエラポリスのパムッカレのように段々になっている水辺だった。
その近くにコボルト肉の味を緩和してくれた草が生えていたってわけだ。
特にそれ以外に魚がいた。とかそういうことはなかったので、俺的には何もなかったに等しい。コウモリは少し居たけどね。
そして、今は左側の通路の先に向かってる。こちらは反対側とは違って本当にただの広いだけの空洞のようだった。
少しだけではあるが、外に出られるんじゃないかと期待をしたのだが、期待はするもんじゃないな。
そこからさらにこの部屋の探索をしたところ。あまり見たくはなかったものを見つけてしまった。
「うわぁ……これって人の骨だよな」
そう、人だろうと思われる白骨体だ。しかも、その白骨体の惨状は、何かに食い荒らされたかのような状態だった。
予想としては、午前中に出くわしたコボルトとかコウモリだろう。
幸いそれは時間が結構経っているものだったので、ランダム転移させられた俺の学校の誰かのものってわけではなさそうだった。
仮にこの白骨体を襲ったのがコボルトでもコウモリでもないとしても、それがその二つの生物よりも危険な存在じゃないことを願うばかりだ。
「―――――」
そんなことを思っていた時に、俺の耳に微かに声が聞こえた。それが人の声なのか、洞窟に棲む生物の声なのかはわからないが、それは間違いなく聞こえた。
この部屋の出入口は、俺が今来たところを除いてあと三ヶ所ある。それのどれかから聞こえたはずなのだが、突然聞こえたものである上にその声はまだ遠かったのか小さかったので、どこの通路から聞こえたのか判断がつかない。
もう一度聞こえてくればいいのだが、なんて考えていたらその思いが通じたのかもう一度響いた。それも先程よりも鮮明に。
「―――やああ」
その声は明らかに悲鳴だった。それも人の。
その声がしたのは、俺が来たところを背に左手方向にある通路だった。
もしかしたら外に出られるかもと、その時の俺は深く考えずにその声がした方へと向かってしまった。
この時しっかり考えて行動していれば、悲鳴が聞こえてきた理由にも、その悲鳴が日本語であることも気づけたかもしれないのに。
悲鳴がしたその通路の先、その声の主はすぐに見つけることができた。
そこに居たのは、確かクラスメイトにいたような?いなかったような?女子二人だった。
声は一人分だけだと思っていたら、重なっていただけで二人分だったらしい。
その二人は今、もう走る気力もないのか壁に寄りかかって座っているようだ。そんな二人の目の前には、俺が最初に出くわすならコイツだろって思っていたゴブリンが三匹。
その光景を少し離れた位置から見て『このまま助けなかったら5Pかぁ。ゴブリンのくせに羨まけしからんな』などとバカなことを考えながらも、俺は魔法を発動させた。
今回の魔法は攻撃魔法にした。それも属性は付与させてない普通のやつ。異世界物の物語風で言うと、無属性魔法の分類になるのかもしれない。
ただの魔力の塊を放出しぶつけるだけだし。
ただ、俺たちの世界では、国のお偉いさんたちが決めたことだったので、攻撃、防御、治癒なんて分類にされていたけど。
俺の放った魔力の塊は、目の前のことしか目に入ってなかったゴブリンにはちょうどいい奇襲になったようで、気づいた時には吹っ飛んでいってた。
そんな姿を見て……なかった女子二人は、未だに状況を理解してないから二人抱き合って身を縮こまらせている。
魔力の塊がぶつかって飛んだゴブリンは、確か声をあげてたはずなんだけど、それすらも襲ってくる時の声にでも聞こえたのかもしれない。
さすがに距離があったので、少しだけ近づいて声をかけてみることにした。
「えーと……、大丈夫ですか?」
まだ入学してそんなに日が経っているわけでもないし、話したことがない女子になんて声をかければいいのか迷った挙句、そんな風に声をかけていた。
二人は、俺に声をかけられて最初ビクッと反応しただけだったが、聞こえてきた声がゴブリンのものとは違うのに気がついたのか、一人は恐る恐るではあるが顔を上げてくれた。
「あ…」
「何、あのゴブリンはどうしたの?まだ襲ってこないの?」
まだ顔を伏せてる方は、もう一人に今どうなっているのかを尋ねていた。
その問いに答えたのは、その女子ではなく俺だった。
「ゴブリン三匹は、今吹っ飛ばしたよ」
「「え?」」
顔を伏せていた方も今ので顔を上げてくれて、二人とも理解できないのか驚いき呆けていた。
「それでちょっと聞きたいことがあるんだけど……いいですか?」
「あ、はい」
まだ困惑気味なのか返事に戸惑いを感じるが、俺の話を聞いてくれるようで安心した。
「お二人は、どこにいたのか覚えてますか?」
「どこにいた…ですか?」
「学校にいたよ!それでその時に床がピカッて光って気がついたらよくわからない場所にいてさ!それでそれで」
最初に答えてくれたのは、ゴブリンを吹っ飛ばした時に顔をあげた方の女子。少しくせっ毛のあるセミロングの可愛い女の子だ。
ただ、まだ今の状況に脳が追いついていないのか、聞こえた言葉をそのまま繰り返しているだけのようだ。
もう一人の女子は、答えてくれたはくれたのだが、少し興奮気味なのかとりあえず片っ端から思いついたことを喋ってる感じで身振り手振りなんかもしている。
こちらの女子はショートカットでなんとなく活発的という印象を与える女子だ。もちろん可愛い。
いくつか質問をしてみたが、要領としては良くなかったのだが、ショートカット女子のおかげで色々となんとなくわかった。
この二人、俺と同じ学校の生徒で、セミロング女子は名前を杵塚 リサコといって俺と同じクラス。ショートカット女子は名前を新田 レナといって俺と杵塚の隣のクラスらしい。
杵塚と新田は元々中学が一緒で仲も良かった。それで高校は同じところを受験して入学してきたんだとか。
それで今日あの時は、杵塚が新田のクラスに遊びに行っていたらしく、そこで今回の事件に巻き込まれたという。
まさか俺のクラスだけじゃなく、隣のクラスまで転移に巻き込まれてるなんてな。
ちなみに、俺が聞きたかった「どこにいたのか」というのは、学校にいたってことではなく、「先程までどんな場所にいたのか」ということを聞きたかったわけだが。その答えもちゃんと聞くことはできた。
それに答えてくれたのは、要領の得ない新田ではなく落ち着きを取り戻した杵塚だったけど。
杵塚が言うには、そこは洞窟内ではあるが砂地の部屋だったらしく、とりあえずはその部屋をグルっと回って確認作業をしたらしい。
それで、その部屋には二ヶ所通路に繋がる出入口があるだけで、あとは特に何もない部屋だったらしい。それでまずは移動しようとなったのだが、どちらに進めばいいのかがわからず決めかねたので、新田に進路を決めるのを任せて進んだ。
そうしたら、その選んだ通路の先でまた二つの分かれ道になっていて、また新田に任せたはいいのだが、その先で先程のゴブリン三匹とかち合ってしまって逃げてきたという。その逃げた先がその二つの分かれ道の片方で、ここだったってわけだ。
ある意味で新田は、持ってる女子なのかもしれない。
俺は任せたいと思えないけど。
ゴブリン三匹は美味そうに見えなかったので、俺がきっちりと燃やして処理した。
その時に二人に「なんで魔法が使えるの?しかも攻撃魔法」なんて質問されたが、今は移動が先だと説得して俺の今の拠点に戻ることにした。
「それで柊木くんの拠点ってどこなの?」
「ここだよ」
「え、ここ通路のど真ん中だよ!?こんな場所で寝たりして大丈夫なの?」
「なわけないじゃん」
戻ってきたが、二人が言うように今は通路のど真ん中にいる。
俺が拠点にしようと決めたのは、俺が最初に倒れていた部屋だ。それなのに今は何もない通路の真ん中にいるわけだが、それも周りをよく観察すれば何でなのかわかること。
「あれ?ここの壁だけなんか違う?」
「そう言われてみれば、周りは淡く光ってるのにここの壁だけ光ってない」
まさかのレナが気づくのかよ。
そんなことを思ったが口には出さずに、俺は土魔法を解除して二人を中に入れてあげた。
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